39. 泣きぼくろ
洞窟を進む英斗たち――――。
洞窟と言っても、ドアから内側はまるで宇宙船のように金属でできた通路となっていた。歩くたびにカンカンと音が響き、英斗は渋い顔をしながらなるべく静かに進んでいく。
ヴィーン! ヴィーン!
警報音が通路に響き渡る。
どうやら戦闘は避けられそうにない。
英斗はタニアを降ろすとニードルガンを取り出し、辺りをうかがう。
直後、少し先の通路脇のドアがプシューと音を立てて開いた。
「来るぞ!」
レヴィアは銃を構え、英斗はあわててニードルガンの安全装置を外し、へっぴり腰で備える。
刹那、魔物が次々と飛び出してくる。
それは魔王城でも見た一つ目のゴリラだった。厚い胸板、ムキムキの筋肉を誇示しながらワラワラと通路をふさぎ、グルルルとのどを鳴らす。全てを粉砕しそうなその屈強な腕は英斗などワンパンチで潰されてしまうに違いない。
くっ!
明らかに銃なんか効かない敵にレヴィアと英斗は後ずさりして冷や汗を流した。
しかし、タニアは嬉しそうにキャハッ! と奇声を上げるとトコトコとゴリラに向けて歩き出す。
「お、おい、タニア……」
可愛い幼女と屈強なゴリラたち。どう考えても幼女に勝ち目はなさそうなのであるが、なんとゴリラたちはタニアを見ると一瞬驚いたようなしぐさを見せ、後ずさりし始めた。
きゃははは!
タニアは肉球手袋を黄金色に輝かせ、楽しそうに笑うとピョコピョコとゴリラたちに向けて走り出す。
直後、ゴリラたちは一目散に逃げだしたのである。そして、元居た部屋に逃げ込むとドアを閉めてしまった。
ぶぅ?
タニアは不思議そうに首を傾げ、物足りなそうな声を出す。
あのゴリラたちは魔王城でタニアに惨殺されたものの生き返りではないだろうか? タニアにいいように殺されてしまった記憶が恐怖を呼び起こしたのかもしれない。
「カハハ! タニア、お主凄いな」
レヴィアは嬉しそうに笑い、不満げなタニアを抱き上げた。
「マジかよ」
こんな小さくてかわいいタニアが戦わずに勝利をもぎ取った滑稽さに、英斗は笑いがこみあげてきて少し笑うと、タニアの頭をグリグリとなでてやる。
あいぃ
タニアはチャーミングな泣きぼくろを見せながらにっこりと笑った。
◇
カンカンカン!
後ろから迫る足音に慌てて振り返ると、そこには黒いボディスーツの人影が。
でも、その見慣れた駆けるフォームに英斗は手を高く掲げ、大きく振る。紗雪だった。
「英ちゃーん!」
紗雪は飛ぶように突っ込んでくると英斗の胸に飛び込む。
ぐほっ!
パワーアップしている紗雪のハグは強烈だったが、英斗はそんなことが気にならなくなるくらい紗雪の柔らかな香りに安堵していた。
「英ちゃん、英ちゃん! うわぁぁん」
紗雪は今まで我慢してきた心細さを英斗に爆発させる。
英斗は優しく頭をなで、涙にぬれるほほにほほを寄せた。
「待ってやれなくてごめんな」
耳元でささやく英斗。
「大丈夫、分かってるの。ちょっと寂しかっただけ」
紗雪は英斗の体温を感じながら、これから始まる大勝負に向けて何とか気持ちを整えていった。
「紗雪、ご苦労じゃった。おかげで魔王までもう少しじゃ」
レヴィアはなにやら小型の観測機械の表示を見ながら言った。
「えっ? そんなことわかるんですか?」
「この宇宙線観測装置によるとこの先に大きな空洞があることが分かっとる。きっとその辺りに奴はいるじゃろう」
レヴィアの指示した画面には確かにぽっかりと空洞が映っている。火山の中にくりぬかれた巨大な空洞、一体何の目的で作られたのだろうか? 英斗は首をひねりながらうなずいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます