第39話:目指せ優勝
***
仁志名のコンテスト応募用写真、そしてみんなと合わせを撮影する日曜日を迎えた。
場所は市内にある市民総合フラワー公園。
公園中に花壇があって、四季折々の花が色とりどりに咲いている市民憩いの場所だ。
ここは市がコスプレイヤーの利用に力を入れていて、事前に届出をしておけば自由に撮影ができるし、更衣室も利用できる。
着替えを済ませた仁志名と一緒に集合場所に行くと、はるるとくるるは既に来ていた。
はるるはDALのメインヒロイン。金髪のウィッグに青を基調としたロングドレスの『精霊のジャンヌ』。
くるるは影峰喰衣を闇堕ちさせた
仁志名の影峰喰衣も含めて全員がDALのコスプレ。
複数人で同じ作品のコスプレをすることを『合わせ』と言うらしい。
今日は仁志名のコンテスト応募用写真をソロで撮影してから、みんなで合わせ撮影をする予定になっている。
「うっわぁ、ゆずゆず凄いねー! そのコス完璧じゃん!!」
「ううむ……やるな……」
はるるもくるるも仁志名の衣装を大絶賛だ。
良かったな仁志名。苦労して装飾を仕上げた甲斐があったよな。
「仁志名。そろそろ始めようか」
「りょっ!」
色とりどりの花をバックに撮影をスタートした。
仁志名は前回くるるにアドバイスを受けたおかげで、ダークな雰囲気の演技も板についてきた。
角度によって写り込む花が変わり、背景の色合いが変化する。
華やかな背景に、喰衣のシリアスでダークな表情がコントラストとなってさらに映える。
うん、なかなかいいぞ。
ファインダー越しに覗く仁志名の姿。
黒を基調としたドレス。
紫がかった長い黒髪。
艶かしく曲線を描く手足。
無機質な瞳と氷のような表情。
背筋が凍るほどの美しく整った顔。
──綺麗だ。
震えるほど綺麗だよ仁志名。
「おおっ、いいねぇ〜 素晴らしい!」
「激しく同意」
俺の横で見学しているはるるとくるるも感動の言葉を口にしている。
何十枚か写真を撮って、一旦撮れ具合を確認することにした。
みんな集まって、俺の手元のタブレットを覗き込む。
「おおーっ、かなりいいね!! 前回よりコスも演技も断然良くなった」
「そうだね。素晴らしさの極致だ」
はるるとくるるが褒めてくれた。
確かにいい出来だ。
緻密な装飾まで忠実に再現し、仁志名のバツグンのスタイルにフィットした衣装。
ダークな雰囲気を醸し出す演技。
今まで撮ってきた写真よりも、圧倒的にクオリティが上がってる。
これだけでも審査員の目を引き、入賞できる可能性は充分ある。
「どうかな日賀っぴ。優勝できるかな?」
優勝するには、数多くの審査員から票を集めないといけない。
無名のゆずゆずが、確実に多くの審査員の目に止まり、多くの投票を得るには──やっぱり、まだひと工夫が必要だ。
「そうだな。これでも可能性はあると思う。だけど……」
「だけど?」
「確実に審査員の目を引くために、演出をもうひと工夫したい」
「ひと工夫……って?」
俺は持参したバッグから四角い箱を取り出した。
みんなは何事かと興味津々で、俺の動きを見つめている。
箱の蓋を開けて、中から取り出したのは──
緻密で麗美な衣裳とエロティックなポーズを限りなく忠実に再現した、4分の1スケールの大型フィギュア。
「おおーっ、それなに!? すっごくカッコいい!!」
「おわう……素晴らしい。私も欲しい……」
はるるとくるるが目を丸くして、感嘆の声を上げた。
「日賀っぴ、これって……」
「そうだよ。仁志名のおかげでようやく手に入った、
「ねぇ日賀っぴ。それ、どうするの?」
「これを使って、仁志名の写真に個性的な”引き”を作るんだ。演出の一種だよ」
「へぇー……どうやって?」
もっともな疑問だ。
「それは、フィギュアとコスプレイヤーの共演だ」
俺の言葉に三人とも息を飲んだ。
遠近法を利用して、手前に置いたフィギュアと遠方の仁志名を同じような大きさに撮る。
超広角レンズを利用して両方にピントを合わせたら、人形と人が並んでいるように見える。
フィギュアと人間が上手くポーズを合わせたら、カッコよくて面白くて、そして目を引く写真になるはずだ。
フィギュアの”最高の表情”を写真に切り取るのは俺の得意技だ。
俺も初の試みだけど、きっと上手くいく。
「それ、いいっ! おもしろそーっ! さすが日賀っぴ!」
「よし、やってみるか」
「りょっ!」
こうしてフィギュアとコスプレイヤーの共演写真の撮影に取りかかった。
***
共演写真を何枚か撮影して、またみんなでタブレットを覗き込んだ。
綺麗な花壇をバックに、フィギュアと仁志名の影峰喰衣が
「おおおーっっっ! これはっっ! いいじゃんいいじゃん!」
はるるが絶叫。
「ホントに凄い! カッコ良すぎ!!」
くるるが珍しく大きな声を出した。
「ほえええええぇぇぇ! これヤバいて!」
仁志名自身も咆哮を上げる。
対の決めポーズのフィギュアと仁志名の共演は、予想通りインパクト充分だった。
そして──
人の手で作られたフィギュアよりも完璧に美しい仁志名だからこそ、コスプレイヤーが見劣りせずに、まさに相乗効果で画面全体の美しさが増している。
いや、自分で言うのもなんだけどさ。
これ、めっちゃいいんじゃないの~~~っっっ!!
三人とも大絶賛してくれて、この写真をコンテストに応募することに決めた。
公式サイトの応募フォームから、仁志名がエントリーをした。
「ふぅ~っ、応募かんりょーっ!」
仁志名の言葉を聞いて、ようやく肩の荷が降りた気がしてホッとした。
「お疲れ、仁志名」
「ありがと日賀っぴ。お疲れーしょん」
あ、いや。
審査の結果、仁志名の夢である優勝を勝ち取るまで気を抜けない。
「まぁ応募が終わったら、あとはあたしらはなーんもできないからさ。そんな難しい顏しないで楽しもーよっ!」
──あ。
仁志名がニカリと笑いかけた。
きっと俺に気をつかってくれたんだ。
「そ、そうだな。応募が終わったら、みんなで『合わせ撮影』をするんだった。……あれっ? そう言えば
天国さんは
主人公がいないと、合わせが締まらない。
「お待たせ。ちょっと急な仕事の連絡が入ってさ」
あっ、天国さんが来た。
声が聞こえた方に目を向けると。
──えっ?
あれは精霊ユザル。めちゃくちゃ戦闘力が高くて、中性的な見た目の性別不詳なキャラ。
確かに天国さんにぴったりのコスプレなんだけど……主人公の十坂はどうした?
今日は主人公抜きでの合わせか?
「てんごくさん、その格好……」
はるるとくるるも驚いた顔してる。
「はい、ゆずゆず。これ、頼まれてたもの」
「サンキュッ!」
仁志名は天国さんから大きな袋を受け取った。
そして中から何かのキャラのコスを取り出す。
そのコスを両手で俺に向けて広げて、ニマと口角を上げた。
「じゃじゃんっ!」
それは
「なにそれ?」
「日賀っぴのだよ。今日は日賀っぴに、十坂コスをしてもらいまーすっ!」
──は? なんですと?
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