24.ト〇ロは本当にいたんだ!(笑)
椿の若木が刻々とその姿を変えていく。この調子で生えていけば、夜にはいい寝床になるのではないかと思った。
「……不思議ね」
「うん、不思議だね」
本当に、不思議としか言いようがない。
人間本当に不思議なことに出会うと語彙がなくなるらしい。いや、俺がただ単に言葉を知らないだけかもしれないけど。
某アニメ映画を思い出し、ちょうどいい葉っぱのようなものはないかと探してしまう。木々がある方だよな。マップを見れば赤い点があったけどけっこう遠い。葉っぱを探すぐらいなら大丈夫だろう。
「ちょっと待ってて」
自分でもバカだとは思ってる。でもなんかさ、葉っぱ持って上下させるミコとか見たいじゃん。
赤い点の位置を確認しながら大きめの葉っぱをいくつか取った。これ蓮の葉じゃないよな? もしかしてサトイモ? 後でちょっと掘ってみるか。
「お待たせ」
そう言ってミコに葉っぱの茎の部分を両前足で持ってもらう。俺も同じようにして、
「ミコ、この葉っぱをこう上に持ち上げるようにして、育てー! って思ってみて」
「えええ」
中川さんが声を上げた。
俺もミコと同じようにして茎を両手で持ち、「育て、育てー!」と唱えてみた。単純にやりたかっただけです、ごめんなさい。中川さんの目が非常に痛いです。でも好奇心には逆らえませんでした。って、俺は誰に言い訳をしているのか。
ミコも俺の方を見、同じように前足で茎を持って何度もゆっくりと上下させてくれた。ミコさん付き合いよすぎです。愛してます。
感動していたら、目の前の椿が先ほどよりも明らかに早く育ち始めた。
「マジか」
イタチたちが近寄ってきて下に置いた葉っぱをミコみたいに持つ。そして俺たちのように前足で大事そうに持って上下させた。
「うわ、やっぱト〇ロなのか……」
「山田君!」
「はい!」
「私もやっていい!?」
「どうぞ!」
残っていた葉っぱの茎を持ち、中川さんもお付き合いしてくれた。さすがにト〇ロの木ほどは大きくならなかったが、椿の木はぐんぐん伸びてある程度のところで止まった。うちの安全地帯の木より少し低いぐらいである。これぐらいの大きさならイタチたちも安心して暮らせるだろう。
「ト〇ロは本当にいたのね……」
中川さんが呆然としたように呟く。いや、ト〇ロはどうだろう。でも本当にあった話でもいいかもしれない。イタチたちは葉っぱを放り、ミコのところへ集まってわちゃわちゃしはじめた。ありがとうって言ってるのかな。キュイキュイ言っててかわいい。なんかほっこりした。
「山田君がト〇ロの真似事を始めたのには引いたけど……」
やっぱり引かれたらしい。心はいつでも小学生ですいません。
「でも、常識に囚われちゃいけないんだってこともわかったわ。ところでこの葉っぱって、どこにあったの?」
「あっちに生えてたよ」
「あっちかぁー……」
原っぱと、木々の境界の向こうだ。中川さんは肩を落とした。
「この葉っぱサトイモっぽいんだけどな……」
中川さんもそう思ったようだ。だからといってそう簡単に掘りにいくことはできない。
「掘り返すヒマってあると思う?」
「うーん……今は止めた方がいいかもしれない」
なんかマップの赤い点が近づいてきているように見える。
「とりあえず……荷物をまとめようよ。弓も持って行くんだよね」
「うん、ありがとう」
さりげなく中川さんを縄張りの真ん中より奥へ誘導した。そうしてから急いで醤油鉄砲を出す。入ってこないならいいが入ってきた時はコイツの餌食だ。醤油鉄砲ってとこがさまにならないけどな。
ヘビが側に来た。
『相変わらずの察知能力よのぅ。人にしておくのが惜しいものじゃ』
「はは……」
苦笑する。俺は人で十分だ。ミコも戦闘態勢を取っている。
ドドドドドドッッ!!
何か重い物が走ってくる音が離れたところから聞こえてきた。
「え? ええ?」
中川さんが戸惑いの声を上げた。大丈夫、俺もミコもヘビもいる。問題ない。
つーか、なんでこういうタイミングで攻めてくるのかな。木々がある方を見据えて醤油鉄砲を構える。撃ったら急いで離脱だ。あとはきっとヘビがどうにかしてくれる。
「ブオオオオオオッッ!!」
でっかいイノシシもどきだった。俺は狙いを定めて撃ち、急いで逃げた。
「プギイイイイイイッッ!!」
どうやらうまくかかったらしい。俺はそちらを確認しないで一目散に走った。そうしないと俺も引かれて相打ちになってしまうからだ。心臓だの頭だのうまく狙えたってすぐに倒れて死ぬわけじゃない。何mかは走って襲い掛かってくると思っていた方が正しい。足を本当に止めるには、落とし穴でも掘っておくぐらいしかないのだ。
『その醤油鉄砲というやつは万能じゃのう。すぐに死んだわい』
ヘビが満足そうに言う声に、俺はようやく足を止めた。どうにかなったようだった。
マップ上の赤い点は消えたから、もう近くには魔獣はいないのだろう。これだけ全力で走って逃げているんだから少しは足が速くなっただろうか。いや、速さはまた別か。
「お疲れ様」
「ああ、ありがとう……」
目の前に水を入れたコップを出された。ありがたい。一気にどっと汗をかいたところだった。
さすがに狩りはまだ慣れているとは言い難い。でも毎回怪我もせずに倒しているんだからラッキーだと思う。
中川さんはじろりと俺を睨んだ。
「知ってたんでしょ。イノシシが来ること」
「え? あ、うん……」
「今度は参加させてね。それ飲んだら解体しましょ」
「うん」
それでどうにか許してもらえたようだった。別に狩りは男の仕事とか言うつもりはないけど、中川さんには安全なところにいてほしかったんだ。でもまたあの弓は見てみたいから、今度は一緒に狩れたら狩りたいとも思った。
疲れたけど、その後イタチとヘビに見守られながら俺たちはイノシシもどきの解体をしたのだった。ごはん大事。
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やりたかったんです。後悔はしてない(笑)
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