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 太陽が真上に昇る頃、領主館では農作業とはまた違った賑やかな声が飛び交っていた。畑作業は一旦置いて、館の中庭で昼食を囲んでいるのだ。


 張り切って大鍋いっぱいに、どっさりの芋と、収穫量の増えた野菜を煮込んだスープとパンというささやかだけれど少し贅沢になった食事は、村人たちの心に余裕を生み出していた。


「そうそう。そんな風に添え木を立ててやると、うまいこと伸びてくれるんですよ」

「そうなのね……知らなかったわ。作物の育て方を記した本て、あまり見かけなくて……」

「本かぁ。やっぱり商家の娘さんは違うなぁ」


 そう言われて、レティシアは一瞬ぎくりと身を固くした。


 その素性をすべてさらけ出すわけにはいかない。

 ここでのレティシアは、『王都のさる裕福な商家の娘で、知人のツテで領地運営を勉強しに来ているアベルの客人・レティ』……ということになっている。


 色々と疑わしいことは百も承知だが、レティシアのこのバルニエ領での功績が著しいためか、皆あっさり信じてくれたのだった。


(王都なら、『女が学問するとは』なんて声高に言う貴族も未だにいるけれど……ここではそんな人はいないのね)


「学校でしっかり学んでいるんだなぁ……俺たちが教わったのは基本的な読み書きだけで、畑のことなんかは親から教わっただけだもんなぁ」

「その伝えられてきた技術が大事なんじゃないですか。それこそ、ご自身の経験によって会得された、唯一無二の宝です」


 レティシアが熱のこもった声でそう言うと、周りで聞いていた村人たちが全員、どこか照れくさそうに笑った。


「いやでも、俺らにはこれは作れねえからなぁ。やっぱりレティさんやアベル様みたいに、ちゃーんと勉強した人はスゲえよ」


 そう言った村人の手には、真っ青な小瓶がある。


「アベル様が開発してくださったこの肥料薬のおかげで、よく育ってますからな。前は収穫したものでどうやって食いつなぐか必死だったのに、今じゃ人手が足りないくらいだ」


 この肥料薬というのは、アベルが開発した……ことになっているが、原料はレティシアの魔力だ。ここに来る度に魔力を抽出し、薬に変えて領民に配っているらしい。


 だが、そのことを知る者はアベルとレオナール以外はいない。


 レティシアへ向けた感謝の念ではないが、遠回しにお礼を言われているようで、レティシアはむず痒そうな笑みを浮かべた。


「レティさんは王都から来たんだろ? やっぱり良い学校に通ってたのかい?」

「え? えぇ、まぁ……学校には、通っていました」


 嘘ではない。それが貴族の子女が集う学校だと明かせないだけだ。

 あと、卒業時に色々とゴタゴタしたこともあって、できるだけぼやかしたいだけだ。


「そうかそうか。やっぱり王都は色々と整ってんだなぁ。アベル様も王都で一番の学校に通ってらしたって言うし」

「王都で一番……王立学院のことでしょうか?」

「ああ、そうそう。それだ。普段、自分のことはあんまり話してくれねえんだけど、酔っ払った時にぽそっとそんなこと言ってたんだ、アベル様」

「へぇ……もしかしてアベル様、お酒に弱いの?」

「ああ、苦手みたいだな。だからいつも、ものすごーく薄めた葡萄酒ばっかり飲んで……」

「何の話だ」

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