【書籍版・第23話】どうやって生活を?

「ここがケィタのおうち?」とリュイアが首を傾げた。


「うん、そうだよ」


賃貸だけどね。


「へぇ……!」


それほど大きくはない、二階建ての一軒家。

俺が小学生の頃、父親の仕事の都合で越してきてから、家族で住み始めた家だ。


田舎だし、築年数がそこそこだから、家賃はアパートと変わらぬほどに安い。

両親が他界してからは俺一人になったが、住み慣れた家をわざわざ移る気にはなれず、空いた部屋を持て余しながらも住み続けていた。



扉を開け、中に入る。


「ただいま」

いつものように俺は言った。


「だれかいるの?」

リュイアが驚いたように言う。


「いや。誰もいないんだけど、帰ってきた時にはつい言っちゃうんだ」


「リュイアたちのおうちでは、誰かがいるときだけ言うから違うね」とリュイアは笑った。


「そっか」


「うん。ただいまー!」

リュイアが、家の中に向かって言う。


「ただいま」とヴァンも言った。




「はい、どうぞ」


「ありがとう!」


「ありがとう、ケィタ」


居間に招き入れ、二人にオレンジジュースを出す。


どこでもらったかは忘れたが、結構前に何かの景品でもらった果汁100%の缶ジュースが二本だけ残っていた。


ヴァンは、「人間が食べられるものは、自分たちが食べても問題ないと教わった」と言い、それから「念のため、食べられるかどうか確認してもよいか?」とも言った。


魔族にとって、食べられるものとそうでないものを区別することは、最も基本的な能力の一つなのだという。

自分の中の魔力に問いかけて、それをたしかめるのだそうだ。


「もちろん」と俺は頷いて、彼らにそのジュースを出した。



ヴァンはオレンジジュースのにおいをくんくんと嗅いだ。


リュイアも、オレンジジュースの入ったコップを眺めては、目をつぶり、唇をとがらせて、何か呟いている。


魔力さんに尋ねているのかもしれない。


それから納得したように、二人は顔を見合わせうんうんと頷いた。


「ふむ、問題ない。頂いてもよいか?」


よかった。飲んでも大丈夫みたいだ。

「どうぞ」


「いただきまーす……」

コップを慎重に持ち上げて、リュイアはオレンジジュースに口をつけた。

「!」

飲むなり、彼女は目を丸くする。


「飲めそう?」


「おいし!」とその瞳を輝かせた。


「よかった」俺は笑った。


「本当に美味しい」とヴァンも言う。「レンドーラのしぼり汁みたいだな」


「レンドーラ?」


「私たちの世界にあった果物だ。貴重な果物だったから、村の祭りのときくらいしか口にできなかったが」


「へぇ」


彼らが住む異世界の村では、どんな生活が営まれているのだろう。


「そうだ。これからのことなんだけど」と俺は言った。


「ああ」とヴァンは申し訳なさそうに言った。「先ほど言った通り、我々にはあてがないのだ」


「ダンジョンを1000個破壊する必要があるって言ってたよね」


「うむ」


「それを壊すまでは、こっちの世界でどうやって生活するつもりだったの?」


「はっきりと考えていたわけではないが……基本的にはダンジョンの中で生活するつもりだったな」

ヴァンは言った。

「今日行ったのは、力の弱い魔物しかいないダンジョンだった。だがより強い者のいるダンジョンでは、肉体が残る魔物たちもいるんだ。それを食べる。そうやって生活しようと思っていた」


まさかの狩猟生活……

何から何までお金で買って生活している現代人からすると、かなりハードルが高そうではあるが。


「あとは、ダンジョン街だな」


「ダンジョン街?」

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