第145話 エイブラの街


「今日の目的地のエイブラの街が見えてきた」


「おお、予定よりも早いですね」


「スレプが頑張ってくれましたね」


 アレフレアの街を出て2日目、まだ日が暮れる前だがスレプの引く馬車の先には街の壁が見えてきた。予定では今日の夕方ごろに到着する予定だったから、多少は予定よりも早い計算だ。


 これも昨日と同様にスレプが頑張ってくれたおかげだな。最初は足が8本あることに違和感があったが、今ではほとんど気にならなくなって、むしろ可愛く見えるようになってきた。召喚獣とはいえ、やっぱり生き物は可愛いものである。




「当たり前だけれど、アレフレアの街並みとはだいぶ違うね。建物とかも大きな物が多いみたいだ」


「あそこは駆け出し冒険者達が集まってくる街だからね。このエイブラの街も冒険者がよく集まってくる街だよ。アレフレアの街と王都のちょうど間にある街だから冒険者が集まりやすいね」


「なるほど」


 どうやらランジェさんもエイブラの街に来たことがあるらしい。この辺りにいる冒険者は最初アレフレアの街に集まり、そこから王都を目指して進むパターンが基本となる。スレプが普通の馬車よりも速いので、道中にあったいくつかの村や街を飛ばしてきている。


 このエイブラの街はだいぶ王都に近付いてきたこともあって、Dランク冒険者だけでなく、Cランク冒険者もかなり集まっているらしい。そのため物価もアレフレアの街よりも高く、豪勢な造りをした建物などが多くある。


「テツヤ、予定通り冒険者ギルドに向かう」


「はい、フェリーさん。よろしくお願いします」


 まずはエイブラの街の冒険者ギルドへ挨拶に行く。アウトドアショップの能力で購入した商品は王都だけでなく、この街でも卸す予定だ。自分の店の商品を扱ってもらうわけだし、しっかりとあいさつしておこう。ちなみに王都からの帰り道は別の街へ寄ってからアレフレアの街へ帰る。


 街の門を通る際に、ベルナさんとフェリーさんが身分証である冒険者ギルドカードを見せたが、門番の人達が2人を知っていたようで、とても驚いて歓迎してくれていた。やはり2人は王都では有名な冒険者なので、この街の人にも広く知られているらしい。




「ここがエイブラの街の冒険者ギルドですね」


「ありがとうございます」


 エイブラの街の中をしばらく進んでいき、冒険者ギルドの前までやってきた。この街の冒険者ギルドはアレフレアの街の冒険者ギルドよりも少し小さかった。やはり冒険者の数的にはアレフレアの街のほうがおおいのだろう。


「それじゃあ俺達は馬車の中で待っているぞ」


「ああ、ドルファ。悪いけれど、少しだけ待っていてくれ」


 さすがにこれだけ大勢が冒険者ギルドの中に入ると迷惑になってしまうので、中に入るのはベルナさんとフェリーさん、俺とリリアの4人で、他のみんなには馬車で待っていてもらうことになった。


 そういえば街の中で召喚獣のスレプは人々の注目をだいぶ集めていたな。召喚魔法自体アレフレアの街では使える人を見たことがないし、スレイプニルみたいな大きな召喚獣を召喚できる人はほとんどいないのかもしれない。




 冒険者ギルドの受付で話をすると、すぐに冒険者ギルドマスターの部屋へと案内された。事前に俺達がここに来ることは連絡済みだ。


 街中ではスレプが目立っていたが、冒険者ギルドに来てからのベルナさんとフェリーさんの注目度は半端じゃなかった。ほとんどの冒険者が2人を知っているみたいで、声を掛けてくる人こそいなかったが、あちこちから2人を噂する声が聞こえてきた。


「初めまして。このエイブラで冒険者ギルドマスターをしているアントムと申します」


 アントムさんは物腰柔らかな30代から40代くらいの長身で細身の男性だ。こう言ってはなんだが、同じギルドマスターであるライザックさんとは全然違う印象だ。……まあライザックさんの見た目だけはちょっとアレだからな。


 とはいえ、冒険者ギルドマスターには相応の強さが求められるらしいので、細く見えてもかなりの実力者らしい。


「初めましてアントムさん。アレフレアの街でアウトドアショップという店を開いておりますテツヤと申します」


「はい、もちろん存じておりますよ。この街の冒険者の間でとても有名ですし、実際にアレフレアの街からやってきた冒険者達のほとんどがアウトドアショップの商品を持っております」


「ありがとうございます」


 アレフレアの街から普通の馬車なら4~5日くらいの道のりにある街なので、うちのお店で商品を買っていた冒険者も大勢いるらしい。アウトドアショップの評判が遠くの街にまで広がっているのは嬉しい限りである。


「この度はこの街にもテツヤさんのお店の商品を卸してくださるということで、本当にありがとうございます。方位磁石と浄水器を持つことによって、冒険者の生存率が上昇するという報告もアレフレアの街から上がっております。この街の冒険者もとても喜んでくれるでしょう」


「そう言っていただけて何よりです。今後ともどうぞよろしくお願いします」


 アントムさんと握手をして、今後のことを少し話してから冒険者ギルドをあとにした。今日はこの街で一晩泊まる。宿のほうはアントムさんがすでに取ってくれていたので、みんなと合流してその宿へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る