第6話 聞き間違いじゃない……だと……

 いつも通り電話対応中のこと。


「お名前をお願いいたします♪」

「シャアです」

「…………」


 なにか今、ガン○ムで出てくる単語を聞いたような……。

 聞き間違いだろ。


「申し訳ございません、お電話が途切れてしまったようでして、もう一度お願いできますか?」

「シャアです」


 この時点で、私の頭の中は沢山の疑問符が浮かび上がっている。


 いやまさか、本当にシャア様なのか……。

 シャア様でよろしいですかって聞くべき? 聞くべき?

 聞き間違いだったら、「シャアなはずないだろ!」って怒られる?

 もう某アニメのシャア様しか頭に浮かばない!


「……けふ、けふっ」


 必殺技「咳のフリ」!


 笑いが噴き出そうな状態を超えて、声が漏れてしまったときの技を繰り出し、冷静になるための時間を稼ぐ。一度笑う体になってしまったらもうだめだ。私はただの笑い袋だ。この危機的状況を乗り切ってさっさと電話を切りたい。


 本当にシャア様って名前だったら? 私の反応失礼だよね。普通の対応するべきだよ……。何回も聞いたらまずいよね?


 深呼吸をし、どうにか聞く。


「シャア様で……ヨロシイデスカ……?」

「はい、シャアです♪」


 やっぱりシャアって聞こえる!! 何回聞いてもシャアって聞こえる!

 聞き間違いだとしてもだ。こんなにハッキリ発音してるんだから、もう一度聞き直したところで、また明瞭に「シャア」って聞こえるやつだよコレ!

 外国語の混ざったような発音も特に感じられない。


 淡々と要件を聞いた。


 最後にもう一度復唱するとき、頭から例のシャアを追い払おうとしながら、なるべく平静を装い、「○○にお住まいのシャア様ですね……」と復唱。


 頑張った。頑張った。中身は完全に失礼極まりない状態だが、声に出ないように最大限、頑張った!


 電話を切って、すぐにその方の過去の履歴を探し出す。判子かサインを貰っているはず!


 謎は全て解けた。

 サインのところに、きれいな文字で書いてあった。


「謝」


 シャ……謝(シャ)様だったか〜〜!!

 ガン○ムじゃなかった〜〜!!

 聞き間違いでもなかった〜〜。



 数年後。


「ねぇ、さっきのお客さん……シャアって名乗ったんだけど……!」


 電話を切ったあとの同僚の声に、他の電話に対応しながら、謝様だよ、と心の中で呟くことになった。


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