第130話 ランジェさんとのんびり料理


「へえ~確かに煙からもいい香りがするんだね」


「燃やすといい香りがする木を固めたチップですからね。いくつかの種類の木のチップを混ぜて固めたものなんかもありますよ」


 ベルナさん達が来た次の休みの日、ベルナさんとフェリーさんはリリアと一緒に遊びに出かけており、俺とランジェさんは庭で燻製肉を作っていた。


 なぜランジェさんが手伝ってくれているのかというと……


「僕もテツヤみたいに料理ができれば、さらにモテることは間違いないんじゃないかと思ってね! 特に人見知りなフェリーさんがあれだけテツヤと普通に話せるのはきっと料理ができるおかげだと思うんだよ!」


 ……いや、確かにフェリーさんとは普通にしゃべれるようになったと思うけれど、あれはモテるとかじゃなくて餌付けしているだけだと思うんだよなあ。まあ、おいしい料理を作れて損はないし、俺も手伝ってくれると助かるからいいんだけど。


「でも燻製肉を作るのって時間がかかるんだね」


「これでもだいぶ手順を簡略化しているよ。本当ならもっと肉に下味をつけたほうがいいんだよね」


 今回はベルナさん達からもらったベヒーモスの肉を燻製にしている。昨日の夜に塩コショウとアウトドアスパイスによって下味をつけた肉を、ランジェさんが水魔法によって作ってくれた氷と一緒にクーラーボックスへ入れて保存しておいた。


 本当なら塩漬け肉のように数日から1週間くらいは保存しておきたかったのだが、そうもいかない。


「朝テツヤが作ってくれたチャーシューっていうのも本当においしかったよね。あれも燻製にするんだ?」


「確かにベヒーモスのチャーシューはおいしかったね。今回は時間もあったし、2種類の燻製肉を作ってみようと思ったんだ」


 チャーシューの燻製もおいしいのだが、保存期間の短いのが難点なんだよな。その点下味をつけて簡易冷蔵庫で寝かせた肉のほうがまだ保存期間が長い。それとちょうどグレゴさんに作ってもらった保存パックも試せる。


 フェリーさんやランジェさんは収納魔法を使えるからいいが、普通は収納魔法なんか使えない。本当に羨ましい限りである。


 チャーシューも魚醤を使った味付けでもなかなかおいしい。もしかしたら煮込み料理とかだと醤油よりも魚醤のほうが合うのかもしれないな。とはいえ、焼肉のタレなんかだと醤油のほうがあっているから、醤油は醤油でほしいところだ。


「これで燻製肉のほうはオッケーだね。次はローストベヒーモスを作ろうか」


「オッケー!」


 たまにはこうして裏庭でのんびりと料理をしながら焚火をしてプチキャンプをするのも悪くないな。


 ……まあ燻製料理が多すぎて、煙がとんでもなく立ち上っているのだけは玉に瑕だがな。


 ちなみにお隣さんの許可はちゃんと取ってある。ちゃんとできあがった燻製肉はおすそ分けさせてもらうとしよう。






◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「テツヤさん、またこんなにお土産をありがとうございます」


「テツヤ、ありがとう!」


「こちらこそこんなに高級なお肉をありがとうございました。街への輸送をお願いできるようになったら、こちらから王都の冒険者ギルドへ連絡しますね」


 休みの日が終わって、今日はいつもどおりアウトドアショップを開く日だ。そして店を開く前にベルナさんとフェリーさんの見送りをしている。


 ちなみに昨日の夜はベヒーモスの燻製チャーシューをたっぷりとインスタントラーメンに乗せたチャーシュー麺をとてもおいしそうに食べてくれていた。ダッチオーブンを使えば、チャーシューを作るのも普通の鍋よりも短い時間で作ることが可能だ。


 そして前回と同じように昨日作ったベヒーモスの燻製肉やローストベヒーモス、インスタント食品やチョコレートバーにようかんなどをお土産として渡した。ベヒーモスという高級肉を食べられたのだから、これでも全然足りないくらいだ。


 王都や他の街への輸送についてはもう1週間ほど様子を見て、問題なければグレゴさんに大量生産を頼む予定だ。そして保存パックの準備ができたらベルナさんとフェリーさんに依頼をする予定となっている。


「ええ、連絡を待っておりますわ」


「他になにか困ったことがあっても、気軽に連絡して」


「はい。まあ、Aランク冒険者のおふたりにお願いするようなことはないと思いますけれど、何かあったらよろしくお願いしますね」


 一応今回の王都のダンジョン攻略への貢献による報酬で結構なお金をいただいて、店の利益や冒険者ギルドからの地図や図鑑の報酬によって、2人に依頼する分のお金くらいはあるのだが、そもそもこのアレフレアの街で2人の力を借りるような事態は起きないと思うんだよ。


 ……いや、マジでフラグとかじゃなくてね。


「ベルナとフェリーなら問題ないと思うが、気をつけてな」


「ええ、リリアもお元気で!」


「リリアも体調には気を付けて」


「おふたりともお気をつけて」


「ベルナさん、フェリーさん、またね!」


 リリアとランジェさんと一緒にベルナさんとフェリーさんを見送った。


 本格的に王都の冒険者ギルドにも商品を卸すようになったら、一度くらい挨拶に行っておいたほうがいいよな。うちのお店も軌道に乗ってきたところだし、しばらくの間お店を休んで従業員全員で王都へ行ってもいいかもしれない。


 うん、そうだな! 思えばこの世界に来てから、今までアレフレアの街の外にはまともに出たことがなかったもんな。


 よし、みんなと一緒に社員旅行で王都に行く準備をするとしよう。

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