騎士団に帰還

はぁ、ようやくここに戻ってこれた。1日ぶり?それにしては濃厚な時間だったな。僕は自分に当てがわれた簡素な部屋を見回した。ここは騎士団の従者たちが寝泊まりするスタッフ用官舎だ。


騎士団の官舎とは違って質素な造りらしい。でも、元の世界のワンルームより広めのこの部屋はシンプルなシャワーブースもついていて居心地は良さそうで、僕には十分だった。



僕は副指揮官やウィリアム達から渡された、日用品や、服を眺めてこれからどうしようかと考え込んだ。馬だった頃の僕には立派な仕事もあったし、実際役に立ってた。


でも人間になってみると、果たして僕に出来る事はあるだろうか?


僕が仕事を探しに王都へ行く途中に迷子になったと言った話を信じてくれたのかどうか、副指揮官が騎士団の仕事で気に入ったものが在れば、能力さえ伴えば雇ってやると親切にも言ってくれた。



いつでも副指揮官は僕に優しいね。それからウィリアムたち騎士から、使わなくて余ってるからと、細々としたものを箱いっぱい渡されたんだ。


何も持って居なかった僕には有り難かったけど、僕が重さでふらついてたらウィリアムが呆れた顔をして、代わりに部屋まで持って来てくれた。僕がさすがご主人様は優しいと、感動してニコニコしてたら、ウィリアムは少し怖い顔で言った。



「…ハルマ。言っておくが騎士団はその、男色や、男もいける奴がかなり多いんだ。だからハルマがそんなに愛想良くしてると、勘違いする奴が手を出して来るかもしれない。


意に沿わない事にならない様に、行動には気をつけた方がいい。ハルマはその、魅力的だからね。」


僕は衝立のこちら側でウィリアムの話を聞きながら、渡された箱の中に入っていた少し大きめのシャツに着替えていた。そうか、ここは僕にとっては二丁目的な場所なのか。行ったことないけど。



僕はちょっとした悪戯心で、ズボンを履くのをやめて、少しシャツをはだけると、彼シャツ風に着崩したままのスタイルで衝立から出た。そしてウィリアムに貸してもらっていた上着を返した。


急に無言になってしまったウィリアムは、そんな僕の淫らな姿を凝視していたので、彼もそっちなのかもしれないと僕の勘は訴えてきた。ああ、最高。



僕に手を伸ばして来たウィリアムにドキドキしていると、彼は僕のシャツのボタンを険しい顔ではめて言った。


「…服はちゃんと着なさい。そんな格好していたら、身体がいくつあっても足りなくなる。…分かったかい?約束してくれ。じゃあ、夕食の時間になったら、また迎えに来るからしばらく休憩していなさい。」


そう言うと、ウィリアムは踵を返して僕の部屋から出ていった。



…僕の色気作戦は失敗したみたいだ。もしかして、ウィリアムっておかんキャラなのかな?僕は少し残念な気持ちで、閉じられた扉を見つめた。



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