人間生活を満喫する

王国騎士団の食事は、少し大味でボリューミーだったけれど、馬生活に比べれば五感が喜ぶ食事には間違いなかった。僕はウキウキとステーキの様なものを貪り食べ、マッシュポテトや焼き野菜の付け合わせを楽しんだ。


まぁ、繊細さには欠ける味付けだけど、お腹はいっぱいだ。とはいえ、僕は周囲の騎士達の食べっぷりに、少々胸焼けを起こし始めていた。



「ハルマ、もう良いのかい?お代わりは?」


そう言いながら、僕にマッシュポテトが盛られている木の器を差し出すウィリアムに、両手でご遠慮した僕は、飲み物を取りに席を立った。


周囲を観察していた様子から、基本セルフサービスの様だったけれど、飲み物のコーナーには見慣れないものが沢山あってじっくり見たかったんだ。


僕が紫色の泡立つ飲み物を眺めていると、後ろから声をかけて来たのは副指揮官だった。



「食事は済んだのか?あー、っとハルマだった、な?お?随分見違えてサッパリしたな。よく似合っているぞ。そうだ、明日の午前中に指揮官室に来てくれ。


…ハルマの仕事について相談しよう。格好は今みたいな服装で良い。…そうか、服も身体に見合ったものが必要だな。それについても話そう。他に必要なものがあったら、ウィリアムに相談しなさい。じゃあ、明日指揮官室で待ってるぞ。」



僕は丁寧にお礼を言ってお辞儀すると、副指揮官はちょっと戸惑っていたけれど手を挙げて食堂を出て行った。僕は副指揮官を見送ると、あの人は馬の僕にも、人間の僕にも優しいと嬉しく感じながら、思い切って紫の飲み物を手に席に戻った。


「さっき、副指揮官と話してただろう?何か言われたのか?」


ウィリアムが僕に尋ねるので、僕はさっき言われた事を伝えた。ウィリアムは頷くと、僕の手の中の紫の飲み物を見て片眉を上げた。


「ハルマ、その飲み物が何か分かっているのか?しかもそんなに大きなカップに注いで来たのか?」



気がつけば周囲の騎士達もニヤニヤしながら僕と飲み物を眺めていた。


「いいえ。でもこんな飲み物は見たことがないので挑戦してみようと思って。もしかしてお酒ですか?僕、未成年だったのでお酒は少しだけしか経験がないんですけど。」


ケインがニヤニヤしながら言った。


「お酒じゃないから安心しな。ハルマは何歳なんだ?未成年って、この国の未成年は15歳までだぞ。まさか15歳なのか?もう少し上だと思っていたが。」


僕は慌てて言った。



「いえ、僕の国では20歳が成人です。僕は19歳です。お酒じゃないなら飲めますね。いただきます。」


僕は周囲が19歳?と騒ついた事に気づく前に、その飲み物をグビグビと飲んだ。途端に僕は目から星が出た気分でクラクラしてドサリとテーブルに突っ伏したんだ。

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