24. 魔王城炎上
さて、どういう手を打ってくるかと、英斗は辺りを必死に警戒した。自分のできる事なんてこんなことくらいなのだ。二人の派手な攻撃の後ろで頑張って辺りをジッとチェックしていく。
すると、隅っこの方にかすかに動く影を見つけた。それは様子をうかがうような、明らかに不穏な動きをしている。小型の緑色の魔物、ゴブリンだろうか?
「何かいるぞ!」
英斗は叫んで立ち上がり、震える手でニードルガンを構えた。生まれて初めての射撃、ドクドクと高鳴る鼓動の音を聞きながら静かに引き金を引く。
ニードルガンから放たれた針のようなニードルは、青色に美しく輝きながら光跡を描き、次々とゴブリンへと迫った。
最初は大外ししていた英斗だったが、連射しているので修正は容易である。逃げ惑うゴブリンに合わせてニードルガンを操り、最後はついに命中させた。
グギャッ!
と、断末魔の悲鳴を上げながらゴブリンは倒れ、手元から何かが転がる。
「伏せろ!」
レヴィアが叫んだ直後、それは大爆発を起こした。なんと、手りゅう弾を持たせた魔物を送り込んできているのだ。
直後、ワラワラとゴブリンたちが物陰から身を現したが、レヴィアがブレスで一気に焼き払う。大爆発が次々と起こり、英斗はその激しい衝撃に頭を抱えて何とか耐えた。
「ふぅ、油断もすきも無いのう……。英斗、よくやった!」
英斗は少しは役に立ててホッとして胸をなでおろす。
しかし、レヴィアが焼き払ったあたりの壁が崩壊すると、爆煙の向こうに妖しく赤色に光る点がならんでいる。
「へっ?」「えっ?」「きゃぁ!」
なんと、魔物たちの群れが殺る気満々でスタンバっていたのだ。
直後、サイクロプスにオーガにゴリラたちが雄たけびを上げながら瓦礫を跳び越え、一気に押し寄せてくる。
「正念場じゃ!
レヴィアは立て続けにブレスを連射し、次々と魔物たちを火に包んでいく。撃ち漏らしを紗雪が魔法の風の刃で薙ぎ払い、さらに生き残りを英斗がニードルガンで始末していく。
フロアは一気に苛烈な戦場と化し、風魔法が切り裂く魔物の血しぶきが舞い、焼け焦げた死体が転がり、爆発音が響いた。
攻撃をかいくぐって飛びかかってくる魔物に英斗は必死にニードルガンを当て続け、戦線を防衛する。魔王城内ということもあって、魔物たちはレーザー攻撃を禁止されているらしく、何とか英斗も役に立てていた。レーザーを撃たれていたら英斗など即死だっただろう。
◇
激しい戦闘も終焉を迎え、やがて静けさが訪れる。何とか一行は魔物の襲撃の一掃に成功したのだ。
はぁはぁと荒い息をしながら、英斗はニードルガンをおろし、ふぅと大きく息をつくとペタンと座り込んだ。
背中からは、すぴー、すぴー、という寝息が聞こえてくる。これでも起きないとはタニアは大物かもしれない。
「どうやら敵さんの手は尽きたようじゃな」
レヴィアも一息ついて満足そうに笑みを見せた。
紗雪もひざに手をつき、大きく肩を揺らしている。まさに死闘だった。
すると、ガラガラっと音を立てて入口の方にたくさんの瓦礫が降ってくる。天井を攻撃していたのが効いてきたらしい。
「見てくるわ」
紗雪は疲れた体に鞭を打ち、ピョンピョーンと魔物の焼け焦げた死体の間を器用に飛び越えながら天井の穴の方へ行き、上を見上げる。そこには激しい炎がオレンジ色に辺りを照らしている様子が見て取れた。
上のフロアのさらに上のフロアでも火災が発生していて、次々と延焼が進んでいるらしい。
「ねぇこれ、このまま全部ぶち抜けないかしら?」
紗雪はレヴィアに聞く。
レヴィアも穴を見上げ、その延焼具合にニヤリと笑うと、
「ほう、思ったより
そう言ってまたブレスを派手におみまいした。
降ってくる瓦礫を器用によけながら、紗雪も岩の槍で上層階のフロアの天井を抜き、レヴィアと一緒に魔王城を火に包んでいく。
それは想定外の展開ではあったが、確かにこのまま魔王のフロアまで焼き尽くせば勝ちである。
上の方のフロアで断続的に発生する爆発音、ガラガラと次々と降り注ぐ瓦礫、初めて見えた勝ち目らしいチャンスに英斗は手に汗握って二人の活躍をジッと見つめていた。もしこれで魔王を仕留めることができたら、自分も世界を救った英雄の一員なのだ。それは人類八十億人を救った偉業であり、ただの高校生が成し遂げたとんでもない英雄譚になる。
英斗は早鐘を打つ鼓動を感じ、湧き上がってくる興奮を抑えられずにいた。
◇
激しい爆発音が上の方で上がり、いよいよクライマックスが近いことを感じさせたその時、いきなりレヴィアは攻撃をやめてしまう。
「やられた!」
と、叫びながら英斗の方へ、ズシンズシンとフロアを響かせながら駆けてくるレヴィア。
「えっ……?」
英斗はいきなりの展開に焦ってキョトンとしてしまう。
レヴィアは手術室脇の非常口らしきドアのところまでやってくると、
「ダメだ! 逃げられた! 追うぞ!」
そう言って、シッポをブンとものすごい速度で振り回し、ドアを吹き飛ばす。
英斗はガックリとうなだれ、ふりだしに戻ってしまったような脱力感に大きなため息をつき、大きく首を振った。
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