第5章 愛と結婚と葛藤
第27話 子授け神社で四つの試練に挑む
三日月が三つ並んだ夜。
そろそろ寝ようかと思ったタイミングでノックの音がした。出てみると、ワイファがバスローブ姿で立っていて、胸元を開けてシースルーの下着をチラ見せしてきた。
「レッドは見ちゃダメ!」
中にいたドラゴンを部屋から追い出して、ワイファを招き入れる。いつも身につけているペンダントも急いで外した。
《なんだよ、ちょっと位いいじゃんか!》
宝石箱にしまうと、ブツブツ文句をつけるスカイブルーの声が遠くなった。ドキドキしながらワイファとベッドに並んで座る。
白魚のような手が伸びてきて、寝巻きを脱がしてくる。
「あの、こういう事はまだ早いって」
「もう時間がないの」
あっという間に全部脱がされて、ベッドに寝かされる。
そりゃ夫婦なんだから、いやらしい事をするのは当たり前の事なんだろうけど、ムードとか、心の準備とか。
「
「そんな……」
「それでもわたし、姫ちゃんの赤ちゃん産みたい」
綺麗な瞳に射抜かれながら、降ってくる口付けを受け入れる。ワイファの体は熱くて、どこもかしこも柔らかかった。
翌朝、ワイファに抱かれながら目を覚ました。
甘い匂いの中でぼんやり考える。ディアブロさんが言っていたな。子供を授けてくれる神社があるって。
「姫ちゃん……おはよう」
「おはよう。ねえワイファ。今日デートしよう、そして今夜もエッチしよう」
「まあ、姫ちゃんたら。そんなに良かった?」
「うん……すごく」
「ふふふ、じゃあもっと張り切っちゃうわ」
手を繋いでお風呂に行き、着替えてから食堂に向かったんだけど、フリーとキョウ君にジーッと見られた。ちょっとだけ気まずい。
食事の間も見られ続けて、何らかの罰を受けている気分になる。
視線から逃げるように、メイド長さんに報告をして外に出た。黒いドラゴンに一礼をして、二人乗りをさせてもらう。
「ヴィヴィさん、神社までお願いします」
太陽が眠そうに上がってくる朝の空気の中、風を切るのは気持ちがいい。後ろからぎゅっと抱きしめてくれるワイファの体温が心地いい。
「姫ちゃん。神社ってことは、元気な赤ちゃんが生まれるように祈るのね?」
「四つ子を授かった人もいるから、覚悟しておいてね」
「ふふふ、賑やかになるわね」
白い丸石に囲まれた、こじんまりとした神社だ。
他にも二組のカップルが居た。マッチョ男と細い女性。トリ男と小さい女性。それぞれ真剣に祈りを捧げている。
専用の花を買って、二人一緒にお供えをした。
元気な赤ちゃんを授かりますように。
すると、突然足元がバカッと動いて滑り台になり、悲鳴をあげながら抱きつくワイファと共に、神社の下に吸い込まれた。
落ちた先には、先程のカップルもいた。
目の前には洞窟があり、看板が掲げてある。
【四つの試練を突破した夫婦に、子供を授ける】
洞窟を進んで行くと、鋭利なトゲがこれでもかとむき出しになっている薔薇の通路に出た。
少し触れるだけで怪我をしてしまう。歩ける範囲が一人分しかない。
【第一の試練。二人同時にゴールせよ】
「簡単じゃあ!」
マッチョ男は妻をお姫様抱っこしてゴール。トリ男は妻を掴んで飛んでゴールした。ぼくもワイファをおんぶして通ろうと思ったけど──。
「息があがってるわ、無理しないで」
「だ、だい、じょうぶ」
「大丈夫じゃないわよ。しょうがないわね」
ワイファが降りたと思ったら、逆にぼくを背中に乗せて通路を歩き出した。全然重くないといった雰囲気だ。うう、ゴール出来たけど情けない。
【第二の試練。向こう岸まで渡りきれ】
次は、岩で囲まれた場所に出た。
うなりをあげる水流。小さなボートが設置されて、ワニが数体こっちを見ている。
「楽勝楽勝!」
マッチョ男が妻を肩車して、水の中をズンズン進んでいく。ワニに襲われても殴り飛ばして進んでクリアした。
トリ男はやはり妻を掴んで飛んでクリアした。
翼があるのってやっぱり強いな。
ここはマッチョ男に倣って、スカイブルーでワニを斬りまくってクリアしよう。
あれ、無い。
そうだ。昨日の夜に外したままだ。
「姫ちゃんはボートを操縦して。ワニはみーにお任せよ!」
言われるがままにオールを漕いでいくと、ワイファは出てくるワニ全てと話し合いで解決して、一切襲われること無くクリアできた。
「すごい、何を話したの?」
「この子達、しばらくお水を取り替えてもらえていないんだって。だから新しい水をあげるの」
ワイファは水魔法で滝を作り出した。
ワニたちは大喜びで飛び跳ねて、ワイファに感謝の気持ちを表している。
【第三の試練。
「待ってましたあ!」
様々な武器を持って迫りくるゴーレムをマッチョ男は拳で壊しまくってクリア。トリ男は羽を動かして風圧で粉砕してクリア。ぼくたちは……
「みんなお眠りなさーい」
ワイファの水魔法で一気に押し流してクリア。
ここまで全くいい所を見せていない。きっと夫が頼りになるところを見せる試練のはずなのに。
先に進もうとする足が止まる。
「姫ちゃん?」
「ごめんなさい、ぼく、役立たずで……」
スカイブルーが手元に無いと何も出来ないのだと思い知らされる。こんなんで魔王だなんて笑わせる。
ワイファが近寄って、手を握ってきた。
「今日のみー、いつもより輝いていると思わない?」
「うん。すごいよ」
「それはね、姫ちゃんにいい所を見せたいからよ。一人だとこうはいかないわ」
「ワイファ……」
「だからね、姫ちゃんがするべき事は、落ち込むことなんかじゃないの!」
薄桃色のキレイな目が近づいてきて、キスされた。
「いっぱい、みーに惚れ直して?」
ウインク付きの笑顔があまりにも可愛くて、吸い寄せられるように抱き合った。ワイファの甘い匂いにうっとりしていたら、遠くから岩壁を叩く音がした。
「誰のおかげで食ってけると思ってんだ!」
「あ、あんたなんか、一人じゃ何にも、で、できない、くせに」
マッチョ男がイライラした様子で壁を叩き、細身の奥さんがビクッと震える。その近くでトリ男が小さい奥さんにキレ散らかしている。
「浮気ぐらい見逃すのがいい妻だろうが!」
「限度がある。五人はいる!」
先に行った二組の夫婦の猛喧嘩。今まで上手くいっていたのに、いったい何が?
見上げた看板に記されていたのはこうだ。
【最終試練。相手の嫌いなところを三つ挙げよ】
これが原因か。
奥さんたちはずっと我慢していた事をぶちまけて、旦那さんがそれを許せないのだろう。
「「「もう離婚だ!」」」
その言葉が合図となり、四人の足元が滑り台になって、更に下に落ちて行った。
ワイファは、ぼくに何を言うのかな。
「じゃあ、みーからね。姫ちゃんは背が低くて、筋肉が足りなくて、芸術を理解できていないわ」
「ぐうの音も出ない」
「ふふふ、でもね。まだ若いから仕方ないわ。これからメキメキ成長して、いつかお姫様抱っこをしてね」
「ワイファ、ありがとう」
「お次どうぞ。何を言われても平気よ」
「じゃあ遠慮なく……ワイファは掃除が下手で、料理も下手で、興味のない話を聞くとすぐ寝ちゃうのがたまにキズ」
「痛くもかゆくもないわ」
「ずっと癒し系だと思っていたけど、今日で認識を改めた。ワイファは、おんぶしてくれるし、ワニと話し合いできるし、ゴーレムも倒せる。優しくて頼もしい最高の奥さんだよ!」
「もう、姫ちゃんたら!」
勢い余ったワイファに抱き上げられてクルクル回されていたら、ゴゴンと音がして地上に続いている階段が現れた。
二段上がって、ワイファに手を伸ばす。
「すぐにこれぐらいになるから、待っててね」
「期待しているわ」
手を繋いで上がっていくと、途中で神々しく光る誰かがいた。眩し過ぎてよく見えないけど、きっと神社の主さんだろう。
頭を下げると、落ち着いた声をかけられた。
「祝福を授けよう。良き親になるが良い」
光が消えて、残りの階段を登っていく。お昼前に神社に着いたはずなのに、もう夕暮れ時になっていた。
「結構長くいたんだね」
「お昼食べ損ねちゃったわね」
「帰ろうか、そして夕ご飯をたくさん食べよう」
退屈そうに寝ていたヴィヴィさんを起こして、お城まで二人乗りで帰っていく。行く時よりずっと好きになったワイファと共に。
その夜は、お互いちょっと張り切りすぎた。
次の日なかなか起きれなくて、メイド長さんに叱られる程に。
後日。
祝福の通りに、ワイファは身籠った。
人魚の妊娠期間はとても短かかった。わずか二十日ほどで、庭のプールの中で泡に包まれた赤ちゃんが産まれた。
ワイファが手に乗せてキスをすると、泡はパンと割れて、元気な産声を上げた。桃色の髪をした男の子。
名前は二人で決めた。
第一王子パステル=ピンク。
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