13号
津山軽 形
第1話 仕事納め
サックッ、サックッ、サックッ、雪を革靴で踏みしめながら、国道沿いの歩道をただ歩いている。暗闇を照らすのは、車のヘッドライトやラブホのネオン。今日は、平成29年12月28日、世間では仕事納めの日である。私も、今日が仕事納めだった。
こうなったのは、そもそもあいつのせい。昨晩「明日は仕事納めだ一緒に飲もうっ。」と意気揚々と電話してきた同期。当日の午後になったら突然、「仕事が終わらなそうだから今日はパス」だと。・・・ただ、こうなった原因には自分も悪いところがある。明日からまとまった休みになる!という高揚感で、「これ、歩いていったらバス代浮いて良くね?」と考えてしまった。
そして、歩くこと30分・・・いっこうに着く気配がない。雪もちらちら降りだした。「・・・何をやっているんだろう?いやっ!明日から休みやで!なんでこんな辛気臭いことになってるの?・・・革靴滑る。」と思いながら、滑りこけそうになりながら、歩いて行くと、大きめの建物が向かって右側に見えてきた。今は、英会話教室になっているけれど、私のなかでは他の記憶が大半を占めていた。その建物にまつわる記憶。あれは、そう、10年ほど前。私がまだ高校1年生のころだ。
私は、そのころ地元で有名な男子校の高校に通っていて、演劇部に所属していた。最初は、まったく入るつもりはなかった。はじめは写真部に入ろうとした。でも、見学にいくと化学室の暗―い部屋の片隅で何やらわけのわからない話を先輩方がしているのを見て、失礼ながら「この中に入りたくない‼」と直感的に判断した。そんなこともあって、入部する先を決めかねていた。この高校は全員が部活をやらなければならず、例外はなかったからだ。
そんな時、一緒のクラスになったK君が初対面なのにやけに「一緒に演劇部に入ろう‼」と私を誘ってきた。「やけに馴れ馴れしいな。」とまゆをひそめたが、その熱心さに押され、根負けし、「まずは見学だけね。」と彼に放課後ついて行った。あとから判明するのだが、このK君、実は幼稚園時代の親友。幼稚園時代は苗字ではなく、下の名前で呼んでいたため、まわりの同級生から苗字で呼ばれる彼に、まったく気が付かなかった。また、幼稚園時代仲良くしていた友達が彼も含め、4人ほどいたのだけれど、その4人とも、小中学校が違うにも関わらず、同じ高校に入学していたことがわかる。縁とはすごいものだ。
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