第92話 棒状ラーメンとシェラカップ


「「「ありがとうございました!」」」


 パタンッ


 無事に本日の営業が終わり、最後のお客さんが帰っていった。


「ふう〜みんなお疲れさま。いやあ、今日は疲れたね。もしかしたら今までで一番お客さんが来てくれたかもしれないよ」


「接客業って本当に疲れるんだねえ……下手な高難度クエストよりも疲れたかもしれないよ。みんなよく平気だね?」


「いや、いつもよりお客が多くて疲れている。ただ多少は仕事にも慣れてきたから、ランジェよりは疲れてないだけだと思うぞ」


 ドルファの言う通り、なんだかんだでこの仕事にも慣れてきたからな。接客業が初日のランジェさんよりは慣れているのだろう。


「ランジェさんは初日なのに接客は問題なさそうだったね。今日はお客さんが多かったから、臨時で手伝ってくれて本当に助かったよ」


「それならよかったよ。普段からいろんな場所に行って人とはよく話すから、こういうのは得意なんだ。それに可愛い女の子とも知り合えるから、この仕事も悪くないかもしれないね!」


「「「………………」」」


「ランジェは相変わらずだな。頼むから女関係のトラブルをこの店には持ち込まないでくれよ」


「大丈夫だよ、リリア。そのあたりはこれまでもうまくやってきたからね!」


 ……どうやらランジェさんはプレイボーイらしい。美形のエルフだし、高ランク冒険者だしモテそうだもんなあ。


 でも頼むから、ストーカーとか冒険者パーティの女性関係とかで、他の従業員に迷惑をかけるのは勘弁してほしい。まあランジェさんは結構軽そうな性格をしていそうだが、そのあたりの分別はありそうだし、ランジェさんを信じるとしよう。


「そのあたりはほどほどにね。フィアちゃんも今日はお疲れさま」


「お疲れさまです! お客さんがいっぱいきてくれたよ。新しい商品がいっぱい売れて良かったね、テツヤお兄ちゃん!」


「うん。用意していた分は昼過ぎには全部売れちゃったからね。たぶん今日の噂を聞いて明日の朝もお客さんが大勢並ぶんだろうなあ……」


 今回棒状ラーメンと栄養食品は前回店をオープンした時のインスタントスープと同じ数を用意しておいた。前回は夕方くらいにその日の分が完売したが、今日は昼過ぎには用意していた分がもう完売してしまった。


 この店を開いてからしばらく経って、よく商品を買いに来てくれる常連のお客さんもできてきたし、冒険者ギルドに方位磁石や浄水器を置いてもらえて、この店の知名度も上がってきた結果だろう。


 それに今回の棒状ラーメンは試食の時にだいぶ美味しそうな香りを振り撒いていたからな。道を歩いていた人も気になって買ってくれたようだ。


「あのラーメンという食べ物は本当にうまかった。日持ちもするし、お湯で茹でるだけとなれば、冒険者は重宝するに違いないからな」


「とっても美味しかったです!」


 もちろんドルファやフィアちゃんにも新商品の試食をしてもらっている。2人とも棒状ラーメンの味を気に入ってくれたようだ。


「こちらの栄養食品も他の保存食と比べれば、甘くてとてもうまいからな。冒険者に人気が出るだろう」


 栄養食品も棒状ラーメンほどではないが、冒険者によく売れた。とはいえ、一番人気があったのは棒状ラーメンであった。


 5食分のセットになっているから、おひとり様ひとつまでとしたが、醤油味と豚骨味の両方がほしいという人も多くいた。こういう時にパーティだとシェアできるのが強いよな。


「棒状ラーメンと一緒にシェラカップも売れてくれたのは大きいな。やっぱり普通に売るよりも、棒状ラーメンと一緒に売るのが正解だったみたいだ」


 棒状ラーメンと合わせて、沸かすお湯の量を正確に計れるシェラカップもかなり売れてくれた。シェラカップも便利なのだが、普通に売っても今日ほどは売れないだろうからな。


 とはいえ、シェラカップは計量カップとして使えるだけでなく、直接火にかけて調理もできるし、取り皿やインスタントスープなどを入れる器にもなる。いろいろと万能なので、ひとつくらい持っておいて損はないと思う。


「このカップも丈夫だし、便利そうだものな。たぶん明日は今日買うことができなかったお客さんや、別の味を購入したいというお客さんが大勢並ぶだろうな」


「たぶんリリアの言う通り、明日は朝からお客さんが大勢くると思う。列の並びとかで揉めるお客さんとかいるかもしれないから、気をつけようね。ランジェさんはどうする? 計算もできるみたいだし、列の整備の役割を変わろうか?」


 新商品が完売したあとは、お客さんも減ってきたので、ランジェさんにも会計をやってみてもらったが、こちらも問題なくこなせていた。


「ううん、外でお客さんと話しているほうが面白いから大丈夫だよ。明日も来てくれるって約束した子もいるからね!」


「「「………………」」」


 まあ、たまに様子を見ていたけれど、女の冒険者の人だけでなく、男の駆け出し冒険者の質問にもちゃんと笑顔で答えていたから大丈夫だろう……たぶん。


「とりあえずみんな今日はお疲れさま。それじゃあ早く閉店作業をして明日に備えようか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る