地道にレベルアップ

「やっと着いた……」


やっと、という程の距離は移動していないが、なれない街、見知らぬ文化、見たことのない魔法に包まれて疲弊していた。


「ここが俺の家か……」


所謂普通のマンション、外観はレトロな雰囲気があるが、エントランスなどは現代を通り越して近未来的な雰囲気のある建物だった。

過去の"アンノ"が残した手紙によると、生体認証でドアが開くため鍵は不要とのことだ。


エレベーターに乗り込み7階へ。ここまで鍵がないと不法侵入をしている気分になる。


ガチャ


ドアを開けると二、三の調度品がある普通の玄関だったが、異様に目を引く一冊の本が置いてあった。


「これを読めってことかな……?」


手紙といい本といい住居といい、昔の俺はレトロな雰囲気が好きなようだ。


本を手に取ると、手紙を開けた時と同様に文字が浮かび上がり、頭の中に声が聞こえた。


──この本を手に取るということは、記憶ないまま戻ってきた様だね。落ち着いて欲しい、これは私、そして君の想定内だ。


魔法を様々見てきたことにより、驚きではなく疲弊が感じられた。


──早速だが君に朗報だ。僕は仕事、諜報活動を行っているのだが、その中で記憶が消えることを常に想定している。


そんな想定が必要な仕事は辞めてしまえ。


──だから今までの活動や私の知見は全て魔導書に残している。


何だって……?


──つまり君は記憶が無いが、魔導書を読むことで記憶をリロードすることができる。


記憶もなく、わけも分からず飛ばされた世界で、ほんの少しだけ希望の光が指した。


──君は自分のこと、魔術や格闘術、あるいは常識、身近な人物まで忘れてしまっているかも知れない。


──残した魔導書を読むことで記憶を取り戻し、元の僕に戻る、いや、元の僕と今の君が合わさった新しい君となり、より素晴らしい成果を上げることを期待しているよ。


過去の自分はどうも今の自分に対して過剰な信頼を置いているみたいだ。


──魔導書を読むにあたり注意点が2つ。1つ目はこの魔導書の事は口外しないこと。君の生命線と言える記憶媒体を他者に開示してはいけない。


言わんとする事はわかる。この家を荒らされたら一巻の終わりということだ。


──周囲には記憶が少しずつ戻ってきたとでも伝えるといい。実際にはリアルな映像記録を体験したような感覚だから、記憶が戻るというよりも、記憶を追加するというものだ。


──そして2つめ。こちらの方が重要だからよく聞いてくれ。記憶を取り戻そうとして何冊も魔導書を読みたくなるだろうが、一度に読む量は3冊までだ。


何だって?どんな縛りプレイだよ。


──魔導書からの情報量が多いため、脳へ非常に高い負荷がかかるんだ。おおよそ一週間から一月ほどで次の3冊を選べるようになるだろうから、仕事をしながら少しずつ読み解いてくれ。


毎回レベルを3ずつ上げて挑むということか……厄介なことになったな。


──とはいっても何を読むべきかわからないだろうから、ある程度の道筋は作っている。

①この世界と魔法について

②実用魔術初級編

③指定魔術集団 新魔術研究会

3つ目に関してはこれから君が捜査するであろう、"僕を異世界に飛ばした"組織についてだ。


昔の俺を異世界、つまり俺の元の世界に飛ばした張本人を捜査するってことか……


──わからないこともあるだろうが、適宜僕がサポートする。まずは3冊の魔導書を読んでくれ。




地道な諜報活動開始だ。

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