第3話 音痴な人魚と一緒に、銃使いの勇者を討伐せよ!
魔界の各地に存在する、人間界と繋がっている洞窟。そこから人間がやってきて暴れる事件が多発している。被害を減らす為にも、洞窟内のトラップや
魔王の影武者として!
「姫、髪を赤く染めてどちらに?」
「ちょっと北の洞窟街に」
「えー有名な観光地じゃなーい。
「メガと!」「ギガも!」
そして人魚警備団によるゲーム対決が始まった。裏返しのカードを順番にめくっていき、絵柄が合えば自分のものに出来るもの。
「女の子と出かける時って、何かルールある?」
《それを武器に聞くなよ。まあ相手の服を褒めて、よく話を聞いて、好きそうなメシ屋に入って明るい内に解散しとけ。会計は男がするんだぜ》
優勝はフリーのお姉さんのワイファ。魔法であっという間に着替えてみせた。レモン色のワンピースに花柄のボレロを付けている。白い麦わら帽子の下で薄桃色の長い髪がサラサラと風に揺れている。
「すごくキレイです」
「ありがとう〜。でも敬語は無し、ワイファって呼んで」
羽パンダのライライに大きめの花をあげて、二人乗りをお願いする。バサッと広がった天使の羽は眩しく光り、フワッと宙に浮かび上がる。
「すごい、みー空を飛んだ初めての人魚かも!」
しばらく行くと、栄えている街が見えてきた。
北の洞窟街。侵入者とすぐに戦えるように門番ケルベロスが配備されて、その家族を目当てにした店が数多く並んでいる。
「これかわいいー!」
ワイファは服屋でたくさん試着し、ぼくの分も選んでくれた。お説教イヤイヤモードが付いているイヤーマフ。メイド長に叱られる時に使おう。
名物だという八面鳥のサンドイッチをベンチに並んで食べる事にする。とそこへ、ウサギ耳の小さな女の子がやってきた。
「ご一緒に絞りたてのジュースはいかがですか?」
二人分の代金を払うと、笑顔でお礼をして去って行った。すでに幸せそうに舌鼓を打っているワイファに渡す。
「色々買ってくれてありがとう。高くなかった?」
「魔王の助手だから、これぐらい平気」
「偉いわ、その若さでちゃんと働いていて。みーはね、何にも取り柄がないの。羨ましいな」
ワイファは、料理も裁縫も貝殻アクセサリー作りも苦手で、部屋も片付けられず、なんでも妹に任せきりだと語った。
「中でも一番ヒドイのは、歌なの」
「意外だな、鈴が鳴るみたいな声をしているのに」
「皆に嫌がられちゃって、海底でこっそり歌ってるんだけど、このあいだ通りがかったカブトガニが爆発しちゃって」
怖いけどちょっと聞いてみたい。そう思いながら美味しいジュースを飲んでいたら──
轟音が鳴り響いた。
雷の弾丸が近くの街灯を貫く。
甲高い悲鳴が上がり、見に行くと先程のジュース売りの女の子が倒れていた。下敷きになっているのを二人がかりで救出する。
「痛いよぉ、ママぁ……」
お姫様抱っこで草原まで連れていく。ゆっくり治したいところだけど、まだ轟音は続いている。治癒の花冠を作り出して、ワイファに治療をお願いした。
元を絶たないと、いくら回復してもキリが無い。
〈勇者が現れました。係員に従い避難してください〉
魔法で声を大きく出来る機械から、避難勧告が出ている。固い建造物の陰から覗きこむと、二人組の勇者が大きな銃を構えているのが見えた。
足元には体を蜂の巣にされた門番ケルベロスが転がっている。
「帰れ、ここは俺たちの街だ!」
串揚げ屋さんがサイの姿に変わって突撃し、一斉に射撃されて、立派な角を破壊されて倒れ込む。あの威力は脅威だ。
スカイブルーは剣だから、近づけなければ何も出来ない。
《この距離なら十秒は欲しいな》
洞窟を背に、銃を構えて警戒している相手にどうやって隙を作ったらいいんだろう。ヒゲのおじさんが両手を上げて近付き、撃たれてうずくまる。
「逃げましょう」
こっそりワイファが背後に来ていた。青白い顔をして、手がブルブル震えている。どうしよう。レッド、君ならどうするの。
敵は銃を持っている。話し合いは無理。十秒ほど隙を作れる手段は無いだろうか。
たとえば驚かせるとか……。
「ワイファ、歌って!」
「こんな場所で?」
「魔法で声が大きくなる機械の場所まで行って、思いっきり歌ってほしい。どうしても今、君の歌を聞きたいんだ!」
「分かったわ、あなたの為に歌うわ!」
イチかバチかの作戦。こうしている間にも次々と街の人は撃たれ、建物は破壊されていく。イヤーマフを付けて、スカイブルーを魔剣の姿に戻して構えた。額に汗が落ちる。
〈勇者が──ちょっと、あなた何ですか〉
〈すみません失礼します。それでは聞いてください!〉
イヤーマフのお説教イヤイヤモードを起動し、走り出す。その瞬間ズンッと世界に負荷がかかったのを感じる。避難する人も、恐怖で動けない人も、バタバタと倒れていく。
「な、なん……だっ?」
勇者は耳を押さえて膝をついた。
鳥が空から落ちて、道路に亀裂が走る。転ばないように一歩一歩踏み締めて、距離を詰めていく。
「あっ?」
まず一人目の首をはねる。
ビシャッと仲間の血がかかった相方が、ギョロッとした目をこちらを向ける。
すかさずもう一人の首をはねる。
血を噴水のように噴き出しながら、司令塔をなくした体が崩れ落ちる。どちらの首もゴロゴロと転がって大地の裂け目にハマった。
歌い終わったワイファがやってきた。イヤーマフを首まで下げて待ち構えると、力いっぱい抱きしめられた。
「無事で良かった。みーの歌、どうだった?」
「最高だよ!」
負傷者をワイファと手分けして草原まで運んでいく。重傷者は慎重に、ライライに回復しながら運んでもらう。
ざっと五十名ぐらい。全魔力を使ってもギリギリといったところ。
お願い、街のみんな死なないで──!
<
ポカポカしている。
これは揺りかごの中かな。
お母さんが、あまり上手くない歌を歌っている。
「おはよう」
ワイファが添い寝をしてくれていた。
窓から差し込む光が、薄桃色の髪をキラキラさせている。
「丸一日寝ていたのよ。洞窟街の魔族に死者は出なかったの。串揚げ屋のサイさんも無事ツノが再生したみたい。姫ちゃんが頑張ったからね」
「良かった……」
「ふふ、ずっと、みーの歌で寝ていたのよ。メイドさん達はみんな逃げ出して近づかないっていうのに」
「そうなんだ。ついていてくれて、ありがとう」
「ずっと自分の事を好きになれなかったの、歌が下手な人魚なんて価値がないもの。だからウロコをねだられた時も断れなかった」
ぎゅ、と手を握られる。
鮮やかな桃色の瞳がキッと輝く。
「でも今なら断るし、ビンタしてやるわ」
良かった。もう自分を傷つけずに済むんだ。
あたたかい気持ちになっていたら、大きめのキャンバスをドンと近くに置かれた。
「それでね、せっかく陸にいるから海では出来ない絵画に挑戦してみたんだけど、どうかしら?」
そこには、ぐちゃぐちゃに塗りたくっただけのような、全く意味の分からない絵があった。
──その後。
北の洞窟街から、お礼のお手紙がたくさん届いた。それを笑顔で読んでいたら。
「エネルギッシュな新人画家さんのご自宅はこちらですか?」
城下町に飾らせて貰ったワイファの絵を見たお客さんがやってきた。そしてあっという間に売れっ子画家になった。泣いて喜んだフリーがお城の庭に専用のアトリエを作ってあげた。
穏やかな昼下がり、紅茶を持って訪れると、ワイファが鼻歌と共に絵筆を走らせていた。伸び伸びとしたその姿は、とてもキレイだと思った。
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