14
「では、また夜に」
「ええ、後ほど」
日が傾きかけてきた頃、レティシアはアベルとそう言葉を交わして別れた。
二人の結論は一つ。自分たちで畑泥棒を捕まえよう、ということだ。
あれだけ大胆な犯行が、一度で終わるとは限らない。一度目が上手くいったからもう一度……と考えるだろう。
念のため、畑の周りに柵を立て、アベルが何やら仕掛けを施して、あとは畑に侵入する者をその場で捕まえるため、張り込みをするということになったのだ。
だがその約束を守るには、レティシアには大きな壁がある。
夕食だ。
遙か遠く離れた王都に転移魔法で戻り、風呂で泥を落とし、何食わぬ顔をして両親たちと食事を共にしなければならないのだ。でなければ、一日中部屋に閉じこもっているという嘘がバレてしまう。
さすがの両親も、まさか毎日あんなに離れた場所に『お出かけ』しているだろうとは、思いもよらないだろうから。
(やれやれ……仮謹慎生活も大変だわ)
非常に贅沢な悩みを零し、レティシアは再び王都にあるリール公爵邸の自室の床に降り立った。慣れ親しんだ風景ではあるが、転移魔法を使った後は必ず降り立った場所を確認するようにしている。
そうしてキョロキョロしていると、視界の外から何やらすごい衝撃が襲ってきた。
「お嬢様ぁぁぁ~!」
「うわ!? どうしたのよネリー?」
抱きついてきたのは、レティシアの居所を唯一知っている侍女・ネリーだった。何故か半べそをかいている。
「どうしましょうどうしましょう、お嬢様! セルジュ様が……」
「お兄様が?」
尋ね返すと同時に、ネリーが息をのんだ。
レティシアの背後で、部屋のドアが開いたのだ。扉は少しだけ開くと、すぐに閉まった。そして、レティシアとネリーと、入ってきた人物だけを部屋の中に残した。
その入ってきた人物……セルジュは、何も気にする風もなく、穏やかに微笑んでいた。
「おかえり、シア」
セルジュの視線が、レティシアの全身を上から下まで巡った。不躾ではあるが、致し方ない。
今のレティシアは農作業から戻ったばかりで、汗と泥まみれだ。とても貴族令嬢とは思えない。それどころか、謹慎していたようにも見えない。
何をしていたのか、詰問されてもおかしくないのに、セルジュは声を荒らげる気配がなかった。
「いったい、どこに行っていたんだい?」
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