第10話 森の奥で

目の前にそそり立つ熊型魔物は、僕を一気に恐怖に落とし入れた。でも先輩馬達は次々に、前に出たり戻ったりと素早く動いて、騎士達が魔剣で熊型魔物を切り刻み始めた。


途端に辺りは酷い臭気が立ち込め始めて、僕は怖さよりも、その酷い臭いにやられそうだった。



しかもウィリアムが指示を出すので、仕方なく僕も前に出て魔物に近づいた。うわっ、マジで酷い臭いだ。僕たちは何度も皆で協力しあって、繰り返し打撃を打ち込ませた。


でも僕はいつまでもこの臭いを嗅いでいるのが嫌になって、思い切って魔物のギリギリまで近寄って、爪をかわしつつ、ウィリアムに魔剣を打ち込ませた。



結局ウィリアムの深い一刀打が決め手となって、魔物は倒れた。ふう、マジで吐きそうだった。嗅覚が優れてるのも良し悪しだな…。


僕がそう思いながら、足に付着した魔物の体液を草むらに擦り付けてると、馬上のウイリアムが僕に優しく言った。


「フォル、お前のおかげで早く熊の魔物を倒せたぞ?お手柄だ。足についた汚れは後できっちり洗ってもらおう。全く、お前は清潔好きだな。ハハハ。」



いや、僕はまじで吐くかと思ったから頑張っただけですけどね?実際魔物が死んでしまえばあの酷い臭いは消えていった。どうも魔物が生きてると臭って、更に傷つくと臭いは酷くなるっぽいね。


先輩馬達が僕に近づいて、良くやったなって褒めてくれたからちょっと嬉しい。僕ってすっかり後輩モード炸裂だなぁ。ふふふ。



それから僕たちは数匹?の魔物の退治を繰り返して、王都に戻る事になった。誰も大きな怪我も無く、無事に戻れる事で多分気が緩んでいたんだろう。それは突然起きた。


察知能力が高い僕たち馬が気づく間もなく、ソレはいきなり襲ってきた。大きく、力のあるソレは、僕たちの隊列を大きなツノひと払いでなぎ倒した。僕より一頭前の馬がドウッと横倒しになると、上に乗っていた騎士も放り出された。



僕たちは瞬く間に恐慌状態に陥った。剣を突き刺すが、ソレの皮は厚くて致命傷を負わせることなど出来なかった。まるでサイの様な大きな角があった。


ソレは魔物ではない大型のモンスターだった。僕は魔物しか居ないと思っていたので、びっくりしたし、一方で何とかならないのかと目の前の惨状に焦った。



元の世界でもサイのような生き物は最強だったはずだ。魔物特有の禍々しさがなかったせいで、この空気の澱んだ汚染された森の中では発見が遅れたんだ。


僕は一か八か、サイの注意を惹きつけようと思った。僕は大きく前脚を振りかぶると、同時に身体を捻って、乗っていたウィリアムを振り落とした。


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