1-8. ドラゴンのディナー
グゥ――――ギュルルル。
ジェイドが心配そうにユリアを見守っていると、静かな部屋にユリアのおなかの音が響いた。
クスッとジェイドは笑い、
「夕飯にしよう。肉しかないんだがいいか?」
と、聞いた。
ユリアは恥ずかしくなってさらに真っ赤になって固まる。
ジェイドは首をかしげ、そっとユリアの手をさすった。
ユリアは枕をそっとずらし、心配そうに見つめるジェイドを眺める……。
そして大きく息をつくと、バッと起き上がり、言った。
「ごめんなさい、言い過ぎたわ。夕飯、お願いします。何か手伝うことがあったら……」
「大丈夫、ちょっと待ってて」
ジェイドは優しく微笑んでそう言うと、部屋を出ていった。
ユリアは立ち上がると、窓辺から月を眺め、
「私……、どうしちゃったのかしら……」
そうつぶやいて眉をひそめ、ため息をついた。
満月が優しくユリアの美しく張りのある肌を照らす。
ホーゥ、ホーゥ
どこかで鳥が鳴くのが聞こえた。
◇
しばらくして、ジェイドがプレートに大きな肉と飲み物や食器を載せて部屋に戻ってきた。
「あっ、手伝うわ」
ジェイドはニコッと微笑むと、
「大丈夫、座ってて」
そう言ってテーブルにプレートを置き、手早く食器を整えた。
肉は五キロくらいはあろうかと言う大きな塊で、いい焼き色がつき、表面にはローズマリーなどのハーブがついていた。
ジェイドは人差し指の爪を鋭くナイフのように伸ばすと、シュッシュと肉をスライスしていく。そして、全部スライスし終わると斜めに倒し、切り口が並ぶようにして綺麗に盛り付けた。
「美味しそう!」
ユリアは目を輝かせ、思わずつばを飲む。
そんなユリアを見てうれしそうに微笑むと、ジェイドはブランデーを全体に振りかけた。そして、手のひらから魔法で豪炎を放つ……。
ゴォォォ――――。
炙られた肉はブランデーが燃え上がって大きな炎を噴き上げる。そして、ジュ――――というおいしそうな音を放ちながら香ばしい香りをあげていく。
「うわぁ……」
ユリアはその見事な料理ショーに魅せられる。
王宮でもこんな見事なディナーは見た事が無かった。
ジェイドはユリアを席に座らせると、肉を三切れ皿に盛ってサーブする。
そして、リンゴ酒をグラスに入れてユリアに渡した。
「どうぞ召し上がれ」
「ありがとう……」
二人は見つめあい、シュワシュワ音を立てるグラスをカチンと合わせる。
「我の
「素敵なおもてなしに乾杯……」
ユリアはと口の中ではじける泡の感覚を楽しみながらリンゴ酒を飲み、鼻に抜けていく華やかな香りにウットリする。
肉も柔らかく、ジューシーで、表面はカリッと香ばしく極上の味わいだった。こんなのを自分で作ってしまえるなんてドラゴンは相当な美食家なのだ。
「これ、すんごく美味しい」
ユリアはパアッと明るい顔をしてジェイドに微笑む。
「口に合ってよかった。ハーブと塩をまぶして低温のオーブンに入れてただけなんだ」
そう言って静かにグラスを傾けた。
ユリアは少し酔いが回ってきたのかそんなジェイドをボーっと見つめる。凛とした切れ長の目にシュッとした高い鼻……、見れば見るほど美形なのだ。そして細く長い指……。あれがさっき胸を這っていた、温かな指先……。
「えっ!?」
なぜそんなことを思い出してしまったのか、ユリアはポッと頬を赤らめてブンブンと首を振った。
「どうした?」
ジェイドは心配そうにユリアの顔をのぞき込む。
「な、な、な、何でもないわ!」
ユリアは両手を振って全力で否定する。
そして、リンゴ酒をゴクゴクと飲んだ。
ジェイドはそんなユリアを不思議そうに眺める。
「し、神聖力、と、取り戻してくれてありがとう……」
ユリアはちょっと伏し目がちに言った。
「あんな封印をするなんて許し難い連中だ」
ジェイドは眉をひそめ、自分の事の様に怒る。
「ありがとう……」
「王都を焼き払うか?」
ジェイドは恐ろしい事を平然と言う。
「あ、いや、悪いのは一部の人だけだから……」
ユリアは驚いて否定する。
「では、そいつらに復讐するか?」
ジェイドは瞳の奥を真紅にゆらりと光らせた。
「だ、大丈夫。誰にどう復讐したらいいのかもわからないし、復讐したからと言って元には戻らないわ……」
ユリアはため息をつき、うつむく。
「このままでいいのか?」
「うーん、なんか疲れちゃった……。しばらくはここでゆっくりさせて欲しいの」
「そうか……。我は構わない。好きなだけここで暮らすといい」
ジェイドは真剣なまなざしでユリアを見つめた。
「ありがとう……」
目をつぶりしばらくユリアは何かを考える……。
「私……神聖魔法しか使えないからここでは役に立てそうにないの。それでもいい?」
「別に何もしなくていい。ただ、ユリアに使えない魔法なんて無いぞ」
「へ!? だって、私、神聖力しかないわよ?」
「それが原因だ。『使えない』と思ってるから使えないだけだ」
「え――――!? そんなことって……あるの?」
「明日、使い方を教えてあげる」
ジェイドは優しく微笑む。
「そ、そう……」
ユリアは半信半疑で静かにうなずいた。
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