副指揮官side気になる青年
あの不思議な泉で、私達の前で裸で突っ立っていた青年は、あっという間に騎士団に溶け込んだ。フォルを探しに泉に行った私たちは、フォルの代わりにハルマを連れて帰ったんだ。
私はフォルが好きだった。あの可愛い子馬時代から、フォルはどんな馬とも違っていた。分け隔てのないロイでさえ、フォルには目を掛けていた。
フォルは辺境伯の跡取りであるウィリアムの相棒となった。若くして実力のあるウィリアムは、なかなか自分の馬を決めずにいたが、フォルをひと目見て決めた様子だった。
あの時は、フォルの方もウィリアムをじっと見つめていた。会うべくして会った相棒だったのだろう。フォルを失ったのは残念だったが、あの惨劇を食い止めたフォルの勇姿は、これからも騎士団の伝説となって語り継がれていくだろう。
あのモンスターは、今学者が調べているがまだ詳細が分からない。魔物でもない、でもそれを上回る破壊力。これから似たようなモンスターが現れるようになるとすると、それは国の危機になりかねない。
私たち騎士団の戦闘訓練も、それに対応できるように変える必要があるだろう。そんな会議の後、指揮官室へ戻ろうとした私は、資金部のリーダーとばったり会った。
リーダーは私と同世代の中堅だが、いつも眉間に皺を寄せているような男だ。その男が珍しくも機嫌良く話しかけて来た。
「副指揮官、貴方が寄越した青年ですが、感謝しますよ。彼は資金管理の心得があるようで、彼のおかげで山積みの書類がみるみる減っています。
彼の提案した方法が画期的で、もしかしたら騎士団以外でも有効なのではないでしょうか。彼は19歳だそうですね。もっと若く見えますが、一体何処で見つけて来たんですか?
そうそう、他の部所からの引き抜きには応じませんからね、先に言っておきます。ハハハ。」
そう言って、にこやかに笑うと手を上げて立ち去って行った。私は彼の後ろ姿を見ながら、思いの外あの青年が、騎士団の役に立っている事を嬉しく思った。
ハルマのあの黒い瞳は、居なくなったフォルを思い出させる。フォルは居ないが、フォルの身代わりがこの騎士団に居てくれるようで、それが心を温かくした。
「フォル、…早く帰ってこいよ。お前の身代わりは、お前の代わりは出来ないんだからな。」
私は指揮官室へと急ぎながら、これから迎える慌ただしい時間を思い浮かべた。
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