6. モテモテのベン
ベンは美少女に迫られてドギマギしてしまう。前世でも女の子にこんなに積極的にされたことなどなかったのだ
「あなた、お名前は?」
ベネデッタは嬉しそうにニコニコしながらベンの顔をのぞきこみ、聞いてくる。
「ベ、ベンって言います。変な名前なんですが……」
ベンはシアンがつけたであろう意味深な名前に抵抗を感じていたのだ。
「ベン君……、いい名前ですわ」
ベネデッタはニッコリと笑いながら、ギュッとベンの手を握る。
「え? そ、そうですかね?」
ベンは温かくしっとりとしたベネデッタの指の柔らかさに、赤くなってうつむいた。
周りの冒険者たちはその様子を見てどよめき、怪訝そうにベンを見ている。
勇者パーティをクビになったただのFランクの荷物持ち、それがオークをなぎ倒すなんてあり得ない話だったのだ。
ベネデッタは金貨がたくさん入ったずっしりと重い
「これ、オークの魔石を換金したのと、後は私からのお礼ですわ」
と、言ってにこやかに笑った。
「こ、こんなに……。いいんですか?」
「何言ってるんですの? あたくし、あなたに命を救われたの。自信もってよくてよ! あ、そうだわ。今晩、パーティがあるんですわ。いらしていただけるかしら?」
ベネデッタはキラキラとした笑顔で嬉しそうに言った。
「パ、パーティ?」
「そうですわ! 詳細はセバスチャンから聞いてくれるかしら?」
そう言うとベネデッタはベンに軽くハグした。
えぇっ!?
ふんわりと甘く香る少女の匂いにつつまれ、ベンは真っ赤になって言葉を失う。
「あなたは私の運命の方ですわ。また後ほど……」
ベネデッタは耳元でそう言うと、ウインクしてギルドを後にした。
セバスチャンの話によるとベネデッタはこの街の領主である公爵家の令嬢であり、オークを倒し、何の報酬も要求しなかったベンのことを大変に気に入っているとのことだった。単に漏れそうだっただけなのだが。
セバスチャンからパーティの招待状をもらい、支度のお店を紹介してもらって帰ろうとすると、ベンは女の子冒険者たちに囲まれる。
「ベン君、オーク倒したって本当?」「うちのパーティお試しで入ってみない?」「ちょっとぉ! 今私が話してるのよ!」
女の子たちは若き英雄の登場に興奮し、すっかりベンと仲良くなろうと躍起になってもみくちゃにする。昨日まで見向きもしなかったのに現金なものである。
しかし、奥のロビーの方ではそんなベンの登場を疎ましく思う冒険者たちが、つまらなそうな様子でお互い顔を見合わせていた。
その中には勇者パーティの魔法使いもいた。
昨日は魔人を倒し、今日はオークの群れを倒したという。ただの無能な荷物持ちができる事じゃない。何か怪しいことをやっているに違いない。魔法使いは怪訝そうな目で、鼻の下を伸ばしているベンをにらんでいた。
ベンがこれ以上活躍しては勇者パーティの立場がなくなる。やっと手に入れた勇者パーティの座が揺らぐのは面白くなかった。
魔法使いはフンっと鼻を鳴らすと、
「勇者様に報告しなくちゃ」
そう言いながら転移魔法を使ってふっと消えていった。
◇
ベンは女の子の攻勢を適当にのらりくらりごまかして逃げ出した。女の子とパーティを組むなんて夢のようではあったが、戦うたびに便意を我慢するだなんて到底無理である。いつかバーストして汚物を見るような目で見られてしまう。それは耐え難かった。
「あーあ、もっとまともなスキルが欲しかったなぁ……」
ガックリと肩を落としながら石だたみの道をトボトボと歩く。
全知全能たる女神ならば、それこそ常時ステータス百倍とかできるのではないか? そしたら女の子パーティーに交じってハーレムという、まさに王道の異世界転生もののウハウハ人生が送れたに違いない。なのに自分は便意だという。もうアホかバカかと。作った人、頭オカシイだろこれ。いくら宇宙最強と言っても発動条件がクソ過ぎる。
「カ――――ッ! あのクソ女神め!」
ベンは頭を抱えて思わず叫んでしまう。
行きかう人たちは、そんなベンをいぶかしげに眺めながら避けるように道をあけた。
どんなに叫んでも事態は改善しない。ベンはギリッと奥歯を鳴らし、大きく息をつくと、ドミトリーの自分のベッドへと帰っていった。
◇
女の子は無理でも、ベンにはベネデッタからもらった金貨の包みがあった。ベンは気を取り直し、ベッドの上にジャラジャラと金貨を広げ、数えてみる。
「チューチュータコかいな……」
金貨はなんと五十枚あった。日本円にして約五百万円、飢え死にを心配していた少年にとっては夢のような金額だった。
うひょ――――!
ベンは小躍りする。
なんだこの大金は! 自分はソロ冒険者としても大成できるんじゃないか? なんといっても宇宙最強なのだ!
うひゃひゃひゃ!
さっきまでの憂鬱はどこへやら。ベンは金貨を集めてバッと振りまき、何度もガッツポーズをして大金ゲットの喜びを満喫した。
ひゃっひゃっ……、ひゃ……、ふぅ。
だが、ベンはすぐに我に返る。喜んではみたものの、あの腹を刺す便意のすさまじい苦しみを思い出してしまったのだ。
冗談じゃない、あんな事何回もやってられない。いつか狂ってしまう。
「やめた、やめた! 冒険者なんてもう二度とやらない!」
そう言うとバタリとベッドに倒れ込んだ。
このお金を元手にして商売をすればいい。便意など二度と我慢しないのだ。あの酔狂な女神の思うとおりになんて絶対なってやらん! 何が一万倍だ、殺す気か!
ベンはギュッとこぶしを握り、心に誓った。
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