第24話 ならボクが診てみようか?
「取り残された人たちを保護する最中、空から巨大なコンテナボックスが落ちてきたのです。最初は隕石か飛行機が落ちきたかと思いましたが、その中には一台の装甲車があったのです。人様の物と分かってはいたのですが、持ち主は姿を現さず中は無人。これも何かの縁であるとお借りしている所存でございまする」
落ちてきた発言に、イクトは無意識ながら顎に手を当てる。
十中八九、輸送中における不慮の事故あるいは<アマルマナス>の襲撃にて奪還を危惧して輸送機から投機したのか。
ここでちらりと<ラン>を見る。目線でイクトの思考を予測したのか、聞いてもいないのに答えてきた。
『どこで作られどこへ運ばれていたのか、ログを見れば分かるはずだよ』
もしかしたら<グラニ>と同じように別なるメビウス監獄が存在する可能性もあった。
「<ギョクリュー>の生産機能のお陰で食料や薬に困るどころか、あまるまなすの襲撃に怯えることなく生活できております。何度あの車の頑丈さと加速力に助けられたことか。出会っていなければ子供たちにひもじい思いをさせているところでした」
『MA05<ギョクリュー>はチームにおける修理と補給を担う生命線だからね。その重要性故、どのMAよりも頑丈に作られているし、万が一狙われても離脱できるだけの突破力が与えられているんだ。ただサポートがメインだから自衛する程度の貧弱な武装しかないんだ』
他のMAと連携を前提としている故の仕様であった。
「ですが、ここ最近、酷使しすぎたのでしょうか。少し生産機能が低下しているのです。自動車整備士資格を持つ方のお陰で整備はできているのですが、肝心な生産機能については不明すぎて手がつけられないとのことです」
『ならボクが診てみようか?』
<ラン>の申し出にホウソウは喜ぶ一方、イクトは怪訝な顔をしていた。
第六感というべきか、<ラン>の電子音声に一物あるのを感じたのだ。
『ボクにはバディポットとしてMAの整備マニュアルがインストールされている。どんなタイプだろうとMAの基本骨子は同じ。もちろん、そっちがよければ、の話だけど』
余所者に生命線であるMAを触らせる。
下手をすれば生殺与奪を握られるリスクがある中、ホウソウは疑いもなく受け入れていた。
「いえいえ、こちらからもお願いいたしまする」
『それでさ~和尚さん~』
コロコロと球体ボディを床板に転ばす<ラン>。
そのまま和尚の膝元まで近づけば、喉鳴らす猫のようにすり寄ってきた。
『ボクとしては<グラニ>の修理をしたいんだよ。ボクのMAがいつまでもボロボロなのは見ていて苦しいんだ~』
イクトは猫撫で声を上げる<ラン>に口を間抜けにも開けては呆れていた。
一物あると直感していたが、機械が動物のマネなど滑稽の度を越えた不気味さがあった。
(お前、恥ずかしくないのか? チョースゴイ超AIのプライドはどこやった?)
翻訳機のプライベートモードで<ラン>にイクトは呆れた声を送る。
『はぁ! 恥ずかしいに決まってんだろう! この至高最高の超AIであるボクが好き好んでタマッコロ頭にすり寄らないといけないの! タマッコロにすり寄るタマッコロとかギャグか! ここにMA05があって、修理できるんだよ! ならボクは悪魔だろうと地獄だろうと魂を売ってやるさ!』
魂のない機械が魂賭けて訴えてくる。
本当にこのAIをプログラミングした開発者は何をコンセプトにこのような思考ルーチンを入力したのか、一言多い無駄な感情処理を出力させるのは甚だ疑問である。
「なにをおっしゃりますか。お二人は子供たちを救ってくれた命の恩人。あのような状態では探し人を満足にできぬでしょう。まずはそちらの車の修理を最優先としてくだされ。<ギョクリュー>の整備ついてはそちらが終わってからゆっくりとで構いませぬ故」
『よっしゃ!』
主から許可が出るなり<ラン>が喜ぶように天井近くまで飛び上がる。
『んじゃ早速やってくるね!』
言うか早いか<ラン>はカートゥーン映画のように浮かび上がったまま真っ直ぐ外に飛び出していた。
イクトは転がることも飛び跳ねることもせず、真っ直ぐすっ飛んで行った<ラン>に目を点としていた。
「お、お前、飛べたのかよ……」
『失敬な! ボクのちょ~すばらしいボディには超小型の反重力デバイスが組み込まれているんだよ! 今まで狭い車内にいたから使う機会がなかっただけさ!』
と機械がのたまっており、数分もせず外から金属音の交響曲が響きだした。
そして一人の住人が血相を変えて本堂に駆け込んでくる。
「お、和尚さん、大変だ! 変な赤い玉っころが<ギョクリュー>を骨まで解体しやがった!」
「おやおや」
「あのバカ玉!」
ホウソウは困惑気味に苦笑するに対して、イクトは目頭押さながら天井を仰いでいた。
「あいつ、手ないのにどうやって解体したんだよ!」
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