104.唐揚げは正義!

「うまあああい!!」


 唐揚げは正義! だと思う。しかもこのクイドリ、今までのよりおいしい。唐揚げ効果もあるだろうが絶品だった。

 あ、もちろん先にクイドリには塩胡椒はまぶされてたよ。


「おいしいねー」

「おいしい……」

「これは……クセになる味ですね」


 中川さんがにこにこしている。ケイナさんは呆然とし、テトンさんの目はギラギラと光った。先に人数分を避けてもらっていてよかったと思う。そうでなければ戦争になっていただろう。いつもだったらこんなに食べないだろうという量をみんなで食べて動けなくなった。

 途中ミコが興味を引かれてかやってきたので、一欠片あげたらおいしそうには食べたがそれ以上はいらないようだった。塩分過多にならなくていいことである。


「唐揚げというのですか……これは魔性の味ですね」


 テトンさんがしみじみ呟いた。


「でもこんなに貴重な油は使えないわ。ありがとうね」


 ケイナさんがちょっと残念そうに言った。

 あまり油は取れないようだ。菜種油とか生産してないのかな。それとも国が専売でもしているんだろうか。イマイチわからないなと思った。

 オオカミの背に乗っていた時思ったことをテトンさんに聞いてみた。


「この辺りにも人を襲うような獣がいるんですか?」

「そうですね。あまり強くはないのですが、ヤケンやヤチョウはたびたび人を襲います。ヤケンは群れで襲ってきたりするので注意が必要ではあります」


 ヤケン? ヤチョウ? 野犬と野鳥かな。人を襲うのか。そうなると旅もたいへんなのだろうと思った。


「ありがとうございます。なんとなく遠くに敵意を持ったような存在を感じたので……」

「ヤマダ様の察知能力はすごいですね」


 テトンさんに褒められたが、地図チートなんですとは言えない。俺は愛想笑いに留めた。いくら仲良くなっても言えないことはある。

 明日以降の予定をみなと話した。

 明日は予定通り王都を目指す。オオカミには居残りしてもらい、三日経っても戻ってこないようであれば王都の先にある山に向かいドラゴンと合流して王都を急襲してほしいと頼んだ。テトンさんたちは顔を引きつらせていたが、わざわざ森を攻めさせるような王だ。会った途端軟禁されても驚かない。


「……ならば三日も待たず我が王城に攻め入ればよかろう」

「いやいや、王様にいつ会えるかわからないしさ」


 このままテトンさんの伯父さんの館にお世話になったとして、翌日に会えるというものでもないだろう。あ、でもゴートを狩ってこいと言われたわけだからすぐに謁見できるんだろうか。そこらへんはさっぱりだった。


「そうですね。目途がつけば報告に来てもいいですし。ただその報告にも来られないとなれば何かあったと考えていただいた方がいいかと思います」


 多分俺の今の足ならここまでそんなにかからず来られると思うんだよな。だから三日もここにこないということはないはずだ。うん、多分。

 翌朝もクイドリが襲ってきたので嬉々として撃退した。

 四羽の襲撃があった。お肉さんいらっしゃーい! という心境である。昨日使った油はもう一回ぐらい調理できそうだというので(揚げ物にはむかない)、竹筒に詰め直して持っていく。出たカスなどはビニール袋に入れて昨夜のうちに中川さんのポーチにしまった。で、今朝はそのポーチからステンレスのカトラリーが出てきた。


「山田君山田君、見て見てー!」


 中川さんがご機嫌で二本のフォークを見せてくれた。


「あ、フォークだ。嬉しいね」

「しかも二本なの! 嬉しいね!」


 中川さんの頬が赤くなっている。かわいいなって思った。両方とも俺のリュックにしまい、朝ごはんを食べてからゆっくり出発した。オオカミとはここで別れる。オオカミは毎日襲撃してくるクイドリを食べて待っているからかまわないと言っていた。なんとなく食っちゃ寝だと太らないか? とか思ったけど、クイドリは食べれば能力が上がるのかと納得した。

 ゆっくり歩いたつもりだったけど思ったより早く王都の南の門に着いた。どこから来たんだろうと思うぐらい人が並んでいる。その後ろに並んだ。馬車や馬、徒歩とではまた違うようだった。徒歩の方が圧倒的に多くて、そんなに王都に来る人っているんだと感心した。しかも王都の門はここだけではなく、西にも東にもあるらしい。


「時間はかかってしまうかと思いますが……」


 テトンさんがすまなさそうな顔をした。そんな顔することないのにな。


「こういうのは順番だからしょうがないですよ」


 急ぐ旅でもないし、と並んで待っていた。一時間ぐらい待って列が残り三分の一ぐらいになった。簡易の椅子でも作っておけばよかったなとは思ったが、能力が上がっているせいか立ちっぱなしでも全く疲れない。ただ退屈だなーっと思ったので、なんとなく近づいてくるでかい鳥に石を投げてみた。


「ギャアアアアッッ!?」


 うまく当たったらしくその場で鳥が落ちた。後ろの方に並んでいた人たちや馬車から人が下りて鳥に向かって駆けて行くのが見えた。あれも食えるんだろうかと思ったらなんか取り合いになっている。


「……あれはいったい……」

「ヤチョウですね。こうやって並んでいると襲ってきたりするんですが、捕らえれば家畜の肉よりもおいしいので……」

「へえ」


 マップをちら、と確認する。また飛んできたようなので適当に石を投げて撃退した。イマイチ強さはわからないがクイドリより強いってわけでもなさそうなのでほっておくことにした。なんか争いが増えた気がするけど俺には関係ない。

 と思っていたのだが、王都に入る時にひと悶着あった。

 テトンさんがケイナさんとなんらかの札を出し、俺たちの分もお金を払おうとしたところで門の兵士に睨まれた。


「おい、お前!」

「はい? 俺ですか?」

「そうだ! 何故ヤチョウを倒したのに持ってこないんだ!」

「は?」


 首を傾げた。倒した物は自分でどうにかしなければいけないんだろうか? でも誰かがもう全部どうにかして手に入れたみたいだったけど。


「えーと、他の人たちが取ってたので……」

「ならば俺たちの為にあのヤチョウを狩れ!」

「え? なんでですか?」

「つべこべ言わずに狩れと言っている!」


 なんで狩らなければいけないのか聞いているのに答えてくれない。テトンさんが口を挟んだ。


「あのヤチョウを貴方がたの為に狩ったら、この通行税を免除していただけるのでしょうか?」

「そんなことするわけがないだろう! あんなに簡単に狩れるんだから兵士の俺たちにヤチョウを捧げろと言ってるんだ!」


 はっはっはっと門兵が威張った。

 なんかこの国ってこういう奴らしかいないんだろうか?

 いいかげんうんざりしてきた。

 どうしようかなと思っていたら、ケイナさんが前に出た。そして中川さんも。

 女性を矢面に立たせるわけには、と慌てたら、俺の首に巻きついていたミコが、キイイイイッ! と威嚇するような声を上げて兵士たちに飛びかかった。


「ギャアアアッッ!?」

「ひぃいいいっっ!?」


 あーもうこれどうしようって気が遠くなりそうになったけど、俺はミコの主だから。


「ミコ、やめろ!」


 厳しい声を発した。ミコは齧り取った何かをペッとその場に吐き出し、俺の肩に戻ってきた。ミコさん、口の周り血まみれですよ? 倒れている兵士を見ると、鼻までは齧られてなかったようだが、耳の辺りが血まみれだった。顔は恐怖で引きつっている。


「この方はイイズナ様の主です。通ってもよろしいですね?」


 テトンさんが堂々と言い放ち、俺たちはそのまま門から王都へ入った。

 なんかよくわからなかったがこれでいいんだろうか? とりあえずミコには洗浄魔法をかけて怒られた。


ーーーーー

ミコさんを怒らせるとこわいのです。

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