藍崎アイノは聖女で無敵 〜前世が聖女なJKは、最凶ヤンキー学園でも聖なる加護で無自覚に無双してしまう〜

クサバノカゲ

私の前世は聖女さま

 私、藍崎あいざきアイノの前世は、異世界のです。


 ──なんて言ったら、笑われるかな?


 ときどき、自分が現実ここじゃない異世界 どこか で「聖女さま」と呼ばれ、人々を救い護っている夢を見るの。

 夢とは思えない鮮やかさで。

 どこかで一度、経験したことみたいに。


 思い返せば幼女ちいさなころから人助けが異常に好きで、困っている人を絶対に放っておけなかった。

 あの夢が私の前世なら、すごくしっくり来る。

 だから、きっと前世そうだと思うことにしたの。


 白金色の髪プラチナブロンドと蒼い瞳も、夢の中の聖女さまと同じだったし。


 ムーミンとサウナの国・北欧フィンランド出身うまれ母親かあさまゆずりのこの色、日本人とのハーフとしては稀少 レア なのだとか。

 ちなみに、日本育ちで日本語しか話せない私だけど、母方の祖母がフィンランド語で付けてくれた名前──「唯一無二」を意味する「アイノ aino 」は、すごく気に入ってるの。


 そして、高校受験の前夜のこと。

 いつにも増して鮮明な夢のなか、世界を滅ぼす邪神を命と引き換えで封じた聖女わたしに、女神様は言った。


『平和な世界に、転生させてあげる』


 寝覚めで呆然として、家を出たのは時間ぎりぎり。

 なのに、ふと気になって覗いた脇道で、迷子の老婦人に遭遇する。

 もちろん、手をつないで最寄り交番までご案内した。


 以前からこういう偶然ことはあったけど、聖女さまが聖女に選ばれた十三歳に私の年齢としが追いついてから、すごく増えた気がする。


 何となく気になった先で困っている人に出会うのは、もう日常。

 開ける前から「嫌な感じ」のしたお弁当が、腐っていたり。

 電車でお尻を触ってきた痴漢が、紛れ込んでいた蜂さんに手を刺され、拒絶反応アナフィラキシーで昏倒したり。


 横断歩道でハンカチ落とした親子を呼び止めたら、その真前まんまえを暴走ダンプが走り抜けていったり。


 挙げたらきりがない。

 前世ゆめで聖女さまはそういう偶然を「ご加護」と呼び、女神様に感謝していた。


 というわけで試験は遅刻。半分しか受けられず。


「藍崎さん。いちおう聞くけど、遅刻の理由は?」

「はい。迷子のご婦人を、交番までご案内して」

「……また・・? その理由いいわけ、これで何度目? 恥ずかしくないの、いつもお年寄りや病人のせいにして……」


 しかも私、人助けのとき以外は人見知りで口下手で、誤魔化したりもできなくて。


「あ……決してひとさまのせいではなく……」

「じゃあ誰が悪いの」

「……はい、悪いのは(人助けが好きすぎる)私です」

「はじめから、そう言いなさい」


 私の母校は中高一貫、本来はエスカレーター式で高等部に進めるのだけれど。

 あまりに素行不良、つまり(人助けで)遅刻が多すぎた。


 それでも授業態度や成績はちゃんとしていたので、外部からの編入希望者と一緒に高等部の編入試験を受験しての判断、となったのだけど。


 もちろん、半分で合格できるはずもない。


 ところが合格発表からしばらくして、隣市の姉妹校に特別に転入させてもらえると連絡がくる。


 なんと受験日 あのひ の老婦人が姉妹校 そこ の先代理事長で、受験の話をしていた私を気にかけて探してくれたのだ。

 半分の得点で充分だし、成績と生活態度によっては元の高等部へ再転入もありとのことで、放任主義の両親もさすがに喜んでいた。


 しかも自由な校風だから、人助け遅刻ぐらい好きにしていいって……!


 ──そして私は今、母校になる五百鬼 いおき 女学園じょがくえんの、ごつごつした岩みたいな校門の前にひとり立っている。


 特別転入という形なので、昨日の入学式は不参加。


 ちなみに今日も、喘息の発作で苦しげな男の子の背をさすってきたので、初日からしっかり遅刻です。

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