第90話 試食品


「そしてこちらの今回は棒状ラーメンの他にもうひとつ新商品がございます! こちらは栄養食品といって人が生きていく上で、必要な栄養をバランス良く摂ることができる保存食となっております」


「「「おお〜!」」」


 確かこの栄養食品には身体に必要な五大栄養素であるタンパク質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラルが手軽にバランスよく補給できるようになっていたはずだ。さすがにカロリーをメイトする商品名だとアレなので、栄養食品として販売することにした。


「お湯を沸かして3分も待てないというあなた! これまでの固くて臭い干し肉にうんざりとしていたそこのあなた! この栄養食品なら手軽で簡単に補給ができる上に、味も少し甘くてとても美味しいですよ。さらにさらに、こちらの商品は日持ちもするので、非常食としてとても優秀なんです」


「「「おお〜!」」」


 口の中が多少パサつくという欠点もあるが、こちらの世界でよく食べられている保存食や非常食として扱われている干し肉に比べたら断然美味しい。


 ちなみに購入できる味はチーズ味とメープル味である。甘い物が少ないこっちの世界では、たぶんメープル味のほうが人気があると思っている。実際に従業員のみんなもメープル味のほうが好きだった。


「こちらも棒状ラーメンと同様に、朝早く並んでくれたお客様に試食分をご用意しておりますので、ぜひ試してみてくださいね」


 そしてこの栄養食品はかなり日持ちする。もちろん個別包装している元の世界の賞味期限には敵わないが、それでも水分が少なく、日持ちすることは間違いない。


 同様に棒状ラーメンやアルファ米も日持ちするのだが、ようかんやチョコレートバーについてはそれほど日持ちしないので、販売しても数日しか持たない行動食として販売する予定だ。


「うおっ! こりゃうめえ!」


「なにこれ!? こんな美味しい麺料理は初めて食べたわ!」


「温かくて最高だ! これは寒い夜に食べたら絶対うまいに違いない!」


「おおっ、これは甘いな! あの干し肉と比べたら雲泥の差だ!」


 どうやら試食品はお客さんに大盛況のようだ。


 棒状ラーメンは作るところから見せたかったが、店頭でお湯を沸かしたり、取り分けたりするのが大変だから、ちょうど開店直前で作って小皿に取り分けてある。


「おっす、テツヤ!」


「おはよう!」


「2人ともおはよう! フィアちゃん、その新しい服はとっても似合っているわよ!」


「おはようございます! ニコレお姉ちゃん、ありがとうです!」


「きゃあああ、やっぱりフィアちゃんは可愛いわ!」


「ロイヤ、ファル、ニコレ。朝から並んでくれてありがとうな」


 フィアちゃんと一緒に試食品を並んでいるお客さんに配っていくと、見知った顔を見つけた。ロイヤ達も朝から並んでくれていたようだ。ニコレのいつも通りの言動はスルーしておこう。


「前回のインスタンスープはとても便利で美味しかったからな。今回も期待しているぞ」


「すごくいい匂いがするわね! 朝ごはん食べてないからお腹空いちゃった!」


「前回は試食があったと聞いていたからな。今回は頑張って早く並んだよ」


「前回のインスタントスープに負けないくらいうまいと思うぞ。棒状ラーメンは醤油味と豚骨味、栄養食品はチーズ味とメープル味があるけれど、どっちにする?」


「どう味が違うんだ? チーズ味しか聞いたことがないぞ」


「う〜ん、どれも実際に味を見てもらわないと説明が難しいな。醤油は穀物からできている調味料で少ししょっぱくて、豚骨は動物の骨から取った出汁だね。メープル味は樹液で少し甘い味がするぞ」


「へえ〜じゃあ俺は醤油味とチーズ味にするかな」


「それじゃあ私は豚骨味とメープル味にするわ」


「そしたら俺は豚骨味とメープル味にするかな。少しずつ分けようぜ」


「オッケーだ。相変わらず購入制限はあるけれど、気に入ったらぜひ買ってみてくれ」


「はい、こちらです!」


 ロイヤ達はパーティだから、パーティ内で試食品を試せるのは大きいな。インスタントスープと同様に今回販売する商品にも購入制限を付けている。転売防止対策にはこれが一番いい。


「うわっ、なんだこれ!?」


「んん、おいし〜!」


「おお、これはうまい!」


 ロイヤ達の驚きの声を聞きつつ、試食品を配っていった。




「……大変申し訳ありません。ここまでになりますね」


「うおっ!? 目の前ってマジかよ!」


 一応試食用の棒状ラーメンは50人分以上作ったのだが、それでもお店に並んでいるお客さんのほうが多かったようだ。


「栄養食品のほうはまだあるので、こちらのチーズ味かメープル味のどちらかをお選びください」


「うう……それじゃあメープル味でお願いします」


「はい、こちらです!」


「ああ……ありがとう」


 まだ若くて装備品もロイヤ達と同じくらいのだから、たぶんこの人も駆け出し冒険者だろう。フィアちゃんから栄養食品を受け取るが、目の前で終わってしまった試食品である棒状ラーメンをうまそうに食べている前の人を羨ましそうに見つめている。


「うわっ!? こんなにうまいのか!」


「こんな美味しいものが簡単にできるのか! こりゃ買うっきゃないな!」


「うう……」


 そう、ラーメンの美味しそうな香りはこの辺り一面に漂っている。屋台ではないのだが、ラーメンの香りに誘われて通行人がこのお店を見ている。


 たぶん飯屋と勘違いして新しく並び始めた人もいるだろうな。うん、試食品は今日だけだから。この香りは飯テロとなって周りのお店にも迷惑をかけてしまいそうだ。


 ……そしてラーメンを食べれなかったその後ろのお客さん達も、とても羨ましそうに前の列の人達を見ている。早くお店をオープンしてあげるとしよう。

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