ダブルソード~小説の世界へ転移しちゃって憧れの主人公に出会ったはいいが……なんか設定と違うんですけど?~
磊蔵(らいぞう)
【王都アドラ編】第14話 家族のかたち
ガタガタと揺れる馬車の上で、前を走るルカの背中を眺めながら、和哉は気になっていた事を隣で手綱を握っているギルランスに聞いてみた。
「ねぇ、ギル……」
「ん?」
前を向いたまま返事をするギルランスに、和哉は遠慮がちに口を開く。
「あ、あの……ギルとアミリアさんって……幼馴染って言ってたよね?」
「――ああ」
「その……ギルはアミリアさんの事……好き……だったりするのかな?」
「はあ!??何言ってんだお前?」
突拍子もない和哉の質問に、ギルランスは驚いた様に声を上げ振り向いた――その表情には呆れの色が見える。
(あれ?違ったのかな?)
てっきりそうだと思い込んでいた和哉だったが、どうやらそうではないらしいという事に気付いて質問を変えてみた。
「え、えっと……じゃあアミリアさんとはどういう……?」
「あ?――ただの腐れ縁だよ」
ギルランスは素っ気なくそう答えるが和哉はなんだか納得がいかない――一般的な幼馴染にしてはとても仲が良さそうに見えたからだ。
だからこそ聞いてみたのだが、どうも要領を得ない答えに和哉は首を傾げる事しかできなかった。
そんな和哉の様子を横目で見ていたギルランスは、少し考える素振りを見せた後、改めて口を開いた。
「……まぁ、あいつとはガキの頃から一緒に育ってきたからな、妹みたいなもんだ」
「え?一緒にって……?」
予想外の返答に和哉が目を丸くすると、ギルランスはどこか懐かしむような顔で続きを語り始めた。
「俺もあいつも孤児だ……教会が運営する孤児院で一緒だった――あいつがどういう経緯で施設に入ったかは知らねぇが、俺の場合は施設の前に捨てられていたらしい……それを院のシスターに拾われたんだ」
このギルランスの話に和哉は驚きと戸惑いを隠せなかった。
てっきり読んでいた小説の設定通り、彼もアミリアも貴族の出かと思い込んでしまっていて、まさかそんな過去があったとは露ほどにも思っていなかったからだ。
(やっぱり、ここはあの小説とも違う世界線の世界なんだ……)
そう実感せざるを得なかった。
そして和哉はネアイラ村の酒場でギルランスが言っていた『歳なんてホントのとこ、どうだっていいだろ』という言葉を思い出していた。
それはつまり、彼は自分の”本当の誕生日を知らない”という事に他ならなかった。
ギルランスの年齢が『18歳』というのも、おそらく拾われた日から数えたものなのだろう。
(そっか……ギルは、自分の誕生日を知らないんだ……)
改めて彼の生い立ちを知る事ができた和哉は胸が締め付けられるような気持ちになった。
それと同時に何も知らなかったとはいえ彼を傷付けてしまったかもしれないという事に気付き、申し訳なさが募る。
「あ……ごめん……」
思わず口から零れてしまった謝罪の言葉にギルランスはキョトンとした顔を見せた。
「はぁ?何謝ってんだよ?」
(なんだろう?この顔すごくホッとする……)
そんな事を考えつつ和哉は曖昧な笑みを浮かべる。
「いや……だって……僕、無神経な事聞いちゃったなぁって」
「――あぁ、それか……別に気にしてねぇよ、事実だしな」
ギルランスはあっけらかんとした顔で答えると、話を続けた。
「――んで、そんな境遇だった
ギルランスの意外な告白に和哉は驚くと同時に疑問を抱いた。
(あれ?『嫌い』なのに僕とは一緒に行動するの??)
もしかして嫌われているのかと少し不安になったのだが、そんな和哉の考えを見透かしたようにギルランスはすかさずフォローを入れてくれた。
「ああ――お前は違うぞ?……なんか分かんねぇけど、お前なら側にいても別に苦にならねぇかなって……――つーか、話戻すぞ!」
自分の言葉に照れ臭くなったのか、頬を掻きながら視線を逸らすギルランスの様子を見て、和哉は胸の奥がじんわりと暖かくなるのを感じた。
(あれ……なんだこれ?凄い嬉しいんだけど?)
初めて味わうような感覚に戸惑いながらも、和哉は彼の話の続きに耳を傾ける。
「――まぁ、あいつはそんな状態の俺にもお構いなしにいつもくっついてきて……正直うっとうしいと思った事もあるが、いつの間にかそれが当たり前になってた……なんだかんだ言ってずっと一緒だったからな、兄妹みたいな感覚かもしれねぇな」
「そうなんだ……」
どうやらギルランスは本当にアミリアの事は妹のような存在としてしか見ていないようだ。
(でも……なんとなくだけど、あのアミリアさんの感じはギルの事……)
そんな事を考えながらまたチラリと隣を見ると、丁度こちらを振り向いたギルランスと目が合った。
それに何故かドキリとしてしまい、和哉は慌てて別の話題を振る。
「そ、そういえばさ、ギルはどうして冒険者になったの?」
「ん?あぁ、俺が10歳くらいの頃だったか、ふらっと施設に現れた師匠が俺を引き取ってくれたんだ」
「へぇ~そうなんだ!」
「まぁ、それからはずっと修行漬けだったな……あのじじぃ、まだガキだった俺にも容赦しなかったから大変だったぜ」
当時の事を思い出しているのか、ギルランスはうんざりしたような表情で溜息を吐いた。
その口ぶりからそうとう厳しい師匠だった事が窺える。
「朝から晩まで剣やら槍やら魔法やら色々叩き込まれたな……そんで、やっと師匠の正式な後継者として認められて双剣『
言いながらギルランスはどこか誇らしげにニヤリと唇を歪めて見せた――その表情から彼の師匠に対する尊敬の念が伝わってくるようだった。
なんだかんだと言いつつも、ギルランスはその師匠の事が好きだったのだろうという事は和哉にも容易に想像が出来た。
「まぁ……たぶん、俺にとっちゃシスターが母親でじじいが父親みてぇなもんなんだろうな……」
そう言ってフッと笑うギルランスの横顔はとても穏やかで優しい目をしていた。
(そっか、家族かぁ……そういう家族のかたちもあるんだろうな……)
そう思うと和哉は急に胸が締め付けられるような気持ちになった――元の世界の家族の事を思い出してしまったからだ。
(みんな元気かなぁ……)
自分は元の世界ではどうなってしまっているのだろうか……行方不明にでもなっているのか、それとももう既に死亡扱いになっているのか……どちらにせよあまり良い状態ではないだろうという事は想像がついた。
(会いたいなぁ……美緒に父さんに母さん……それに
それはもしかすると叶う事はない願いかもしれなかった。
家族とはもう二度と会う事は出来ないかもしれないという現実を思い知らされて、胸が締め付けられるような感覚に襲われると同時に無性に寂しさが込み上げてきた。
そんな時――
「カズヤ?」
不意に隣から声を掛けられ、和哉はハッとして顔を上げた。
そこには心配そうな表情で覗き込んで来るギルランスの顔があった。
「どうした?ボーッとして?」
「あっ!ご、ごめん!何でもないよ!」
慌てて誤魔化すようにそう言う和哉にギルランスはそれ以上追及してこなかった。
しかし代わりに思いがけない言葉が返ってきた。
「そうか……まぁ、何でもかんでも話せって訳じゃねぇから、話したくなったら話してくれりゃあそれでいい」
そう言って彼はニッと歯を見せて笑った。
そんなギルランスの優しさに和哉は胸が温かくなるのを感じた。
「うん……ありがとう……」
(こういう所がズルいんだよなぁ)
普段はぶっきらぼうで俺様なくせに、時おり見せる彼のさりげない優しさが和哉にとってはくすぐったかった。
そして、改めて良いパートナーと出会えた事に感謝すると、和哉は過去よりもこれからの事に気持ちを切り替え、再び前を向いたのだった――。
****
****
暫く沈黙が続き、馬車を走らせる音だけが響く中――やがて、ガタゴトと揺れる馬車の振動が心地良いせいか和哉は眠気を感じ始めていた。
「ふぁ~~」
思わず大きな欠伸が出てしまう。
そんな和哉の様子を見たギルランスはクツリと喉を鳴らせて笑った。
「なんだお前、眠いのか?」
「うん、なんかさっきから眠くて……」
そう言いながら和哉はまた一つ大口を開けてアクビをした。
「おい、気をつけろよ――寝ると落ちるぞ?」
「うん……大丈夫……」
ギルランスに注意され、目を擦りながらも起きていようと頑張る和哉だったが、瞼が重くてすぐに閉じてしまいそうになる。
そして、ついにはウトウトとし始めてしまった。
「あー、こりゃダメだ……」
ギルランスは呆れたように言うと、片手で和哉の肩を抱き寄せ、その体を支えてくれた。
揺れる馬車から落ちないように、という彼なりの配慮なのだろうが……
「えっ!?ちょっ……!」
突然の事に驚いて顔を上げる和哉のすぐ目の前に、ギルランスの端正な顔が迫っていた。
その近さに思わずドキリとしてしまう。
「いいから寝てろ、後で起こしてやる」
そう言ってギルランスは和哉の頭を自分の肩口に寄りかからせると、そのままの状態で手綱を器用に操り始めた。
「あ、ありがとう……」
「おう」
和哉は照れ臭さを感じながらも素直に彼の好意に甘える事にした。
(なんか、温かいな……)
ギルランスの体温と匂いに包まれている感覚が心地良くて安心すると同時に妙にドキドキとした気持ちになる。
そんな不思議な気持ちを抱きながら、いつしか和哉は眠りに就いていた――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます