1-8. 十二歳女神の福音
「これ、儲かるの?」
ドロシーは手を動かしながら聞いてくる。
「多分儲かるし……それだけじゃなく、もっと夢みたいな世界を切り開いてくれるはずだよ」
「えー? 何それ?」
ドロシーはちょっと茶化すように言う。
「本当さ、俺がこの世界全部を手に入れちゃうかもしれないよ?」
俺はニヤッと笑う。
「世界全部……? 私も手に入っちゃう?」
そう言ってドロシーは上目づかいで俺を見る。サラッと銀髪が揺れて、澄んだブラウンの瞳がキュッキュッと細かく動いた。
十二歳とは思えない女の色香の片りんに俺はドキッとして、
「え? あ? いや、そういう意味じゃなくって……」
と、しどろもどろになる。
「うふふ、冗談よ。男の子が破天荒な夢を語るのはいいことだわ。頑張って!」
ニコッと笑って俺を見るドロシー。
「あ、ありがとう」
俺は顔を赤くし、研ぐ作業に戻った。
ドロシーは丁寧に剣の
綺麗にすると何かステータス変わらないかなと、俺は何の気なしに剣を鑑定してみる。
青龍の剣 レア度:★★★
長剣 強さ:+2、攻撃力:+30、バイタリティ:+2、防御力:+2、経験値増量
「ん!?」
俺はステータス画面を二度見してしまう。
『経験値増量』!?
「ちょっ! ちょっと待って!」
俺は思わず剣を取って鑑定してみる。しかし、そうすると『経験値増量』は消えてしまった。これは一体どういうことだ……?
「ちょっと持ってみて」
ドロシーに持たせてみる。しかし『経験値増量』は消えたまま……。一体これはどういうことだろう?
俺が不思議がっていると、ドロシーはまた汚れをこすり始めた。すると『経験値増量』が復活した。
「ストップ!」
俺はドロシーの手に持っているものを見せてもらった。
それは古銭だった。そして、古銭を剣につけると『経験値増量』が追加されることが分かった。
「やった――――!!」
俺はガッツポーズをして叫んだ。
ポカンとするドロシー。
「ドロシー!! ありがとう!!」
俺は感極まって思わずハグをする。
これで経験値が減る問題はクリアだし、剣の性能を上げる可能性も開かれたのだ。
俺は甘酸っぱい少女の香りに包まれる……。
って、あれ? マズくないか?
月夜の時にずっとハグしてたから、無意識に身体が動いてしまった。
「あ、ごめん……」
俺は真っ赤になりながら、そっとドロシーから離れた。
「ちょ、ちょっと……いきなりは困るんだけど……」
ドロシーは可愛い顔を真っ赤にしてうつむいた。
「失礼しました……」
俺もそう言ってうつむいて照れた。
それにしても『いきなりは困る』ということは、いきなりでなければ困らない……のかな?
うーん……。
日本にいた時は女の子の気持ちが分からずに失敗ばかりしていた。異世界では何とか彼女くらいは作りたいのだけれど、いぜん難問だ。もちろん十歳にはまだ早いのだが。
「と、ところで、なんでこれでこすってるの?」
俺は話を変える。
「この古銭はね、硬すぎず柔らかすぎずなので、こういう金属の汚れを地金を傷つけずにとる時に使うのよ。生活の知恵ね」
伏し目がちにそう答えるドロシー。
「さすがドロシー!」
「お姉さんですから」
そう言ってドロシーは優しく微笑んだ。
これで俺の計画は完ぺきになった。使う人も俺も嬉しい魔法のチート武器がこの瞬間完成したのだ。こんなの俺一人だったら絶対気付かなかった。ドロシーのお手柄である。ドロシーは俺の幸運の女神となった。
◇
結局、研ぎ終わる頃には陽が傾いてきてしまった。ドロシーはしっかり清掃をやり遂げてくれて、孤児院の仕事へと戻っていった。
最後に俺の血液を仕込んだ
また、この時、ステータスに『氷耐性:+1』が追加されているのを見つけた。なんと、
◇
剣を三本抱えて歩くこと15分、冒険者ギルドについた。石造り三階建てで、小さな看板が出ている。中から聞こえてくる冒険者たちの太い笑い声、年季の入った木製のドア、開けるのにちょっと勇気がいる。
ギギギギーッときしむドアを開け、そっと中へ入る。
「こんにちはぁ……」
酒とたばこの臭いにムワッと包まれた。
見回すと、入って右側が冒険者の休憩スペース、20人くらいの厳つい冒険者たちが歓談をしている。子供がいていいようなところじゃない。まさにアウェイである。
ビビりながらエドガーを探していると、若い女性の魔術師が声をかけてくる。
「あら坊や、どうしたの?」
胸元の開いた色っぽい服装でニヤッとしながら俺を見る。
「エ、エドガーさんに剣を届けに来たんです」
「エドガー?」
ちょっといぶかしそうに眉をしかめると、
「おーい、エドガー! 可愛いお客さんだよ!」
と、振り返って言った。
すると、奥のテーブルでエドガーが振り向く。
「お、坊主、どうしたんだ?」
と、にっこりと笑う。
俺はそばまで行って
「昨日のお礼にこれどうぞ。重いですけど扱いやすく切れ味抜群です。防御もしやすいと思います」
「え!? これ?」
エドガーは
エドガーが使っているのは
ロングソード レア度:★
長剣 攻撃力:+9
それに対し、
大剣 強さ:+5、攻撃力:+40、バイタリティ:+5、防御力:+5、氷耐性:+1、経験値増量
エドガーは、
「大剣なんて、俺、使ったことないんだよなぁ……」
と、気乗りがしない様子だ。
すると、同じテーブルの僧侶の女性が、
「裏で試し切りしてみたら? これが使いこなせるなら相当楽になりそうよ」
そう言って丸い眼鏡を少し上げた。
エドガーは、ジョッキをあおって、エールを飲み干すと、
「まぁやってみるか」
そう言って俺を見て、優しく頭をなでた。
裏のドアを開けるとそこは広場になっており、すみっこに藁でできたカカシの様なものが立っていた。これで試し斬りをするらしい。カカシは『起き上がりこぼし』のように押すとゆらゆらと揺れ、剣を叩きこんでもいなされてしまうため、剣の腕を見るのに有効らしい。
エドガーは
「え? なんだこれ? 凄く軽い!」
と、驚く。
「どれどれ、行きますか!」
そう言うと、
「あまり無理すんなよー!」「また腰ひねらんようになー!」
やじ馬が五、六人出てきて、はやしたてる。
「しっかり見とけよ!」
やじ馬を指さしてそう言うと、エドガーは大きく深呼吸を繰り返し、カカシを見据え……、そして、目にも止まらぬ速さでバシッと
しかし、カカシは微動だにしなかった。
「え?」
「あれ? 斬れてないぞ?」
皆が不思議がる中、カカシはやがて斜めにズズズとずれ、真っ二つになってコテンと転がった。
「え――――!?」「ナニコレ!?」
驚きの声が広場にこだまする。
いまだかつて見たことのないような斬れ味に一同騒ぎまくる。
エドガーは中堅のCランク冒険者だが、斬れ味はトップクラスのAランク以上だった。
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