1-15. ドラゴン大暴れ

「きゃははは!」


 シアンはうれしそうに笑いながら、騎士をブンブンと振り回し王子に迫った。


「ひぃ!」


 真っ青になってしゃがみこむ王子だったが、あえなく騎士をぶち当てられて、


「うぎゃぁ!」


 と喚きながらゴロゴロと転がった。


 シアンはそれを見ると満足げに騎士をポーンと放り投げた。そして、腰に手を置き、ドヤ顔で


「悪い子にはお仕置き! きゃははは!」


 と、満足そうに笑った。


 しかし、シアンは振り返ると、滅茶苦茶になったテーブルの上を見てあおざめる。


 ケーキは騎士を振り回した時に全部吹き飛ばされてしまっていたのだ。


「やっちゃった……」


 と言うとシアンは、唖然とした表情で固まる。そして、


「あ、あぁ……」


 と声にならない声を出しながらひざからガックリと崩れた。


        ◇


「これは何事だ!」


 いきなり入ってきた男が叫んだ。男は金をあしらった豪奢な服をまとって威厳のある表情で睥睨へいげいした。


 オディーヌは駆け寄って、釈明する。


「お、お父様! これには訳が……」


 その男は王様であった。


 剣士も王様に近づいてひざまずいて言った。


「若様をいさめられませんでした。申し訳ございません」


 事情を聞いた王様は、部屋の隅で痛そうにしてうずくまっている王子に声をかけた。


「お前が仕掛けてやられたのか?」


「だ、だって、あの女無礼なんだもん……」


 王様は深く息をついて首を振ると、おつきの部下に対処を指示し、シアンの所へ行った。


「愚息がご迷惑をおかけしたようで申し訳ない」


 そう言って王様はシアンに頭を下げた。


「僕もケーキダメにしちゃった。ごめんなさい」


 シアンもしょんぼりして謝る。


「ケーキなら新しいのを用意させよう。ちょっと話を聞かせてもらえないか?」


「え? いいの? ありがとう!」


 シアンはうれしそうに答えた。


        ◇


 レオ達は別の応接室に案内され王様とのお茶会となった。


「君たちはドラゴンの所へ行くんだって?」


 王様が聞いてくる。


「はい、シアンが案内してくれるんです」


 レオがちょっと緊張した面持ちで答える。


「ドラゴンはなかなか我々の前には姿を現してくれない。なぜ、君たちは会えるのかな?」


 王様は鋭い視線を投げかけてくる。


 シアンは、ケーキを美味しそうに食べながら言う。


「ドラゴンは僕の友達なんだ」


「友達……。君は何者なのかね?」


「僕はシアンだよ! きゃははは!」


 うれしそうに笑うシアン。


「お友達なら……、呼んだら来てもらうこともできるかね?」


「いいよ! 今、呼ぼうか?」


 シアンはケーキを頬張りながら言った。


「えっ? それはぜひ!」


 王様は興奮ぎみに言う。


「でも……。この部屋に呼んだら建物壊れちゃうね……」


 そう言ってシアンは部屋を見回した。


「中庭ならどうかな?」


 王様は窓の外を指さす。


「うんうん、じゃあ、呼んでみよう!」


 シアンはそう言って立ち上がって、フォークを掲げた。


       ◇


 中庭へ移動すると、そこには赤白ピンクのバラが咲き乱れた庭園があり、真ん中には東屋あずまやが建っていた。すでに陽は傾き始め、長い影が伸びている。


 シアンは目をつぶって何かをぶつぶつとつぶやき、両手を顔の高さでフニフニと動かす。そして、


「レヴィア! カモーン!」


 と、叫んだ。


 すると、ボン! と、爆発が起こり中庭を煙が覆う。やがて煙が晴れていくと、上空に巨大な黒い影が現れた。


 それは厳ついウロコに覆われた巨大な恐竜のような生き物で、背中には大きな羽が生え、手には巨大な鋭い爪が光っている。


 ドラゴンは辺りを見回すと、


「誰じゃいきなり! 失礼極まりないわ――――!」


 と、叫ぶと、口から真紅の豪炎を噴き出した。


「うわぁ!」「キャ――――!」


 悲鳴が上がり、美しかったバラ園はあっという間に炎に包まれる。


「た、たすけて――――!」「逃げろぉ!」


 王宮は一瞬で阿鼻叫喚の地獄絵図となった。


 ドラゴンは怒り狂い、グギャァァァァ! と、身体の底に響く激しい重低音で咆哮ほうこうを放つ。


 バラ園は焼け野原となり、東屋も焼け落ちていく。


れものが――――!」


 ドラゴンは王宮中に響く恐ろしい声で叫ぶ。


 王宮中大騒ぎとなった。


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