第147話 お手軽な昼食


「それではアントムさん、いろいろとありがとうございました。案内してくれた宿はとても快適でした」


「気に入っていただけて本当によかったです。またぜひともいらしてくださいね。今後ともどうぞよろしくお願いします」


「はい、こちらこそ今後ともよろしくお願いします」


 昨日泊まっていたエイブラの街の高級宿でおいしい朝食をいただき、今日も王都への道のりを進んでいく。エイブラの街を出発する際に、この街の冒険者ギルドマスターのアントムさんがわざわざ見送りに来てくれた。


 今後は継続的に商品をこの街の冒険者ギルドに卸していくから、アントムさんとはこれからも長い付き合いになるだろう。今度この街に来るときはもう少しゆっくりとこの街を回れればいいんだけれどな。




「それにしてもアレフレアの街から離れると売っている食材が全然違うのは面白いな。市場のほうももう少しゆっくり回れたら良かったんだけれどね」


「アレフレアの街だと街の近くにある大きな森で多くの食材が取れるが、それ以外の食材はあまり流通していないからな」


 なるほど、確かにリリアの言う通り、アレフレアの街にはあの大きな森で取れる食材が数多く並んでいるが、それ以外の食材はほとんど見たことがない。まあ、始まりの街なんてどこもそんなもんだよな。


 朝エイブラの街を出発する前に食材を仕入れに市場を回った時に、見かけない食材や高価な食材が数多く店に並んでいた。いろいろと気になる食材はあったのだが、先を急ぐ旅でもあるので今回はやめておいた。


「王都の市場にはもっと多くのお店が並んでいますわ。この国一番の大きな市ですから、みなさんが見たことのない食材がいっぱいあると思います」


「王都にはいろんな場所から人や物が集まってくる」


「おお、それは楽しみだ!」


 さすがにこの国の王都だけある。一応今回は王都の冒険者ギルドへ挨拶に行くという目的だが、数日間は王都に滞在する予定だ。王都の大きな市場というものはぜひ見にいかなければならないな。


 ひとつ気になるのはエイブラの街の市場ですら、アレフレアの街の物価よりも結構高価なお値段だった。この分だと王都の物価はどれだけ高くなるんだろうな。


 さて、予定通りいけば、今日の夕方ごろには王都まで到着する予定だ。普通の馬の脚ならこの倍から3倍はかかっていたはずなのだが、スレプのおかげでその道のりをだいぶ短縮することができた。


 あまり店を離れることができなかったし、2人が護衛をしてくれるおかげでフィアちゃんも来られるようになった。ベルナさんとフェリーさんには感謝だな。




「やっぱりいつ食べてもこのラーメンという料理はおいしいね! しかもこれがお湯を沸かすだけですぐにできるんだから驚きだよ!」


「こっちのカレーという料理も本当においしいですわ! 少し辛いですが、とてもあとを引く味で独特の食欲を誘う香りと複雑な香辛料の味がたまりません!」


「王都にある高級店よりも間違いなくおいしい!」


 今日のお昼ご飯は棒状ラーメンとレトルトカレーだ。というのも王都までは今日中に到着予定なのだが、結構な距離があるので日が暮れるまでに着けるか微妙なところである。そのため、お昼の休憩はなるべく早めに食べられるものにした。


 こちらの世界では夜目の効く魔物も多く存在するため、日が暮れてからの移動はとても危険となる。ベルナさんとフェリーさんがいるとはいえ、できる限り暗くなってからの移動は避けたいところだ。


 ラーメンとカレーとはいえ、ラーメンには炒めた肉と野菜を乗せて、カレーには燻製肉をトッピングしてある。野外で実際に作ってみたかったため、ラーメンとカレーを両方を作ったから、ひとり分は半分ずつにしてある。


「実際に野外で作るとこんなに早く簡単に作れるのだな。持ち運びが便利で味もおいしいし、確かにこれは冒険者にとって最高の携帯食みたいだ。私が冒険者だったころにこんな商品があったなら、間違いなく常用していただろうな」


「確かにあの臭みが強くて硬い携帯食に比べたらね……」


 この世界に来てすぐのころにロイヤ達からもらったあの臭いの強い携帯食を思い出す。確かにあれはこの棒状ラーメンとインスタントカレーとは比較にならない。


 お湯を沸かしている間に肉や野菜を炒めつつ、グレゴさんが作ってくれた保存パックに入っているレトルトカレーを温め、お湯が湧いたら棒状ラーメンを茹でてアルファ米にお湯を加えて完成だ。


 保存パックもしっかりと密閉されているので、実用性は問題なさそうだな。お湯を用意するだけでこんなに簡単にラーメンとカレーが作れて、なおかつ保存性もあるんだから冒険者達に売れるのは当然だろう。


「やっぱりカレーとラーメンはおいしいね!」


「ああ、簡単に作れるし、ラーメンのほうはいろいろな味があって飽きないからな」


「ええ。どの味もとてもおいしいですよね!」


 フィアちゃんやドルファとアンジュにはお店の商品を原価の値段で販売している。その辺りは従業員の特典ということになるな。やはり手軽にできておいしいカレーとラーメンはみんなに大人気のようだ。


 昼食を食べて先を進む。幸いそのあとの旅路は順調で、大きな問題も起きることなく、日が暮れる前に王都の街の巨大な壁が見えてきた。

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