2-2. 黄金の祝福
やがて青空は暗くなり、昼なのに夜のような空になる。宇宙に近づいたのだ。
下を見ると、まるで地図を見ているみたいにくっきりと海岸線が見て取れる。
しばらく行くと、小さく城壁で囲まれた街がある。なんとそれは王都だった。
「えっ!?」
あの壮大な街がまるでオモチャみたいなのだ。
ユリアは大聖女として奮闘した二年間を思い出す。最後は追放されてしまったが、思い出の詰まった王都。
よく見ると城門の周辺が黒く焼け焦げて見える。その激しい戦闘の傷跡に思わず心臓がキュッとする。
ユリアは急いで手を合わせ、魔物の襲来で死傷してしまった人たちのことを思い、祈った。
そして、手を金色に光らせるとキラキラとした光の祝福を王都に向けて放つ。祝福はまるで黄金のオーロラの様にゆらゆらと光跡を描きながら王都の上空に展開し、まばゆい光の粒をひらひらと振りまいた。
王都の人々は皆、いきなり現れた光の舞う空を驚きながら見上げる。一体何が起こったのか分かっていなかったが、みんな神聖なる光に手を合わせ、幻想的な光景にしばらく見入っていた。
ゲーザは王宮の執務室で知らせを聞いて急いでテラスに出る。そして、美しく
「ユリアめ……、やはり殺しておけばよかった。
そうつぶやくと急いで教会へと走り出した。
◇
ジェイドはさらに速度をあげながら南西へと進む。西隣の国オザッカ、その南の小さな島国サヌーク、そして遠く向こうに見えてくる大きな島国のサグ。
ユリアは地図でしか見たことのない国々を静かに眺めていた。ここのところ平和な時代は続いているが、噂によればこれらの国々は軍拡を進めているという。王国とは友好関係にはあるもののいつまでも平和な時代が続く保証はない。手を合わせて平和を祈ってはみたものの、何の力にもなれない自分の無力さに思わずため息を漏らした。
しばらく飛んで、サグを越えた辺りでジェイドは高度を落としていく。見ると、広い海の中に点々と島があった。
さらに降りて行くと、島の様子が見えてくる。島の周りはエメラルドグリーンに明るく彩られていた。最初は何の色か分からなかったが、近づいて行くと、それはサンゴ礁と透明度の高い海の色だった。
「うわぁ……」
ユリアはシールドを解いて思わず身を乗り出す。
「どうだ? 綺麗だろ?」
ジェイドが言う。
「うん! すごい、すごーい!」
ユリアはキラキラとした笑顔を振りまきながら、初めて見る南国の海に魅了されていた。
◇
ジェイドはさらに高度を落とし、そのまま真っ白なビーチの沖へ着水する。
ザザザザー! と派手に波しぶきをあげながら徐々に減速し……、ビーチのそばまでくるとゆっくりと止まった。
ザザーンという静かな波の音が響き、爽やかな潮風が吹き抜けていく。
「到着だ。お疲れ様」
ジェイドは首を低く下げる。
熱を持つジェイドのウロコは、波を受けるとシュワァと音を立てながら湯気を立てた。
真っ白なビーチにエメラルドグリーンの透明な海、真っ青な空にポッカリと浮かぶ白い雲。ユリアは周りを見回して、
「ヤッター!」
と、両手を突き上げて叫ぶ。そして、そのまま海に飛び込んだ。
ザッブーン! と上がる波しぶき。
ユリアはしばらく陽の光の煌めく透明な海の中をスーッと進み、
コポコポコポォと上がる泡の音を楽しむ。そして浮力に身を任せて水面に戻ってくると、
プハ――――!
と、水面から頭を出し、満足げな顔で大きく息をつく。
「素敵! でも塩辛いね」
ユリアは片目をぎゅっとつぶりながら、それでもうれしそうに言った。
ジェイドはうなずくと、
「準備してるね」
そういってザバザバと波を立てながらビーチに上陸し、ボン! と人化する。そして、アイテムバッグから敷物やロープなどを取り出すと拠点を設営し始めた。松のようなモクマオウの樹にロープを結んでタープを張り、その下に敷物を敷いて小さなちゃぶ台を出す。そしてガラスのピッチャーに魔法を使って氷水を注ぐと、そこにレモンとハチミツを入れてレモネードにし、グラスに注いでグーっと一気飲みをする。
ふぅ……。
ジェイドは一息つきながら、エメラルドグリーンの海ではしゃいでるユリアを見て目を細めた。
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