1-13. 骸骨襲来

 ワナに注意しながら暗くジメジメした洞窟の中を進むと、さっそく魔物の影が動いた。

 

 ヴィクトルはアイテムバッグから『青龍の剣』を取り出すと、装備する。大賢者としては魔法連発で行くのが王道であったが、そんなことしたらMPの回復待ち時間が必要になってしまう。そんなロスタイムは許されない。

 ヴィクトルは継続回復魔法『オートヒール』を自分にかけた。これはしばらくの間HPを毎秒十ずつ回復してくれる便利な魔法である。これなら殺されてもすぐに次の攻撃を食らっても大丈夫にできる。

 そして、『青龍の剣』を構えると、魔物へ向けて駆け出した。

 見えてきたのはスケルトン、骸骨のアンデッド系魔物である。

 スケルトンはヴィクトルを見つけるとカチカチと歯を鳴らし、棍棒を振り上げて走ってくる。

「そいやー!」

 ヴィクトルは慣れない剣を力任せに振り下ろす。

 青龍の剣は、口を開けた間抜け顔のスケルトンの肩口にヒットした。


 グガッ!

 スケルトンは断末魔の叫びを上げ、ガラガラと崩れ、骨が散らばり、最後に魔石なって転がった。

 よし! と思ったのもつかの間、さらに三匹が襲いかかってくる。

 骸骨の化け物が、カチカチと歯を鳴らしながら駆け寄ってくる不気味さに、ヴィクトルは顔をしかめ、奥歯をギリッと鳴らすと体勢を取り直した。

 そして、スケルトンが間合いに入るのを待ち、大きく振りかぶった剣を力いっぱい振り下ろす。

 あっさりと砕け散る先頭のスケルトン。

 しかし、次のスケルトンの棍棒が予想以上に伸びてきて、殴られてしまうヴィクトル。

 グハッ!

 口の中を切ってしまい、血がポタポタと垂れる。

 しかし、ひるんでいられない。

 ヴィクトルは歯を食いしばると、力いっぱい剣を振り上げてスケルトンの胴体にヒットさせて砕いた。が、同時に三匹目の棍棒をまともに浴びた。


 クゥッ!


 たまらずゴロゴロと転がってしまうヴィクトル。

 HPにはまだ余裕があるが、痛いものは痛い。

「チクショー!」

 ヴィクトルはよろよろと立ち上がると、振り下ろされてくる棍棒をギリギリのところで避け、剣を野球のバットのように横に振りまわした。


 ガキッ!


 いい音がしてスケルトンの背骨が砕け、バラバラと全身の骨が崩れ落ちていく……、そして最後には魔石となり、コロコロと転がる。


「ふぅ……」

 無様な緒戦ではあったが、なんとか三匹同時でも剣で対処できたのは大きかった。


 それにしても防具は欲しいし、剣の扱い方も真面目に学んでおけば良かったと、思わずため息が漏れる。準備不足の状態で突入してしまった地獄の修行。ヴィクトルは魔石を拾いながら、前途多難な道のりに気が遠くなった。


          ◇


 それから一週間、ヴィクトルは起きている間中剣を振り続けた。五歳児の腕ではすぐに痺れ、限界に達してしまうが、治癒魔法で治しながらだましだまし戦闘を続ける。

 すでに倒した魔物は二千匹。レベルは五十七に達していた。ただ、パラメーターは魔石を食べる事で異常に上がっており、実質レベル百相当の強さにまで成長していた。

 自分のレベルより強い敵を倒せるということは経験値的には大変美味しいことであり、レベルの上がり方も異常に速かった。


 その日、ヴィクトルはダンジョンの地下47階に来ていた。そこは地下のはずなのに、階段を下りたらなんと青空が広がっていた。

 広い草原には爽やかな風が吹き、草のウェーブがサーっと走っている。さんさんと照り付ける太陽はポッカリと浮かんだ白い雲の影を草原に落とし、ゆったりと流れていく。

 なんて気持ちのいい風景……、しかしここは地獄のダンジョン。どこにどんな罠があるかもわからないのだ。

 早速索敵の魔法に反応があった。

 そこそこの強さの魔物が草原をこちらに駆けてくる。その数七匹。剣では分が悪い。ヴィクトルは杖に持ち替えると魔法の詠唱を始めた。

 空中に真紅の円が描かれ、続いて中に六芒星、そして書き上げられていくルーン文字……。

 草むらから飛びかかってきたのはウォーウルフの群れだった。灰色の巨体に鋭い牙、金色に光る瞳が並んで襲いかかってくるさまに気おされ、ヴィクトルの背筋にゾクッと冷たいものが流れる。

 しかし、ひるんでもいられない。ヴィクトルは気を強く持って魔法陣を完成させると、

灼熱炎波フレイムウェーブ!」

 と、叫ぶ。

 魔法陣から爆炎が噴き出し、あっという間にウォーウルフたちを飲み込んだ。


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