第101話【閑話】とある駆け出し冒険者の1日③


「よし、そろそろ休憩しようぜ」


「そうね、ちょっと休みましょうか」


「ああ、賛成だ」


 今日も朝から依頼を受けて、パーティメンバーのニコレとファルと一緒に森へやってきている。朝からほとんど休みなく、薬草集めやゴブリン退治などをこなしてきている。そろそろ休憩しても良い時間帯だ。


「それじゃあいつも通り川まで移動しましょうか」


「ああ、そうだな」


 いつものようにテツヤからもらった方位磁石を使って川を目指す。この広くて木々の高い森の中でも方向が分かる方位磁石は相変わらず便利だ。




「さて、今日の昼飯は何にする?」


「やっぱりラーメンじゃない?」


「そうだな。今日はこのあとも森を歩く予定だし、ちゃんと食事を取っておいたほうがいいんじゃないか」


「オッケー。ええっと、確か一昨日は醤油味だったから、今日は豚骨味にしておくか」


 アレフレアの街にあるアウトドアショップというお店。俺達がたまたまゴブリンから助けたテツヤが開いたお店だ。そのお店で最近棒状ラーメンという商品が新しく販売された。


 俺達もこの商品が販売される日にはテツヤの店に並んだが、朝から大勢の人が並んでいたな。あの店は他では販売していないとても便利な道具や食品を販売しているから、俺達以外の冒険者にもとても人気がある。


 その日に試食品として、このラーメンという料理を初めて食べたが、もしかしたら今まで食べた料理の中で一番美味しかったかもしれない。最近では昼の2日に1回はこのラーメンになってしまっているけどな。


「ええ〜と、水は一人分が450だから……」


 棒状ラーメンと一緒に買ったシェラカップという目盛りのついた金属製のカップで、沸かすためのお湯の量を計る。このシェラカップというものは軽くて丈夫だし、いろいろと使い道がある。


 水は川で汲んできた水を沸かして使う。ここの川の水は綺麗だから、沸かせば普通に飲むことができる。


「ロイヤ、火の準備はできたぞ」


「こっちも干し肉と野草を切っておいたよ」


「オッケー。あとは麺が柔らかくなるまで茹でて、スープの素を入れれば完成だな」


 この棒状ラーメンは麺の一本一本がとても細くて茹でる時間がとても短くて済むんだよな。


 量を計った水を沸かして麺と干し肉を入れる。麺が柔らかくなってきたら、森で薬草の採取をしていた時についでに取ってきた野草を入れる。


 この森にはたくさんの食べられる野草が生えている。俺達は森近くの農村出身だから、野草については結構詳しいほうだ。だけどこの森には食べられる野草に似た毒草なんかも生えているから気をつけないといけない。


「このスープって本当にいい香りがするのよねえ」


「ああ。インスタントスープとは違った良い香りだよなあ」


 棒状ラーメンが販売される前に販売していたインスタントスープもうまいんだけど、こっちのラーメンのスープもそれとは違ったうまそうな香りだ。


「よし、できた。さあ、食べようぜ!」


「うん!」


「ああ!」


 麺とスープを取り皿に分けて折りたたみフォークを取り出す。


「うん、作るのが簡単なのに本当にうまいよな! 小麦粉を練って作った細い麺に、今まで味わったことのないこのスープが絡んで最高だな!」


「ああ。スープが最高にうまい! このスープがあるから、安い干し肉も普段よりうまく感じるよな」


「刻んだ野草もいいアクセントよね。本当に贅沢な昼食だわ!」


 安い携帯食の干し肉を齧っていたちょっと昔が懐かしいぜ。インスタントスープもこの棒状ラーメンも、今じゃなくては欠かせないものになってきているな。




「あの栄養食品もうまいんだけどなあ……」


「そうね、値段も考えると、手間はかかるけれどこっちのラーメンのほうがいいのよね」


「あれは川が近くにない草原に行く時とかにいいな。それに甘くてうまいから、間食にはちょうどいい」


「そうなんだけど、やっぱり一度あのようかんとチョコレートバーとかいうのを食べちゃったらなあ」


「そうね、あれはとっても美味しかったわ〜。テツヤが言うには、しばらくしたら販売する予定らしいけれど、それまで待てないわよね……」


 棒状ラーメンや栄養食品が販売される数日前、久しぶりにテツヤと飲みに行った時にようかんとチョコレートバーというお菓子をもらったんだが、これが本当に甘くて驚いたんだ。


 テツヤが言うには他の商品と違って数日しか持たないらしいから、販売するかまだ決めていないらしいけれど、あれはぜひ販売してほしい!


 この街にはあんなに甘いお菓子なんて、そもそも売っていないからな。


「そういえばテツヤの店の店員が増えていたよな」


「ああ。ドルファさんは元Cランク冒険者で、エルフのランジェさんは現役のBランク冒険者だから驚いた。テツヤの店はいったい誰と戦うつもりなんだろうな……」


 ファルがそう言う気持ちもわかる。リリアさんも元Bランク冒険者だ。そもそもこのアレフレアの街にCランク以上の冒険者なんて滅多にいないはずなんだけどな……


「そういえば、2人とも格好良かった。やっぱりああいう冒険者こそモテるんだろう」


 そう、ドルファさんもランジェさんも強い上に美形なんだよ。絶対にモテるに違いない。いや、俺もモテたくて冒険者になろうとしたわけじゃないぞ! でも羨ましいものは羨ましい……


「そういえば2人とも格好良かったわ。確かに女の子にはモテそうね」


 うっ……やっぱりニコレもあの2人を格好いいと思うのか……


「でもやっぱり一番はフィアちゃんよね! あのちょっと大きくてブカブカの服がとっても似合っていて可愛かったわ!!」


「「………………」」


 ニコレはやっぱりニコレか……




「ふう〜うまかったな。これでこのあとも、もうひと踏ん張りできるぜ」


「そうね。もう少しで私達のパーティもDランクに上がれそうだもんね!」


「ああ、あと少し頑張るとしよう」

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