第18話 悪友キャラ、最推しを前に昇天しかける
それから、愛奈は神崎家にほぼ毎日訪れることになった。
どうも神崎家と来栖家の両親はともども仕事で忙しいらしく、子供たちは一緒にいる様に言われたのだ。
うん、さすがギャルゲの世界『ソードマジックラブリー』だな(錯乱)。
もう俺は突っ込まないぞ……。
とは言っても、愛奈が神崎家に集まったところですることは変わらない。
強くなるための特訓。それだけである。
日中は魂の武器の特訓をし、それを魔力が切れるまで続ける。
妹の真矢は俺と愛奈に引いていた。それだけ特訓を続けているからだろう。
「……魂の武器はもっと深層意識が大事。言葉で表すのは難しいけど心で通じ合わなければダメかもしれない。力で無理やりじゃなくて……魂の武器をもっと大切に扱う様にしてみたらどう?」
「もっと大切に……寄り添う感じか?」
「そう。神崎は無理やり力で従わせてる。もちろん、そういった魂の武器の使い手がいるのは事実。だけど、うまくいかない様なら手を変えてみるのはありかも」
愛奈は自分の魂の武器を撫でながら答えた。
俺は頷いて、今までのやり方を変えてみることに。
風魔法で宙に浮かせる様にするのではなく、魔力を直接――デスサイズに流し込んで寄り添うようにした。
すると、デスサイズは一瞬だけ風魔法の影響からか、緑に輝いてみせたが、特にそれだけで反応を示すことはなかった。
……ただ、魔力吸い取られただけだな。
拍子抜け感があったが、愛奈はゆっくりと頷いた。
「……そうそう。最初は魔力を流し込むだけでもいいからきっと寄り添うのも大事だと思う」
「そうか、ありがとな……来栖」
「ううん、別に」
どこかそっぽを向きながら愛奈は答える。
俺は全然‘魂の武器‘を使いこなせてないってのに……愛奈は魂の武器は使いこなせている。もっとも、覚醒状態にはいたっていないが……。
「もっと特訓していかないとな……」
「十分、神崎は頑張ってるでしょ……これ以上とか正気の沙汰じゃない……」
愛奈がジト目を浮かべながら小声でつぶやく。
「……あ、あのっ。来栖さん……良ければ私も‘魂の武器‘について教えて貰いたくて……」
おそるおそる妹の真矢が声をそのタイミングで投げかけた。
自堕落な生活を送っていた妹であるが、俺に感化されて頑張る様になったらしい。
いい刺激を俺は与えられているのだろう。
そう思うとどこか高揚感に気持ちが包まれた。
「うん、私で良ければ全然……えっと神崎妹」
「は、はいっ……!」
勇気を出して声をかけた真矢にエールを内心で送るのと同時に俺は思わず笑みを浮かべてしまった。
原作での愛奈の姿を思い返したのだ。
原作時に彼女は人の名前を呼ぶのが恥ずかしいらしく、異性ならともかく同性までも下の名前で呼ぶことができずにいたのだ。
たしか、主人公に最初の下の名前呼びを解禁するんだけど、その威力はヤバかったんだよな……。
多くのユーザーが鼻血を出したに違いない。
俺の笑みに気づくと愛奈は眉を寄せて不快な表情を示す。
「な、なに? その笑顔は」
「い、いや……別になんでもないよ、なんでもない」
もうアフロになるのは勘弁だからな。
俺は口笛を吹きながら誤魔化した。
「そ。なんか不愉快な視線を感じたから、ごめん」
軽く謝って愛奈は真矢に向き直る。
俺の指導は終わって今度は真矢の指導に映ることになった様である。
「そういえばダガーだったよね。私、魔法は感覚でやってるスタンスで……あまり教えられないから」
「ええ、ダガーです。左手の攻撃がどうしても弱くなりがちなので」
そんなやり取りをしながら妹と愛奈はその場を離れていく。
俺はそんな二人の後ろ姿を見つめて、自分の特訓に励んだ。
デスサイズを風魔法で宙に浮かせるわけではなく、今度はデスサイズにゆっくりと魔力を流し込んでいく。
要は先ほどの愛奈からのアドバイスを俺は受け入れたわけである。
……みんなで強くなってる感じがしてなんだか楽しいな。
照りつける太陽を眺めながら、俺たちは特訓という名の青春を謳歌した。
♦♢♦
『ソードマジックラブリー』の世界では魔法の特訓も欠かせない。
魂の武器が最優先事項になるのは間違いないが、その扱いが未熟な神崎琢磨は魔法の強化について、避けては通れない道なのだ。
その事実に気づいていた俺は、朝の時間、魔導図書館に訪れてから特訓していこうかと考えたのだが………。
その魔導図書館で嬉しくも驚愕することが起きたのである。
「……あ、あの……突然声をかけてしまって申し訳ないですけど……」
「え……?」
「あのっ、あなたのことが少し気になりまして……」
うやうやしく、どこか恥ずかしがりながら声をかけてきた人物は雪雨雫。
魔法学園では魔法最強の少女であり、そして、俺の最推しであるメインヒロインがそう声をかけてきたのだ。
俺はあまりのことに昇天しかけ目を点にさせる。
………やばい、声掛けられただけだけど……俺、もう死んでもいいかもしれない。
「え、えっ……そ、そのっ……し、しっかりなさってください」
あわわ、としながらも静かに身体をさすってきた雫を前に俺はこの事態を『夢だ!』と決めつけたのだった。
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