8話 吸血衝動3
「こんなんでもないよりマシ、か」
「お前はどうして音楽室に行かないんだ? 壱流」
「……龍幻か。なんとなくダルいから」
「小瓶はどうした?」
「まだ少し残ってる。それよりも龍幻」
「龍幻先生だって何度言えば……って、おいっ!」
「血補給したら行く」
「本当に行くんだろうな」
「あぁ……。やっぱり同じ匂いがする」
「壱流、オマエは何を言ってるんだ? まぁいい。血を吸い終わったら授業に出るんだぞ」
「言われなくても行く。……いただきます」
「(こういうところは律儀なんだけどな)壱流、オレはお前にとってその場限りの食料にしか過ぎない。だから早く見つかるといいな、闇姫が」
☆ ☆ ☆
「……」
「あれ? 闇華1人?」
「えぇ」
「あの男子と一緒だと思ってた」
「授業に出るように一応誘ってみたけど。でも、あの様子だと来るかどうか…」
「そっかぁ。けど闇華が無事でホント良かった!」
「え?」
風夏ちゃんに抱きつかれた。フワッと柔軟剤のニオイ。
「風夏ちゃんがね? 闇華ちゃんのこと、すごく心配してたの。闇華ちゃんが危ない目にあってるかもしれないって」
「危ない目?」
「だってあの男子、同級生とはいえ不良でしょ? 闇華ってば危険なことにも自ら首つっこむタイプ?」
「それはないと思う」
闇姫の時はそうだった。一方的にやられている人を助けて敵を作っていた。
「私も本音を言えば心配してて。大丈夫? なにもされてない?」
「……」
「闇華ちゃん?」
「されてない、大丈夫よ。二人とも心配してくれてありがとう」
なにもなかった、といったら嘘になる。でも、これ以上話をややこしくするわけにもいかないし黙っていよう。顔が近づいた時は驚いたけど、それ以外は何も起きなかったし。
だけど、まさか幻夢用にいつも持っているお菓子があんな形で役に立つなんてね。鞄に入れておいて良かったわ。
「それと音楽の先生は少し遅れて来るっていってたから、そのへんも心配しなくてOKだよ、闇華♪」
「そうなの? それは助かったわ」
それから私は音楽の授業を二人と一緒に受けたけど皇綺羅君が2時間目の授業に来ることはなかった。
それどころか、教室に戻った時には皇綺羅君の鞄も皇綺羅君もいなくて……。それから、あっという間に6時間目の授業終了時間になった。ちなみに6時間目は体育。
「炎帝。片付けが終わったら帰っていいからなー」
「はい」
女子の体育はバレーだった。今はそれも終わって片付け。ジャンケンに負けなければ今頃家だったのに……。とはいっても半分以上は風夏ちゃんと夢愛ちゃんが手伝ってくれたけど。本当に2人は私にはもったいないくらいの優しい友達。
最後まで付き合わせるのは罪悪感のほうが強かったから先に帰ってもらった。私は体育で使ったボールの数が合っているか数えていた。あとで足りないと先生に怒られてしまうから。
幻夢も今日は用事で一緒に帰れないと言ってたし帰りは一人。あたりは薄暗くなって学校に残っている生徒はほとんどいない。
「
誰もいない部屋でぽつりと呟く。少しだけ彼のことが気になった。
―――ガチャン。
!? なんの、音? 嫌な予感がする。
「はぁ……。誰だ? 鍵開けっ放しで帰った生徒は。仕方ない。中に誰もいないようだし閉めておくか。よし。鍵も施錠したし、俺も帰るとするかなー」
「待ってください! まだ中に人が……!」
教師は扉を閉めると、その場からいなくなってしまった。何度もドアを叩いたり声を上げてみたのだが、近くには誰もいないみたいだ。……完全に詰んだ。
「どうしよう」
これは閉じ込められたっていう認識で合ってるのかしら。
……困った。鞄も教室に置いてきたままだし、スマホは当然スクールカバンの中。救助はさっきの様子からして期待できない。
「ハァ……ハァ……っ」
「な、なに?」
近くで誰かの息遣いが聞こえた。とても苦しそうで……。
「体調でも悪いの?」
私は声のするほうへと歩く。誰もいないと思っていたから少しだけ驚いた。少しずつしか歩けないのは足元が見えないから。電気をつけようにも真っ暗すぎてどこにあるのかわからない。
高い場所に窓があるのにふと気付いた。そこから月明かりが漏れて、そこにいる人影がはっきりと見えた。
「すめ、らぎ君?」
「アンタは……、炎帝……闇華?」
跳び箱に寄りかかるようにして座り込んでいたのは皇綺羅君だった。
なんで? 帰ったはずじゃ……。
「どうして、ここにいるの?」
「それはこっちのセリフだ。誰もいないと思ったから寝てたのに。…なんで炎帝がいるんだよ」
不機嫌なのがいやでもわかる。……それにしてもよくこんな場所で寝れるわね。
「6時間目が体育だったからよ。…寝てた? こんな時間まで? 鞄が無かったから、てっきり早退したとおもってたわ」
「あ? そういや鞄は龍幻に預けてたな。そのうち龍幻が俺を探しにくる。だから心配すんな」
「心配?」
「閉じ込められて怖がってたんだろ? だから俺のところに来た」
「それは違うわ」
普通の女の子だったら、この暗さでも怖がるんだろうけど……。私はあいにく普通ではないから。
それに暗闇に慣れてきたお陰か、さっきよりもまわりが見えるようになってきた。
「じゃあ、なんでここに来たんだよ」
「息が苦しそうな声が聞こえたから。それで、倒れてる人がいるかもしれないと思って来たの」
「お人好しだなアンタも」
「そんなことない。それより朝話したときも気になっていたんだけど」
「なんだよ」
「龍幻って、白銀先生のことよね? 今日から私達のクラスの副担任になった人」
こう何度も皇綺羅君から龍幻って名前を聞くと聞かずにはいられない。
「副担? あいつが、俺の? ……俺には臨時って言っておきながら副担になってやがったのか」
「やっぱり知り合いだったのね」
「アンタには関係ないだろ」
「えぇ、私には関係ないわ」
「女だったら気になることは徹底的に聞かないと気が済まないんじゃないのか?」
女、だったら?
「性別で決めつけないで。私はあなたと白銀先生が知り合いとわかっただけでもう十分よ。教師を呼び捨てにしていたから、どういう関係か気になっただけだから」
「そうかよ」
「今はあなたのほうが心配よ」
「俺?」
「立ち上がれないんでしょ? どこか具合でも悪いの?」
手を貸そうと差し出した。だけど、「余計なお世話だ!」と言われ、振り払われてしまった。
「アンタの助けは必要ない。どうせ、教師の仕事が終われば龍幻がここに来るし」
「それまで我慢するつもり?」
「わるいかよ」
「やせ我慢しなくていいわ。同じクラスなんだし、なにか困ったことがあれば言えばいい」
「アンタに言ったところで解決するわけない」
「言ってみなきゃわからないでしょ?」
「わかるんだよ」
「どうして?」
「俺にはわかるんだ。ただの人間に、俺が今抱えてる問題がわかってたまるか」
ただの人間? 皇綺羅君は幻夢の言ってた通り……。
「龍幻から貰った小瓶も全部飲んだ。それでも喉の乾きはおさまらない。……足りないんだ、血が」
その瞬間、皇綺羅君の目が赤い瞳へと変わった。
「俺には時間がないんだ。早く見つけないと。クソッ! お前は今どこにいるんだ?……闇姫」
―――ドクン。
その名を呼ばれ、胸がなった。
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