第140話 川辺でバーベキュー


「今日の目的地についた」


 ブラックブルはベルナさんが一瞬で倒し、その素材をそのままフェリーさんが収納魔法により収納して、王都への道を進んでいった。


 幸い他にトラブルはなく、日がほんの少しだけ暮れ始めたころ、今日の目的地である川の側に到着した。今日はここでキャンプをすることになる。


「それにしても本当に早かったな。まさか休憩すらも必要ないなんてすごいよ」


 フェリーさんが召喚したスレイプニルは一度も休憩を取ることなく、ここまで走り続けてくれた。


「スレプ、ご苦労さま。ご飯になったらまた呼ぶ」


「ブルオオ!」


 フェリーさんが杖を振るうとスレイプニルの下に魔法陣が現れ、ゆっくりと消えていった。う~ん、召喚魔法はいったいどういう仕組みなのだろう……


「それでは日が完全に暮れる前に野営の準備をしましょう」


「そうですね。それじゃあ、馬車で決めていた役割で手分けしましょう」


 今日は川の近くで野営をする。日が完全に暮れる前に早くテントの設営をしたり、晩ご飯の準備をしなければならない。


 リリアとベルナさんは昼間に狩ったブラックブルの解体、ドルファとランジェさんとフェリーさんでテントやテーブルやイスの設営、俺とフィアちゃんとアンジュで晩ご飯の準備を手分けしておこなっていく。


 野営のキャンプギアや食材など、実際のところはかなりの荷物になるので、ランジェさんやフェリーさんの収納魔法がなければもう一台馬車が必要になるところだった。本当に収納魔法って便利だよな。


「こうやって外で料理をするのも楽しいですね。それにこんなに大勢で野営するなんて初めてです」


「フィアもだよ! みんな一緒だと楽しいね!」


「そうだね。俺もこんなに大勢で野営するのは初めてだよ」


 元の世界でもこれほどの大人数でキャンプをしたことがない。多くても4〜5人くらいだったが、今回は8人の大所帯だ。


 キャンプと違って、こちらの世界の野営では盗賊や魔物達に襲われる危険もあるらしいが、A級冒険者が2人もいるし、安全面にかんしてはまったく心配していない。純粋に大勢でキャンプをしている感覚だ。


 それに俺はアレフレアの街からまともに出たことがないから、キャンプをするのもこちらの世界に来る直前以来になる。久しぶりのキャンプは本当に楽しみだ。


「テツヤ、こっちのほうは終わったぞ」


「僕達も手伝うよ」


「何か手伝う」


 どうやらテントやテーブルの設置が終わったらしい。


「おっ、ありがとう。こっちももうすぐ準備が終わるから、リリアとベルナさんのほうを手伝ってあげて」


 今日の晩ご飯はそれほど準備の必要がないため、こっちももうすぐ準備が終わる。リリアとベルナさんのブラックブルの解体を手伝ってもらおう。


「テツヤ、こっちも終わったぞ」


「テツヤさん、こちらは終わりましたわ」


「あれ、みんな早いね。それじゃあ早速晩ご飯にしようか」


 テントやイスの設置はともかく、牛一頭の解体がこれほど早く終わるとは思わなかったな。


 リリアとベルナさんの2人じゃ足りないから、3人にしたほうがいいと進言したら2人で大丈夫だと言われた。まさか本当に2人で大丈夫だとはすごいな。




「今日の晩ご飯はバーベキューだよ」


「この前お店の庭でやったやつ」


「あのおいしいタレで食べるご飯ですね!」


 そういえば以前にドルファとアンジュの歓迎会をする際に庭でバーベキューをした時に、フェリーさんとベルナさんも参加していたっけ。


「そうだね。だけど今日はブラックブルのモツ……内臓が中心の焼肉だよ!」


 ブラックブル、この魔物は牛に非常に似た魔物だが、その味は牛よりも上らしい。


 そして普通の牛や他の魔物でもそうであるように、その内臓は貴重でめったに食べることができない。というのも普通の肉と比べて内臓はすぐにダメになりやすいので、こちらの世界では食べる機会がほとんどなかった。


 冷凍技術や流通技術が整っていないこの世界では内臓料理はとても貴重なのでだ。今回はベルナさんが一刀のもとにブラックブルを斬って、フェリーさんの収納魔法によって保存されていたので、新鮮そのままの内臓が食べられるのである。


「……内臓って本当においしいのでしょうか?」


「あんまりおいしそうじゃないね」


「まあ見た目はあんまり良くないかもね。だけど普通の肉よりも栄養はあるし、独特の食感がしておいしいよ。とはいえ好き嫌いは誰にでもあるから、無理なら普通のお肉もたくさんあるからね」


 アンジュやフィアちゃんの言う通り、ホルモンって見た目がそれほど良くはないからなあ。俺も初めてハチノスやセンマイを見た時、とてもおいしそうには見えなかった気がする。


 今回のブラックブルの解体はリリアとベルナさんが行ってくれた。2人とも冒険者をやっていただけあって、魔物の解体なんかはお手のものだった。


 普段は内臓を食べるようなことはしないらしいが、今日はブラックブルの内臓をしっかりと塩水を使って下処理までしてくれた。


「今日もいろんなタレと調味料を用意したからたくさん食べてね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る