第2話 夜見さんの正体は……(前編)
夜見美月――彼女の銀色の髪はひときわ目を引く。いつも手入れが行き届いておりさらさらでエンジェルリングが輝いている。幼さが少し残っている顔立ちにぱっちりとした碧眼。普段から姿勢がいいからか上品でお嬢様というような雰囲気がある。
しかし、そのお嬢様風の見た目とは異なり性格が鼻につく様子もなく、俺のような草の陰で生活しているクラスメイトにも気さくに声を掛けてくれるという性格も一級品な子だ。
そして、彼女の魅力をさらに引き立てているのは彼女の話す京都弁だ。中学までは京都にいたということで今も基本的に京都弁を話す。そのはんなりした言葉に男子生徒諸君のハートは射抜かれ告白者が後を絶たない。
でも、彼女の答えはいつも決まっている。
「ごめんなさい。お付き合いをすることはできません」
告白する男子生徒の中には、もはや夜見さんと二人きりで、この言葉を聞きたいがために告白をする者がいるようだ。
なんてドMな根性なのだろう。俺にはまねできない。
さて、そんな銀髪碧眼の美少女がなぜか引っ越してきたばかりのうちの玄関にいる。いつもならこの光景に驚いたリアクションを取っているかもしれないけど、今日に限ってはうちの玄関に夜見さんがいることのインパクトはさほど強くない。
ただ、それでも理解が追い付かなくて、ぼーっとしている俺に夜見さんは荷物を置くと丁寧にワンピースの裾を摘まんでカーテシーをした。
「ごきげんよう、陽さん。うちはあなたの許嫁として派遣されてきました。これからよろしゅうお願いします」
夜見さんは何を言っているのだろう。許嫁? 派遣? って何のことだかさっぱりわからない。もしかして、テレビ番組の企画で可愛いクラスメイトがいきなり許嫁として現れたらどういうリアクションをするかというものだろうか。そうだとすれば、気づいていないが部屋の中には隠しカメラがあるに違いない。それにテレビの企画なら部屋がこんなに豪華なのも納得がいく。
「えーと、夜見さん、これって何のドッキリなの? 俺、今日はもういろいろあってそういう冗談には付き合えないのだけど」
「これはドッキリや冗談ではありまへん。うちは陽さんの許嫁として派遣されたんです。まあ、急にこないけったいなこと言われて驚くのも無理あらへんけど……、とにかく、説明するさかいあげてもらっていいですか?」
両手をフリフリしながら必死に説明しようとする夜見さんを不覚にも可愛いと思ってしまった。
近所の目もあるし、クラスメイトをこのまま玄関に放置するわけにもいかないので部屋に通すことにした。もちろん、部屋に上げることに下心はない。もし、俺がスケベな態度をとれば、どこからか「ドッキリ成功」と書かれた看板を持った人が現れるに違いない。
荷物を持った夜見さんはすかすかのリビングをマンションの内覧にでも来たかのように見渡している。
「おお、思ったよりいい部屋やわぁ」
「いやいや、夜見さん、これからここに住むみたいなこと言っているけど、ここ俺の部屋だから」
「何言ってますの。うちはこれから許嫁としてここで陽さんと一緒に暮らします」
あー、まださっきのドッキリ続いてるんだ。勘弁してくれ。玄関で騒がれても困ると思って家に入れたことを痛烈に後悔する。このドッキリかなりマジなやつだ。
ならば、さっき言っていた説明とやらを求めたい。
「夜見さん、さっきから許嫁って言っているけどどういうことなの、俺にはさっぱりわからないのだけど」
「そうやった。その説明をせなあかんね。じゃあ、この動画を見てください」
そう言うと、夜見さんは鞄からタブレットを取り出して、動画サイトのアプリを起動させた。再生された動画にはVTuVerだろうか2Dの可愛らしい銀色のキツネ娘キャラクターが映し出された。
このキャラどことなく夜見さんに似ているような気がする。
『はい、どうも、みんなの心のオアシスみづリンだよ。今日は一部の界隈で盛り上がっている許嫁派遣についての情報だよ――』
このキャラの声どう聴いても夜見さんな気がする。話し方も強引に標準語にしたような感じで端々に京都弁ぽい感じが残っているし。
「ねえ、夜見さん、このキャラって――」
「いいから、説明聞いてください」
横にいる夜見さんの方を見るといつもの白く透き通るような肌が耳まで真っ赤になっている。俺としてはこのレアな夜見さんを目に焼き付けておきたいけど、よそ見をしていると本気で怒られそうなのでやめておく。
『――みんなも知っていると思うけど、決まった稲荷神社に参拝して油揚げを奉納すると一日一ポイントの御利益ポイントがもらえるよね。これを毎日欠かすことなく続けて御利益ポイントを溜め続けると様々な御利益と交換できるってこともいいかな――』
さも常識のように話しているがどの情報も一般常識から大きく乖離していると思う。
『交換できる御利益は一〇〇ポイントの恋の応援コース(1回)、一〇〇〇ポイントの恋の応援コース(無制限)、五〇〇〇ポイントの許嫁コース、二〇〇〇〇ポイントの極楽浄土コースがあるよ。極楽浄土コースを目指している人は大抵が達成する頃に本当に極楽浄土に行っちゃうから狙うのは覚悟を決めてね――』
可愛い顔して言っていることはかなりブラックだぞ。
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リメイク作品ですが途中からは独自ルートにしたいと思っていますので、過去に読んだことがある方もお楽しみに!
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次回更新は12月3日午前6時の予定です。
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