第3話 選考会の始まり

選考会の日が来た。昨日はお洒落するのに忙しかったよ。まだ生後半年だから、大人の馬より少し小さいくらいの大きさなんだけど、ヒョロヒョロしてて、手足も身体も全然細いよね。


でも僕は今の身体は気に入ってる。俊敏だし、疲れないし。馬って最高!キールさんが昨日丁寧にブラッシングしてくれたお陰で、僕の身体艶っ艶だよ?



今日はこの牧場所有の証の、赤いリボンをたてがみに編み込んであるみたい。自分じゃ見られないけど、栗ちゃんや白ちゃんのたてがみに飾られていたから、きっとあんな感じなんだろうな。


選考会は近くの数軒の牧場から、今年春生まれの子馬が集められて、馬が欲しい人や仲介業者が買付けに来るんだ。毎年王都からも沢山人が来るらしくて、結構有名な会らしいよ。



全部ニールさんとキリルさんとの会話を、横でふむふむって聞いていたんだけどね。二人は笑って僕に言ったんだ。


「お前はよく話を聞いてるから、とっておきの事を教えてやろう。王国騎士団の所有馬になれば、一番の待遇が受けられるぞ?多分人参も沢山食べられるだろうしな。


お前は人目を引くから、今日は張り切ってお前の強い脚を見せつけてやれ。騎士団の買い付けは、白いマントを着てる人だから直ぐに分かるしな。頑張れよ?」



そういう訳で、僕はソワソワして落ち着かない子馬たちの群れの中で、周囲を興味深く観察しているんだ。マジで人が多いな。ていうか思った通り、この世界って中世のヨーロッパっぽいんだな。


マントや剣が様になってるし、髪は長くて後ろで縛ってる人も多いしね。僕って時空が歪んだのかな?それとも異世界転生なのかなぁ。馬だけど。ウケる。



僕がジロジロと周囲の人間を観察していたせいか、僕と目が合う人間が多かった。彼らは僕と目が合うとハッとして、じっと見つめてくる。


だから僕は何となく気取った気持ちになって、目の前をゆっくりとモデル歩きしてみせるんだ。ふふ、結構楽しい。僕がそんな事をしてアピールしていると、不安げな顔をした栗ちゃんが僕の側に来て言った。



『黒ちゃん、なんかいっぱい人がいて怖いよ、僕。』


僕は栗ちゃんに言った。


『栗ちゃん、ここでかっこ良いところを見せれば、毎日人参食べさせてもらえるよ?それを考えて、いつもよりゆっくり歩いて、かっこいい姿を見せつけるんだ。出来そう?』


栗ちゃんは急に元気になって、パカパカと足取りも軽く歩き始めた。全く調子いいなあいつ。



それから僕たちは引き綱されながら広い円形場を走ったり、駆け足したりと持てる能力をお披露目した。


結構疲れるな…。僕が水を桶から飲んでいると、側に寄ってきた人間がいた。あ、白いマント着てる。僕は顔を上げて、目の前の二人連れを見つめた。

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