★12月15日 (穂乃香からの手紙⑨)
公園は広く心地よく、中に石のベンチがあったので、私はハンカチを敷いて、そこに座りました。普通なら十一月でもう寒いはずなのに、ちっとも寒く感じませんでした。
ベンチに座って考え事をしていると、一人の少年が現れました。私より少し年上みたいで、珍しい髪の色をしています。金髪というより、ニンジンみたいな、燃えるような赤い色です。そして真っ白な顔に、ソバカスがあって、眼は深い緑色でした。私みたいに何か考え事をしているようで、冴えない顔つきをしているんです。少年は「展望台のある公園ってここじゃないな」と独り言を言いました。この子とも言葉は通じるんだ、と思うとうれしくなりました。ミーニャはいるけど、やっぱり少し寂しかったんです。なので、私は「違うと思うよ」とその子に向かって言ったんです。
いつか都会に住んでいる親戚の所へ行った時、海の見える丘の公園で遊んだ事があります。でもそこは公園に近付いただけで潮の香りがするような場所でした。ここではそんな潮の香りなんてしなかったんです。
「海はもっとずっと遠くにあるんだから、見えないよ」
そう教えてあげました。本当は自分自身も今どこにいるかも分からない迷子なのに。
「遠くの海でもいいんだ。ずっと高い所からだと見えるって。青い海が見たいんだ。なのにずっと黄昏時で夜が来ないから、日が昇る事もないんだ」
「夜が来ないから、日が昇る事もない? 嘘でしょ……。でもどうしてそんなに海が見たいの? もしかして見た事ないの?」
「うん。生まれた町が海からずっと離れてたから、見た事ないんだ。でも病気になって、お医者さんが今のうち、見たいものを見ておきなさいって言うから、長い旅をしてここまで来たんだぜ。なのに青い海なんて全然見えないんだからな」
少年は噴水の縁に片足を乗せ、緑色の目を細くし遠くの地平線の濃い苺色を見つめていました。
私はその子の夢を叶えてあげられたら、と心から思いました。そのためにはまずこの街がどうして夕暮れ時から時間が進まないのか、その理由を知らなければ始まりません。
私はあのレストランの支配人さんだったら何か知っているんじゃないかって思いました。レストランの支配人というのは、色々な事を知っていると言っていたからです。
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