第47話 止められない想い。 変わる日常と溢れ出た言葉
「つまり、レアブラッドでリリエルジュのマスターであるあんたの近くにチームピクシーベースをプリペアすることで、デモニカへのカウンタープランをよりクローズ化にすると同時にアンジェリケとしてのロールもよりオプティマイゼーションできるってわけ。わかった?」
「アクアちゃん」
「チームピクシーとしても、次期女王候補としても、雄星さんとの関係をより深めたいので、近くに拠点を用意しました。だそうです」
「なるほど」
さすがはアクアちゃん、神がかりな翻訳能力だ。
あとキララちゃんは手元のメモ帳をチラチラ見ない。無理にビジネス英語使おうとしてるのバレちゃうバレちゃう。
まぁ、それはそれとして、だ。
「……キララちゃん。ひとつ質問いいかな?」
「なに?」
「1階の
「もともとご本人たちが計画してた、市外のご家族ともほどよい距離感にある一軒家よ。現実的魔法的、両方を駆使して齟齬が減るように対応したわ」
思ったよりしっかりとした対応!
「珍しいね。キララちゃんがちゃんと
「まぁ、その……心を入れ替えたのよ。ちゃんと向き合おうって」
そう言ってキララちゃんが俺の方をチラッと見た。
(なるほど。これも
その気遣いは好感が持てる。
静かに頷いてみせれば、キララちゃんもホッとした顔を浮かべた。
「キララちゃん。前に住んでた市街地のマンションはどうしたの?」
「あっちも継続よ。あそこはあそこで拠点として便利だから」
「へぇ、市街地のマンション……高級なイメージだ」
「今度遊びに来る? 雄星には知っててもらった方がいろいろ都合よさそうだし」
「お、いいのか?」
ちょっと気になる、高級マンション。
「雄星さんっ! 男の人は女の子の家にみだりに遊びに行っちゃいけないんですよっ!?」
「え、あ、うん。そうだな?」
「何言ってるのよ、アクア。雄星はあんたのマスターで、レアブラッドよ? ブライト様だってもっと交流しなさいって言ってるじゃない」
「そうだけどっ! そうじゃなくって!!」
「もー、変な子ね」
「ははは。でも、一般常識としてはアクアちゃんが正しいと思う。よく勉強してるね」
アクアちゃんの頭をよしよし撫でる。
「うー……」
不満そうにしながらも大人しくなったアクアちゃんから目を離し、俺は改めてキララちゃんを見る。
「とりあえず、キララちゃんはこれからここの1階も拠点にして活動するってことでいいのかな?」
「えぇ、そうなるわ。これからはもっと積極的にあんたとも関わっていくから、よろしくね!」
「了解。キララちゃんなら大歓迎だ」
幼馴染のアクアちゃんと、もっと近くにいたいって本音も透けて見えるし。
これでもう少しでも、二人が仲良くする時間が増えればいい。
「あうあうあう……これはちょっと、どうしたら……うう~っ!?」
アクアちゃんもイヤイヤイヤーンとくねくねして、照れ隠ししている。
こういう微笑ましいやり取りが、これからはもっと見れるようになるわけだ。
「ふふんっ。あんたの強さ、キッチリ盗んで、ぶち抜いてやるから覚悟なさい!」
「お手柔らかに。あ、ごはんとかも食べるなら、一緒にどうだい?」
「えっ」
「いいのっ!? あ、こほん……ええ、アースの文化にもこれからはもっと積極的に触れ合わないといけないからね。学ばせてもらうわ!」
「えっ」
「よかったな、アクアちゃん!」
「……ハイ。ワタシ、ガンバリマス」
不思議と、そのときのアクアちゃんの言葉には涙がにじんでいる気がした。
その理由には、すぐに思い至った。
(嬉し泣きするほどだったとは、俺ももっと協力しないとな!)
これまで俺が奪ってしまった二人の時間を、取り戻してあげよう!
俺は決意を新たに、この素敵な魔法少女たちを応援しようと心に決めるのだった。
※ ※ ※
こうして、全力の勝負を乗り越えたキララちゃんとアクアちゃんとの、より密な交流の日々が始まった。
「雄星さん、今日は」
「アクア! 雄星! 来たわよ!」
「キララちゃん!?」
「修行、私も参加するわ!」
「大歓迎だよ。なっ、アクアちゃん?」
「え、あ、はい……」
「はーい、できたよ。戸尾鳥家特製カレー」
「いただきます……んんん!? か、辛いじゃない! え、こんなに辛いの!?」
「フッ、キララちゃんにはまだ早かったかな?」
「そ、そんなわけないわ! このくらいっ、平らげてみせる!! アクア、水をちょうだい!」
「はーい……」
「あの、雄星さん。今日は一緒に寝ても……」
「アクア! 雄星から寂しがってるって聞いたわ! 私と一緒に寝ましょう!」
「え、あのっ」
「キララちゃんがいてくれるなら安心だよな?」
「アクア! 今日は私があんたが大好きだった子守唄を歌ってあげるからね!」
「や、ぁ……雄星さ…………」
「はいこれ、キララちゃんの引っ越し祝い」
「え? あ、えええ!? クマモノくん1/4サイズもふもふぬいぐるみ!?」
「だいぶ前に手に入れたけどタンスの肥やしになりかけててな。キララちゃんさえよければ貰ってくれると嬉しい」
「あ、うぁ……ん、うん。ありがとう……」
「………」
1階が丸々魔法少女の活動拠点となったのもあり、他のチームピクシーの子たちとの交流も増えた。
とりあえずの対応ってことで、フローリングにところ狭しとふかふかクッションが敷き詰められたリビングは、魔法少女たちの格好のセーフポイントとなっていた。
その結果。
「
「ゆーせー、あられもういっこちょうだい」
「はいはい」
「あたしさんにもくーださーいなー」
「はいはい」
「お兄さん。わたしには口移しを試してみましょう。本で読みました」
「だめ」
「あんたたちくつろぎ過ぎじゃない!?」
「ええ~、セーフハウスなんだからくつろぐのが正解でしょ? ほらほら、キララちゃんもゴロゴロしようよー」
「みんなー、お茶用意したよー」
「ありがとー、アクアちゃん。そこ置いといてくれるぅ?」
「アクアー、こっちもー」
「うん」
俺の家の1階が魔法少女たちの拠点になってから、2週間。
12月。
そこにはゴロゴロうにゃうにゃし放題の、完全なくつろぎスペースが完成していた。
魔法少女たちにとっては、みんなでワイワイやれる、地球で安心できる場所として。
俺にとっては、魔法少女の師匠という、新たな趣味のために拡張された領域として。
この場の誰にとっても心地よい、そんな場所になっている。
――はずだった。
「あの、雄星さ」
「アクア! アクアもこいつらだらしなさすぎって思うでしょっ!?」
「え、あ、うん……」
「あー、アクアちゃん無理矢理巻きこんだー!」
「アクアは私の味方なの! ね、アクア!」
「そうだね」
「くぅぅ、幼馴染パワーだ! ミドリ、ワタシたちも双子パワーで」
「残念。双子パワーはさっき売り切れたからお兄さんで補給中」
「ええー!?」
「………」
「ゆーせー、あられもういっこちょうだい」
「はいはい」
「お師匠様、あたしさんもー」
「はいはい」
「だから、あんたたちだらしなさすぎ」
そのとき。
「みんな! いい加減にして!!」
「「!?」」
突然に響いた、聞き慣れない、怒気を孕んだ大声。
その声の主は。
「アクア?」
茫然としたまま零れたキララちゃんの言葉に、みんなの視線がアクアちゃんへと向いた。
彼女は、キッと睨みを利かせると、何かに突き動かされているかのように言葉を続ける。
「雄星さんは、雄星さんはみんなのじゃない!! 私の……私の
「「………」」
え?
「あ……」
言い切って、少ししたところで、アクアちゃんの瞳に正気の色が戻る。
「ぁ、いや、その……私……」
そして、冷静さを取り戻してしまえば、普段から思慮深く思いやり深いこの女の子は……。
「アクア。ゆーせーは、
「!?」
ただ、不思議そうに間違いを正したクゥちゃんの言葉に顔を真っ青にして。
「~~~~ッッ!!」
ダッ!
「アクア!?」「「アクアちゃん!?」」
家から飛び出していった。
「アクアちゃん!」
何か、何か致命的なことが起こった。
今の彼女の発言には、とてつもなく重い何かを感じた。
その直感に突き動かされて、慌てて俺は彼女を追う。
「アクアちゃ、うわっ!」
家を出ると外は凍えるほどに冷たい雨。
12月の洗礼が、俺の視界を邪魔してくる。
「『神眼通』! 『魔力探知』! 『熱源探知』! ――!!」
単純目視じゃ難しいと、同時に探知系スキルを次々に発動し、アクアちゃんの姿を探す。
が。
「――見つからない!? まさか……アクアちゃんのマジカルか!?」
世界は、彼女の姿を俺から隠してしまっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます