第109話 碧い瞳に恋慕の情
「リアム。重たいことを言ってごめんなさい。もちろん私の気持ちより、リアムの思うよう……、」
「ミーシャ」
突然、リアムは跪いた。
驚いて今度はミーシャが目を見開いた。手を取られ、指先に彼の唇が触れる。
「……リアム?」
しばらくそのままの姿勢で動かない。どうしたらいいのかわからなかった。名前を呼んでも顔を上げてくれない。伏せられた銀色のまつ毛を見つめる。
「麗しき我が夜明けの女神。俺も、発言の許可をいただいてもよろしいでしょうか?」
「もちろんです」
リアムはゆっくりと顔を上げた。銀色の髪がさらりと揺れる。前髪から覗く、ミーシャを見つめる碧い瞳は切実で、燃えるような恋慕の情が見て取れた。
「ミーシャは、俺との子供を、望んでくれる?」
甘くしびれるような声に胸がとくんと跳ねて、そのあと疼いた。
「……はい」
こくりと頷くだけで、もう精一杯だった。彼は目をやさしく細めた。
「それが本心なら、……俺にお願いをしながら、キスをして」
とくとくと胸が早鐘を鳴らす。
自分を見上げるリアムの片方の肩に、そっと手を置く。顔を近づけると、朱鷺色の髪が彼の身体に垂れて触れる。
そのままきれいなリアムの唇に自分の唇を重ねた。離れる時に「お願い」と伝えると、手をぎゅっと握られた。
「知ってると思うが俺は、君に弱い。ミーシャに惚れている。君の願いは何でも叶えてあげたい」
「リアムの気持ちは嬉しいです。だけど、あなたの気持ちが伴わないのは嫌です」
「俺の気持ちは、君を失いたくない。ただそれだけだ。三度目は、耐えられない」
リアムは、空いているもう片方の手でミーシャの髪を掬うように触れると、愛しそうにキスをした。
髪先だというのに、それだけで身体の芯に熱が灯る。彼の何気ない仕草一つ一つが魅惑的で、心が奪われる。
「子供を産むのは命がけだ。女性の身体にだけ大きな負担をかける。……ミーシャに万が一のことがあったらと考えると、怖くて、子供など望めない」
リアムの声と、表情は切羽詰まったものだった。
ミーシャは、自分の見当が外れていたことに気づき、内心焦った。
「命がけ……え。そっちなの?」
「そっちって?」
「父親になる自信がないのかと……」
とんだ勘違いにミーシャは顔が熱くなった。一方のリアムは顔色が青いままで、今にも泣きそうな顔をしている。
「せっかくこうして巡り会えたのに、国のため、世継ぎのためだけに、再びミーシャを失うのは嫌だ。出産なんてしなくていい。危険な目に君一人をあわせたくない」
ミーシャを必死に見上げてくるリアムに幼いころの彼が重なった。自分を心配し、求めてくれているのが嬉しくて、愛しさが溢れてくる。
「……目の前で二度も死んで、ごめんなさい」
「まったくだ」
嬉しい。だけど彼をここまで思い詰めさせたのは、自分だと思うと胸が痛くなった。
ミーシャはかつて弟子にしたように、彼の頭に親愛のキスをした。
「氷の妖精のようにかわいかった弟子リアム。私はね、命をかけてでも、あなたとの子供が欲しいの」
リアムはミーシャを睨むように見つめた。
「ミーシャ。俺の話聞いていた?」
「もちろん。子供を産むって命を賭して行う行為よ。だけど大丈夫。私は死なない。炎の鳥で復活できる!」
「三度目は勘弁してくれと、こんなにお願いしているんだが」
「でも私たちの子供よ? きっと、とても素敵な子供が産まれるわ」
ミーシャはリアムにもう一度キスをした。驚いている碧い瞳を見つめたまま伝える。
「私は約束通り、あなたの元へ舞い戻ってきたでしょう? だから信じて」
リアムはミーシャの手を両方持った。視線を手に向け、確かめるように指先でなぞる。
「君を失いたくない」
「うん……」
「本当に、死なない?」
ミーシャは頷いた。
「約束する」
「ミーシャがもしも死んだら……俺は、第二のオリバーになるからな」
向けられた瞳は真剣だった。すごい脅し文句だが、ミーシャはにこりと笑って頷いた。
「子供を切望するのは、国のためじゃないよ。だからお願いリアム。誰かのためでもなく、私が望んだからでもなく、リアムの意思で、私との子供を、望んで……?」
愛しいリアムに求められたい。素直に湧き立つ感情だった。
想いを伝えると、碧い瞳の奥に再び熱が灯ったのがわかった。強い意志を目に宿し、リアムは立ち上がるとミーシャを軽々と抱き上げた。
すたすたと歩き一番近くの部屋、応接室に入ると、誰も入ってこられないように入り口を雪と氷で塞いだ。
ミーシャを座り心地がいい長椅子に押し倒し組み敷くと、そのまま唇を塞ぐ。息つく間もなく情熱的なキスの雨を降らしはじめた。
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