第122話 ギルティ


「ああ、そのことか。なあに、これだけ長い間同棲しているなら、もう結婚も間近なんだろ。どうせならリリアの知り合いだというあの2人にも、そこんとこを突っついてもらえると思ってな」


「そそそ、そんなわけがあるか! た、確かに一緒の家に住んではいるが、私は護衛の身で部屋は別々だし、ランジェのやつだっているし……そ、それに付き合ってもいないのに結婚なんてできるわけないだろうが!」


 顔を真っ赤にして必死に否定するリリア。


 めっちゃ可愛い……


 普段はとても格好が良く、凛としていて頼りになる女性であるがゆえに、こういった照れているリリアの姿を見るのは新鮮なんだよなあ。


「ふ~ん」


 ニヤニヤと笑みを浮かべて俺とリリアを見るライザックさん。


 そりゃ俺だって男だし、リリアのことを異性として見ていないと言えばまったくの嘘になる。リリアはとても綺麗な女性だし、優しくて一緒にいてとても楽しい。左腕がないことなんて俺には全然気にならないしな。


 正直に言って、これまではあえてリリアを女性として見ないように意識していた。いきなり異世界にやってきて、知り合いやお金や持ち物などほとんど何もない状態で女性と付き合ったりなんて考えている余裕はなかったからな。


 最近になってようやくアウトドアショップの店も軌道に乗って、資金や知り合いなども増えてきて安定した生活を送れるようになってきたと思ってきたところだ。


 ……そうなると今度は今の環境の居心地が良すぎて、それを壊したくないと思う俺がいるんだよな。もしもリリアに告白をして振られてしまったら、今のこの店でものすごく居心地が悪くなってしまうぞ。うっ、想像してみたら胃が痛くなってきた。


「少なくともこれは俺とリリアの2人の問題なので、そういう茶々は入れないでくれませんか」


「ふ、2人の問題!?」


 ……リリアがそういう反応をすると、俺もめちゃくちゃ脈があると思ってしまう。でもこれで実際に告白をしたら、はあ勘違いしないでくれません? ちょっと自意識過剰なんじゃないですか、なんてことをリリアに言われたそんな日にはもう2度と立ち直れなくなるに違いない。


 いや、もちろんリリアがそんなことを言うはずがないことは分かっているのだが、どうしても悪い方向に考えてしまう。この年まで女性と付き合った経験がない俺にはどうすべきかがまったく分からないんだよ……


「2人の問題ねえ~」


 ニヤニヤと俺とリリアを交互に見てくるライザックさん。


 あっ、これはまったく反省していないな。


「すみません、私も本当のことをお伝えしようとも思ったのですが、個人的に2人はとてもお似合いだと思っていたので、少しでも発展があればと思ってあえて訂正はしませんでした。テツヤさんもリリアさんもこういった横やりは好まれないようなので、次からはしっかりとこちら側で止めさせてもらいます」


 ふむ、どうやらパトリスさんは悪気がなかったようだ。それに俺なんかがリリアとお似合いだとか言われると正直かなり嬉しい。


 よし、判決は出たな。ライザックさんはギルティ! パトリスさんはノットギルティ!


 だが、もちろんここで冒険者ギルドに商品を卸さないなんてことを言うつもりはない。この件については冒険者ギルドには関係ない個人的なことだからな。


「そういえば話は変わるのですが、ベルナさんとフェリーさんから高級食材であるワイバーンのお肉をいただきましてね。そのお肉で特製の燻製肉を作ってみましたので、ぜひ食べてみてください」


 持ってきていたリュックの中から、2の包みを取り出して、両方ともパトリスさんに手渡す。


「ワイバーンの燻製肉ですか! そんな高級肉を本当にいただいてもよろしいのですか!?」


「ええ、もちろん。普段からパトリスさんにはとてもお世話になっていますから。2人には他の人にもお裾分けしてもいいと許可をもらってますので、遠慮なくどうぞ」


「お、おい、テツヤ。俺の分は!?」


「これは普段からお世話になっている人へのお礼ですからね」


 そう、これは個人的なお礼として持ってきたものだからな。人をからかったり茶々を入れてくれる人に対しては不要なものである。


「なあ、冗談だろ。ひとつは俺のための分なんだろう?」


「なんの話でしょうかね? 初めて作ってみたんですけれど、思ったよりもうまくできました。燻製する前に肉を表面だけ焼いてから特製の甘辛いタレでじっくり煮込むんです。正直に言ってそれだけでも十分においしいんですけれど、それを燻製することによってさらにスモーキーな香りが追加されるんですよ」


「すまん、俺が悪かった! 謝るからぜひ俺にもそのワイバーンの燻製肉をだな……」


「俺も食べてみたんですけれど、ワイバーン肉の柔らかくて旨みが溢れてくるジューシーな味に燻製の香りが合わさってそれはもう最高でした!


 いやあ、以前に誰かさんからいただいたダナマベアの肉の燻製もおいしかったですが、そのもう一段上を行く味でしたね。そしてこれがまあお酒にとてもよく合うんですよ!」


「テツヤ、俺が悪かったです! もう二度と今回みたいなことはしません! だからどうか俺にもそのワイバーンの肉を分けてください!」


「………………」


 まさかライザックさんが俺に敬語を使って土下座までするとは……というかこっちの世界にも土下座の文化はあったんだ……


 もちろん今回はしっかりと反省してもらうために2つともパトリスさんに渡したけどね。

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