王都へ行ってみよう
94.泊る場所は林で野宿なので
出かける前日に改めて備蓄食料などを確認した。ゴートの肉は干した物を中心に沢山しまってあるから、肉も不自由はしないだろう。
「お前たちは好きに狩りに行ってかまわない。でも必ず一匹はここにいて、ムコウさんたちを守るようにしてくれ」
三匹のイタチたちにはそうお願いした。ミコがキイイイイッ! と威嚇するような声を出した。キュイイッ! とイタチたちが返事をする。今は彼らに頼むしかなかった。
ここから王都までの距離は、徒歩で一か月以上かかると言われている。途中休憩することを考えて普通の人の足で一日30km進めると考えても途方もない距離だと思った。けれどその距離をドラゴンならば休憩を多めにとっても一泊二日ぐらいで飛んでしまうと言うし、オオカミも余裕をもって走ったとしても四日程度で踏破してしまうというのだから驚きだ。
王都の手前の町だか村でゴートを換金したりすること、王都に無事入れたならば買物などをすることも考えて、旅程は余裕をもって二週間を予定している。(こちらに帰ってくる時間も含めてだ)荷物は俺のリュックに入れればいいし、防寒はヤクの毛で十分だ。ドラゴンも一週間後に王都の先の山に着くように向かってくれるというので、ギリギリまでムコウさんたちのことを見てくれるよう頼んだ。
『うむ! 我に任せておくがよい!』
そんなわけでゴートの狩りも頼んだ。解体はムコウさんたちがするからドラゴンは狩ってくるだけでいい。
ムコウさんたちはとても恐縮していたが、俺たちの精神安定の為だからと飲んでもらった。
『上にいる獣は狩ってこない方がいいのだな?』
「自分で狩れない獣を食べ続けると不調が起こるそうですから」
『それは一理ある』
ドラゴンは納得してくれた。
そして迎えた出発の日、オオカミの背にテトンさん夫妻と俺たちが乗り、久しぶりに山を下りていったのだった。
村は無視した。もう俺たちからは関わらない。オオカミは一路北へ進路を向け、飛ぶように走った。途中木々が多いところで休憩を取った時、気になったので聞いてみた。
「オオカミさん、なんか速さ上がってないか?」
『うむ。そなたら四人とイイズナたちのせいかちょうどいい重さでな。この分だと一日程度早く着けるかもしれぬな』
重さの感じ方でスピードにも影響が出るらしい。まぁ、車だって重すぎたらスピード出ないからいろいろ関係してくるのだろう。
夜は予定通り林を見つけ、その中に入った。近くに村はあったが、オオカミと共に行動しているから宿は取らずに野宿である。
林に入ってしばらく進むと、案の定クイドリが攻めてきたのでとっとと撃退した。三羽は飛んできたが、四羽目はこなかったから今夜は諦めたのだろう。クイドリを一羽分オオカミにやり、もう一羽をミコを含むイタチたちへ、そして残りの一羽を俺たちで食べた。これはテトンさんが射ったクイドリだった。もちろん残りは新聞紙にくるんで俺のリュックの中にしまった。
「クイドリとは……こんなにおいしかったのですね。それもこんなに沢山食べられるなんて夢のようです」
テトンさんが感動したように呟いた。ケイナさんもうんうんと頷いている。
「しばらくは林で休むことになりますから、毎日クイドリを食べることになります。明日の朝も襲撃してくるでしょうから早く寝ましょう」
「毎日……それはとても贅沢ですね」
そう言って寝た翌朝、思った通りクイドリが攻めてきたので三羽とも全部捕らえて絞めた。朝ごはんにまたクイドリをオオカミに渡し、食べてからまた駆けてもらった。
よほど走りやすかったのか、二日目の夕方には換金予定の村についてしまった。
「……随分早く着きましたね。でももう門が閉まる時間なので明日の朝に出直しましょうか」
テトンさんたちの言葉に俺たちは頷いた。この国のことは何も知らないから、そういうことは全てテトンさんたちに任せることになっている。
「はい」
返事をして近くの林に入り、昨日今朝と同じことをしてまたクイドリをもりもり食べた。水筒から調味料が出てくることはもうみんな知っているので、水筒を開けようとすると途端に人口密度が高くなる。
今日はマヨネーズだったので半分はミコとイタチたちに進呈した。ここでケチってたいへんなことになるのはごめんだ。俺はクイドリに醤油マヨをかけて食べた。うまかった。テトンさんたちの口にも合ったらしく悶絶していた。
オオカミは性懲りもなくミコたちのところに鼻を突っ込んで齧られていた。平和だなと思った。
「こ、この醤油マヨネーズという味は素晴らしいですね……ただ、マヨネーズは生の卵を材料に使うとか。そんなことをしても大丈夫なのですか?」
テトンさんがおそるおそる聞いてきた。
「卵黄を五分ぐらい湯煎することと酢の分量を増やせば大丈夫みたいですけど、作るのが面倒なので私はあまりオススメしません」
中川さんがきっぱりと告げる。テトンさんはしょんぼりした。
「ええと……今まで何度か出てきているので、またマヨネーズが出た時は一緒に食べましょう」
そう言うとテトンさんの目がキラーンと光った。やはりマヨネーズはイタチたちだけでなく人をも引きつけてしまうようだった。
「マヨネーズって不思議よね? 確かマヨネーズ発祥の地って言われてるのはスペイン? なんでしょう? そこのマヨネーズは卵黄とオリーブオイルを混ぜ合わせたものだったって話だし」
中川さんはいろんなことを知っているらしい。
酢、どこいった。酢が入ってないと危険じゃないか。
「俺は日本のマヨネーズが好きだな」
「私もよ。日本人だもんね」
お互いにそう言って笑った。他の国の人が自分の国の食べ物が一番好きなように、俺たちも自分の国のマヨネーズが好きだと思う。
明日も朝からクイドリを狩ってから村に入ることになる。ゴートがどのくらいの値で売れるのか楽しみだった。
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距離とかスピードとか超アバウト問題。みんなの能力が刻々と変わっていくので測定が難しかったりします。
マヨネーズの話は、キューピーマヨネーズの「マヨネーズの誕生物語」を参考しました。
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