【連載版】可愛い義妹ができるはずが会ってみたら王子様系イケメンのクラスメイトがいた件

浮葉まゆ

第1話 可愛い義妹ができるはずが……

 学校帰りにお母さんと待ち合わせをして向かった先は少し高めのファミレスだった。お母さんがこのお店に連れてきてくれる時は何かいいことがあった時や私へのちょっとしたご褒美の時だ。


 私――佐藤薫さとうかおるには最近褒められるようなことはなかったと思う。まあ、高校二年生にもなれば小学生ではないのだからそんなに頻繁にあれもこれもと褒められたりはしない。


 となれば、お母さんに何かいいことがあったのだろうか。仕事が上手くいったとか、出世したとか、もしかしたらダイエットに成功したのかもしれない。最近、食べ物のカロリーを気にしているようだし。


 ファミレスでの食事は進んで、食後のデザートに注文した季節のパフェが運ばれてきた。お母さんはデザートを注文しなかったので、一口くらいはあげようかと考えているとお母さんは私が全く予想していなかった言葉を発した。


「お母さんね、再婚しようかなと考えてる人がいるの」


 不意打ち発言に一瞬思考が停止したが、次の瞬間にはお母さんが最近カロリーや体形を気にしていたことやおしゃれに気を使っていたことなんかが合点した。


 なるほど、そういうことだったのか……。


「そうなんだ。どんな人? 優しい感じ?」

「うん、優しい感じね」


 笑顔で答えるお母さんの顔を見ると本当にその人のことが好きなんだろうなと思った。だって、普段は私に対して絶対にこんな顔しないもん。


「いいんじゃない。お母さんが幸せになれる人なら、私は賛成だよ」

「ありがとう。薫がそう言ってくれて嬉しいわ。あとね、相手の人にもお子さんがいてね。薫と同い年の男の子なんだけど……」


 おっと、これは後出しの重要情報ではないか。


 でも、お互いに高校生なら適度な距離で接すればいい。家族というよりもルームメイトに近い関係みたいなれば特に問題はないだろう。


「それで偶然、薫と同じ学校の子らしいのだけど知ってる?」


 お母さんはスマホを取り出し一枚の写真を表示させた。


 光の反射で見づらかったので前のめりになって向かいに座っているお母さんのスマホを覗き込んで驚いた。


 おいおい、こんな偶然ってあるの。


 神様の悪戯か。何かの運命か。そこに映し出されていたのは隣りの席のクラスメイトであり、私をいつもどぎまぎさせている佐藤蓮さとうれんであった。


 ◆【蓮視点】


 親父が再婚を考えていると話した時はさほど驚かなかった。どうもここ一年くらい急に身だしなみに気を使うようになっていたし、休日も出かけることが前より増えていたのでそんなことがあるんじゃないかと心の隅で思っていた。


 俺――佐藤蓮さとうれんが高校生になって前よりは手がかかることもなくなってきただろうし、これから親父が年を重ねるのにいつまでも一人でいるよりはパートナーがいた方がいいに決まっている。


 お相手のことを聞くと、なんと苗字がうちと同じで佐藤ということだ。まあ、佐藤なんてすごく多い苗字だから、佐藤さんと佐藤さんが結婚なんてことはそう珍しいことでもないのかもしれない。さらに、俺と同い年の娘さんがいるということも聞いた。


 親父が少し古い写真だけどと言いながらスマホの画面に娘さんの写真を表示させた。


 写真を撮ったのは小学校の高学年くらいということだ。黒髪ロングのストレートヘアにぱっちりとした目で整った唇をしており、この歳にして可愛いというよりもすでに美人という言葉の方が適切と思わせるような女の子が写っていた。


 小学生でこんなに美人なら今はどんなに綺麗になっているのだろう。こんな子と一緒に暮らせるなんてすごくラッキーじゃん。でも、こんなに美人ならきっと今は彼氏いるよな。


 脳内でそんな下世話なことを考えつつ、美人なら見ているだけで目の保養になるからキモいと思われない程度に距離を保ちながら生活しようという結論に至った。


 それから一週間後の両家の顔合わせ当日。

 予約しているというレストランに到着すると、親父のお相手はすでに店内で待っているという。


 店員さんに案内された個室のドアをそっと開けると室内には先日娘さんの写真と一緒に見せてもらった親父の再婚相手の伊緒いおさんはいるのだが、黒髪ロングの娘さんがいない……。


 代わりにいるのは黒のショートボブのキラキラした男性アイドルのような女の子だ。


 ど、どうして、佐藤さんがここに!?


 俺と佐藤さんは学校で隣の席なのだが、あまりにもイケメン度合いの差が大きいから、イケメンの方の佐藤とじゃない方の佐藤ということで佐藤さんはモブキャラである俺をさらにモブへと押し上げている一因となっている。


 この事態を飲み込めないでいる俺は酸素のない水槽の水面で口をパクパクさせている金魚のような顔をしているに違いないが、佐藤さんはそんな俺にかまうことなく爽やかな笑顔を振り撒きながら手招きをする。


「蓮君、そんなところに立っていないで早く入りなよ」


 女の子にしては少し低めのアルトボイスが響く。


 言われるがまま部屋に入り、佐藤さんの座っている席の向かいの席に向かった。


「これからよろしくね」


 笑顔で右手を差し出した佐藤さんの顔は親父が見せてくれた写真の女の子のものと一緒だった。


 あのロングヘアーの女の子は佐藤さんだったんだ。全然わからなかった。


 こちらも右手を差し出して握手を交わす。義妹が出来たはずなのにどう見ても見た目は義弟なので脳が混乱してしまう。


 可愛い義妹が出来ると思っていたのに、まさか王子様系イケメンのクラスメイトだったなんて……。


 こうして、俺が妄想していた美人な義妹との甘い生活はそれが始まる前に脆くも崩れ去り、クラスメイトのイケメン義妹との生活が始まった。


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次回更新は12月2日午前6時の予定です。

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