第170話 むず痒い…

 何やら『天空に散らばる~~~』とか言い出し『ぼくの考えた最強魔法』でも唱えそうな勢いで詠唱を開始したお貴族さま。

 前世…勇者だった頃の俺なら、ソレを聞いて身悶えしていたかもしれない。なんなら今でもちょっとむず痒いくらいだ。


「これが若さか…」


 シーバス黙れ。心を読むんじゃない。あと、何でそのネタを知っている?「はて…?」みたいな顔をするな。ぶっ飛ばすぞ。

 そんなことを心の中で思っていると…


『~~~~~~』


 ………えっ?まだ詠唱終わらないの?一体どんな大魔法を使う気だよ?


「………………」


 その割には、それほどの魔力の高まりとか無いし、魔方陣も出てきてないんだよなあ。

 ………どうすんのコレ?俺が待っていれば良いの?もう、グーで殴って良い?


 げんこつを落とすようなジェスチャーをシーバスに見せると「ソレはさすがに…」と言うようなジェスチャーを返してくる。

 やはり、状況的には待つのがお約束なのか…。戦闘中に待つとかバカなの?と俺は思わないでもないんだけれど…。


 そして、ようやく詠唱が終わり、お貴族さまは手を前につき出す。手のひらの前には赤く光る魔方陣を展開している…んだけど………小っさ!魔方陣小っさっ!!


「フハハハハッ!喰らうがいいっ、我が必殺の『火球』っ!!」


 お、おおぅ?…さっきまで超ビビっていたのに、急にイキり始めたぞっ!?

 だいたいその前に、今の流れ的にここは極大魔法ないし上級魔法を使うところだろう?何だよ『火球』って?


『ヒュッ』と音を上げて、魔方陣から野球のボールほどの火の球が放たれる。

 ………小っさっ!?遅っそっ!?


「えっ?コレもうヤッちゃって良い?」とシーバスに視線を送ると「コクコクコク」と頷くが…シーバスも苦笑いである。


 俺は近付く火の球を『ペシッ』と叩き、地面に落とす。『火球』は『プシュ~』と音を残し、そこから消えてしまった…。


「………………弱っ」


「バ………バババババ、馬鹿なっ!?必殺の『火球』がっ!!?」


 えええぇ…必殺が拳大の火の球って…。


 お貴族さまは先ほどよりも汗をだらだらと流し、さらに顔を青くしてガタガタと震え始める。

 いや…うん、あの小さい『火球』を『ペシッ』と叩き落としただけなんすけど…。


 とりあえず…


 格の違いってやつを見せておこうか…。二度とゼハールト家に…俺に逆らわないように…。


 俺は手のひらを上に向け、頭上に腕を上げる。


「『火球』…」


『ポッ』と出たピンポン玉程度の火の球は、徐々に大きくなり…

『ゴオォォォ…』と火が燃え盛る、直径一メートルほどの大きな火の球が赤い光と熱を放つ。

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