119.実力はどれぐらい?

 武器だけでなく防具も一応見せてもらった。機動力を考えると防具は軽いものがいい。

 胸当てと肘当て、膝当て、それから額を守る鉢金を手に入れた。これだけでもかなり違うだろう。中川さんも喜んでいた。


「そういえば君たちの実力をまだ見せてもらっていなかった。もしよかったらその腕前を見せてもらうことはできないだろうか?」


 ジャンさんに言われ、俺は中川さんと顔を見合わせた。別に見られたところで困ることはない。


「かまいませんが……どちらで?」

「ふむ、そうだな。城の練兵場を借りることにしよう」


 そんなわけでテトンさんたちも一緒に城の練兵場へ移動した。移動は馬車である。そんな大した距離じゃないから走ってもよさそうだけど、城に入るのには馬車でないといけないとかそういう流儀みたいなものもあるんだろう。なんか最近思考が脳筋に偏ってきている気がする。ちょっと気を付けよう。

 さて、馬車を下りてジャンさんたちと共に練兵場へ向かうと、端っこの方に一昨日見た王がいた。


「……ジャンさん、なんで王様がここに?」

「おそらく勇者の実力とやらが見たいのだろう」

「……ジャンさん、私たちの周囲に結界魔法を発動してもいいですか?」


 そう断った中川さんの目が笑っていない。確かに後ろから攻撃されたりしたら困るもんな。


「結界魔法が使えるのか? どれだけ魔力量があるんだ?」


 ジャンさんは目を丸くした。そういえば結界魔法はすごく魔力を食うようなこと誰かが言ってたな。それこそドラゴンクラスでなければ使えないのではないかとも。そう考えるとチートもここに極まれりというかんじだ。


「さぁ、それはわかりませんけど一応使えます」

「それならかまわない。遠慮なく使ってくれ。それも実力だからな」


 ジャンさんが頷いたので、中川さんが結界魔法を発動した。結界魔法はそういえば中川さんしか継承してないんだよな。俺も今度継承してもらえたら継承してもらうことにしよう。

 でも結界魔法を発動したなんてわかるものなんだろうか、と疑問に思ったけど、周りがざわめきだした。


「?」

「魔法使いたちが結界魔法の発動を感知したんだろう」


 ジャンさんは楽しそうに教えてくれた。


「一応個別にですけど、私たち全員にかけました」

「うん、ありがとう。感じるよ」


 なんか守られているっていうのはわかる。ドラゴンとは違うけど魔法のかんじっていうのかな。それに守るって意志を感じた。うまく説明できないけど、そんな雰囲気だったと思ってもらえればいい。(だから俺は誰に言ってるんだ)


「ヤマダ様とナカガワ様の武器は飛び道具だったか」

「はい。ただ飛距離とか測ったことはことはないんですよ」


 俺は頭を掻いた。


「弓道なら遠的で60mぐらいだったかしら」

「中川さんは当てられたの?」

「ええ、的が大きければ当たったけど……あの的はそんなに大きくないわね」

「的の間隔は30m、60m、90m、120mだ。120mの的に当てられるのはそういない」

「そうなんですね」


 ジャンさんの説明に俺たちは頷いた。


「テトンはどうだ?」

「私は的に当てるのは苦手ですね。もう少し大きければ90mぐらいには当たるかもしれません」

「ならば試してみたらどうだ?」

「そう、ですね。最近射っておりませんから試してみましょう」

「前座ね。がんばって」


 ケイナさんに励まされて、テトンさんは渡された弓を受け取り、握ったりして確かめていた。一応結界魔法は発動されているが、なにかあったら困るのでジャンさんとケイナさんの後ろについた。中川さんもさりげなくテトンさんの後ろの方にいる。

 兵士たちの数は多くはなかったが、テトンさんの様子を窺っているようだった。

 テトンさんが弓を構えた。

 練兵場に緊張感が走る。

 真剣な表情と共に、矢が射られた。

 ヒュンッと音がしたように聞こえた。


「おお……」


 しっかり90mの的に当たっているのが見えた。アーチェリーって確かあの距離じゃなかったっけ? こんな汎用の弓で当てるとかすごいなーと感心した。兵士たちがわあっと声を上げるのが聞こえた。


「すごいわ! 120mは狙わないの?」


 ケイナさんがきらきらした目で期待している。テトンさんは首を振った。


「さすがに120mは的が見えないよ」


 見えないことはないが見えづらいのかもしれないなとは思った。


「さすが狩人だな」


 ジャンさんがうんうんと頷く。そして俺を見た。


「え? 俺、ですか?」


 自分を指さす。


「弓を使うか?」

「いえ、俺は弓とか使ったことないんで……この石で十分です」


 どーせ多分的には当たらないし、と思いながら腕を振りかぶって石を投げた。


「あれ?」


 みな的を見て、それから俺を見た。

 適当に投げたのだが、何故か俺の石は120m先の的に当たり、その的を壊してしまったのだった。って、どゆこと?


「……壊れた?」

「……壊れましたね」

「山田君、すごいね?」

「……たまたまじゃないかな」


 あれに当たったらいいなーと思って投げただけだし?

 兵士たちは呆然としていたが、やがてぎこちなく動き出し、壊れた的を確認して手を上げた。


「新しい的をいくつか持ってこーい!」


 ジャンさんが兵士に声をかけ、どういうわけかその後はみんなで的当て大会になった。もちろん中川さんの弓も120mは楽々クリアした。


「中川さん、すごいなー」

「山田君の方がすごいわよ。だって壊しちゃうんだもの」


 お互いに褒め合いながら、触発されて弓の練習をする兵士たちを眺めていた。王とその取り巻きは、いつのまにか姿を消していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る