第26話 太陽が登る山③

 あられの山、ざくざく踏みしめるとざらざらーっと崩れる。

 だけど粒が大きいので、砂みたいに足を取られる感じはしない。

 いけそうなんだけどなー。


 振り返ると、アメンボマシーンが六本の足の半ばくらいまであられに埋まって、『スイスイー』と困った声を出していた。

 粒が大きすぎるのがダメなのか!

 アメンボにも弱点あるんだなあ。


 一つ知識を得たな、と思いつつ、あられの山をザックザックと登っていく。


「ねえトム、この山が遺跡なんだとしたら、一体どういう遺跡だと思う?」


「そうですねえ。見た感じとても大きくてなだらかな山ですから……。案外、山が開いて太陽が出入りするのかも」


「あはは、まっさかー」


 軽口を叩きながら、トムを胸元にぎゅっと詰め込んで登っていく。


「ナリさん、こう、詰め込まれていると分かるんですが、思った以上に足場がありますね」


「私、食べるの好きだからね。お腹周りにも食べたものは来るけど、胸とか尻とか太ももにも来るんだよ。肉は全身、平等につく……!!」


「含蓄が深い!! するとさっきの魔王もたくさん食べるんでしょうかね」


「あいつは凄くよく食べそうな顔してた! 何もかもスイーツに変えちゃうくらいだから、相当食べると思うよ」


 そこのところはちょっとシンパシーを感じるな。

 ちなみに、異世界転生した時、お腹から食べたものを錬成する力を得たお陰か、私のウエスト周りはかなりスマートに引っ込んだ。

 これは転生して心底良かったなっていう点だ。


「思えば、お腹の脂肪まで錬成して外に出してしまったのかもしれない」


「僕らリビングドールは脂肪がつきませんからねえ」


「えっ、そうなの、羨ましい」


「生まれたときの体型のままなんですよ。普通形は普通のまま、痩せ型はやせたままで、太っちょ型は太ったまま。子ども型は子どものままで、老人型は老人のままです」


「そうなんだ……! じゃあ、見た目はあくまで見た目で、年齢関係ないんだね。おもしろーい」


 考えてみれば、リビングドールってコロニーで働くロボットみたいなものなのだ。

 年をとるはずがない。


「じゃあトムはどういう見た目だったの? 子ども? イケメン?」


「イケメンがなんだかわかりませんが、普通の男性型でしたよ。その中では背が高めで、スポーツマンタイプと言われてましたけど」


「なるほど、イケてるタイプじゃん」


 これはトムを元に戻すモチベーションが湧いてくる答えだわね。

 やる気に満ちた私は、ふんふんと鼻息も荒く、あられの山を登頂しきった。


 高さ100mほどだから、大したものじゃない。

 だけど、ざらざら崩れてくる中を登るのは、それなりに体力を使うのだ。


 この世界に来てから、体を使うイベントばかりでそれなりに体力はついた。

 そのお陰で、あられの山登りも苦じゃない。


「さーて……。山のてっぺんだけれども、見渡す限り平坦だね。すっごく広い」


 ちょっとした運動場がまるごと一つ乗っかってしまうくらいの広さがある。

 これはもしかして、トムが言っていた太陽の格納庫みたいなのが、現実味を帯びてくるかもしれない。


「でも、ここならアメンボ来れそうじゃん。アメンボー!」


『スーイ』


「飛んできて!」


『スイスイ!』


 どうも、必要そうなものはあられに埋もれてしまっているみたい。

 みんなで手分けして探さなければなのだ。


 片っ端からあられを吸い込んで錬成する手もあるけどね……。

 量が量だ。

 何日掛かるかわからないし、その間に魔王がまた来そう。


『スイー』


「ご苦労ー! じゃあ、トムを載せて空からそれっぽいの探して! 私は実際に歩いて、足元の違和感を探すから」


『スイスイ』


「おまかせあれー」


 私の胸元から、ぴょーんと飛び出したトム。

 アメンボマシーンの頭にじゃきーんと装着され、触覚にしっかりとしがみついた。


 飛び上がるアメンボマシーン。

 私も空から探すのが楽なんだけど、でもそれってあられに埋もれてるものを見落としてしまう。

 ここは、地道に足で稼ごう……。


 生前は、友達からも「ナリって要領悪いよね」「コツコツやることないじゃん! 誰かの見せてもらえばいいでしょ」とか言われていたものだ。

 私は自分の手足を使って、手探りしていくのが趣味なのだから、大きなお世話だ。


 これまでの三つの遺跡も、手探りでなんとかしたし。


「えーと、まずは山頂の端からスタートして、ぐるぐる螺旋を描くように内側へ進もう」


 これで真ん中辺りに手がかりがあったら、凄い遠回りになるのだが。

 やっぱりこういうのって、外側から隙間をきっちり埋めていくのが気持ちいいよね。


「ないですねえ」


『スイスイ』


 空からは男子たちの声が聴こえてくるので、あっちは今のところ空振りなんだろう。

 私も当然、歩き始めだから手がかりというか、足がかりは全然ない……。


 ゴツっとすねに何か当たった。


「ウグワーッ!?」


 私、ぶっ倒れてすねを押さえ、のたうち回る。


「なに!? なになになに!? 痛い痛い痛い! なんかすねにゴツっと行ったんだけど!!」


 最初の一歩なんだが!?

 そこで、いきなりあられに隠れていた固いものがぶつかってきたんだが!?


「ナリさん! そこに何かあります! 色も形もあられに似てますが、そのあられ、地面から生えてます!!」


 トムの声が響いた。

 な……なんだってー!!


 どうやら私、一歩目で手がかりを引き当ててしまったらしい。


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千里の道も一歩からと言う発想がなければ、見つからないタイプの手がかり。

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