最強総長は闇姫の首筋に牙を立てる~紅い月の真実~
星空永遠
プロローグ
記憶に刻まれている貴方との出会い。思い出の中のあなたはとても弱く、泣き虫の子供のまま。
「僕は強くなりたいんだ」
アナタはそういった。でも、強くなるって? 本当の強さって?
私は今、貴方の側にいない。だけど、あなたが私を望むなら、私はアナタを何度だって助けるわ。だって、私にとって貴方は初恋だから……。
「本当にいいのか?」
「えぇ」
「わかった。それならやるぞ」
「いつでもどうぞ」
「契約の証として、俺の血をお前の中に流し込む」
覚悟を決めたはずなのに、どうしてそんな悲しそうな顔をしているの?
私はあなたを否定しない。あなたと一緒なら怖くない。
アナタは暗い海の底にいるみたいだっていつも言ってたよね? でも、明けない夜はないの。昼は太陽が、夜は月が私たちを照らしてくれる。貴方が自分自身を暗闇だって言うなら、私があなたの太陽に、光になってあげる。
だから、永遠の時間を二人で生きよう。たとえ死なない身体になったとしても、私は後悔なんてしないから。
あなたの罪も、罰も、全て受け入れる。
だって、私たちは二人で一つ。
そうでしょう?
その夜、街は暗闇だった。月は見えず、真っ暗なまま。唯一聞こえるのは男達が一人の少年を壊している音だけ。なんて醜い争い。
複数で一人を叩く行為は許されない。勝負というものはタイマンや組同士による喧嘩だ。この行為はそのどちらでもない。いわば、ただのイジメ。
少年を助ける仲間はここにはいない。何故なら少年は弱く、敵のテリトリーに1人で侵入していたから。
「オラァ、死ねや!」
「俺たちのテリトリーに入って無傷で帰れると思うな!!」
「例のクスリは持ってきたか?」
「もちろんです! 兄貴に言われたとおり持ってきました!!」
少年はその場で数人に押さえつけられた。
「ごめんなさい。それだけは……やめてください!」
「謝罪で許してもらえるならサツはいらねーんだよ」
「これでお前も化け物の仲間入りだな」
「……っ!!」
少年は、ある注射を打たれた。
〝
裏社会では今や簡単に手に入る代物。その副作用は言うまでもなく……。タイマやマヤクなど比べものにならない。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
数分も経たないうちに少年は雄叫びをあげる。その場で何度も転げまわり、まわりに助けを求め懇願する。だが、その手を取る者は誰もいない。
「今の言い方だと俺様が化け物みたいに聞こえるなぁ……」
「ヒッ! 兄貴、すみません!!」
「違うんです。化け物ってのは半端野郎のことで……。決して兄貴のような生まれながらに高貴な存在とは比べものになりません!」
「それならいいけどよぉ。弁明があと少しでも遅れてたら、オマエらの身体に穴開けるとこだったぜ」
「あはは……。兄貴は冗談が上手いっすね」
「それでアイツはどうするんすか?」
「ほっとけ。どうせアレを打たれたんじゃ長くは持たない。仮に生き残れたとしてもソイツに待っているのは……地獄だ」
「そうっすね。掃除も終わったことですし、帰りましょう。
「気安く本名で呼ぶな」
「あなた達、なにをやっているの?」
突如、闇の中に現れた一人の少女。
「や、闇姫」
「見間違いじゃねえ?」
「オマエらの目は揃って節穴か? あれは間違いなく〝 闇姫 〟だ」
黄金に輝く長い髪。視線を合わせれば吸い込まれそうになるほど美しくも儚いルビー色の瞳。少女は男達から、いや、裏社会の間でそう呼ばれていた。
【闇姫に会ったが最後、命を狩られ魂は天国にも地獄にも行けない】
そんな噂が囁かれるようになった。
「まさかこんな場所でお目にかかれるなんてな…ククッ」
「兄貴?」
「俺様は離れたところで見ておく。オマエらは闇姫を捕らえろ。迅速にかつ無傷でだ。……わかったか?」
「はいっす! テメェら聞いたか!? 総長命令だ。闇姫を取り押さえろ! こっちは20人以上はいるんだ。束になってかかれば〝 闇姫 〟なんて恐くねぇ!!」
「組に所属すらしてないただの不良に、族である俺らが負けるわけねぇ!」
「たかが女1人だ。やれぇぇぇ!」
そう、闇姫は裏社会で有名ではあるものの、どこの組にも入っていない。ましてや暴走族でもない。ただの不良少女。闇姫はまぶたをピクリとも動かすことなく男たちに向かっていく。闇姫に恐怖という感情はないのだろうか。
「……はい、おしまい。私のことを知ってる人に会ったら伝えて。俺たちは女1人にも勝てませんでした、って」
返り血を手で払うも、闇姫自身は傷一つついておらず。
闇姫は美しく、儚い。そして、強い。闇姫は誰よりも最強だった。風に靡く金色の髪。戦う姿に魅了される男達も多く、闇姫と一度会った者は皆、闇姫の虜になった。
「美しすぎる貴方に手も足も出ませんでした……」
「闇姫に盾突いてすみませんでした!」
「今後は姉貴と呼ばせてください!!」
闇姫の下につく者、闇姫に負けたものたちは誰しもが闇姫を敬い、尊敬した。
「…チッ。使えねー奴らだな」
「兄貴、すみません!」
「いいから下がってろ」
「はい」
高みの見物をしていた男は闇姫の背後をとる。
「っ!?」
「おせーんだよ。女が男に勝てるわけねぇだろ」
いとも簡単に闇姫の両手を押さえる男。
「よぅ、闇姫。俺様の部下を瞬殺とはいい度胸してんなぁ。初めましての挨拶にしちゃあ、少しやりすぎな気もするが?」
「……離して。早く彼を助けないと」
「人間のテメーになにが出来るっていうんだ? 大体こんな貧相な体で〝 姫 〟なんて大層いいご身分だな」
男は余ったほうの手で、闇姫の胸をガシッ! と掴む。ギリギリと乱暴に触れられてるその手は闇姫にとって不快だった。
「いいから離して」
闇姫は男の足を思いっきり踏んだ。
「っ……! てめぇ、よくも」
怒りに狂った男は、闇姫に向かって拳を振り上げる。
「っ!」
「やめろ!」
「……
「私は大丈夫だから貴方は自分の心配をして」
闇姫が少年に近付こうとすると、男に髪を引っ張られ無理やり引き戻された。
「な、にするの」
「誰が動いていいといった?」
「私は貴方の部下じゃない。それに意識があるって…彼になにをしたの?」
「答える義理はねぇな。だが、もうじき死ぬコイツのことを思ったら、話してやらないほうが可哀想だもんな」
話す気はさらさらないと言った顔をしながら鼻であざ笑う。そして、男は闇姫の耳元に顔を近付けた。
「
「!?」
「お前も名前くらいは聞いたことあるだろ?」
「なんてものを……」
「その殺気いいねぇ、ビリビリくる。それでこそ俺様の女に相応しい」
俺様の女、という言葉にピクリと反応する闇姫。
「貴方の女になるなんて、こっちから願い下げ」
「いい加減、俺様に従順な女も飽きてきたとこだ。俺様のことを嫌う女が俺様の虜になったらどんなに愉悦か……今から楽しみだ」
その瞬間、男の目が赤い瞳へと変わった。
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