第71話 2週目の始まり


「よし、今日はここまでにしておこう」


 時刻は夕方、ドルファの接客練習を始めてから結構な時間が経った。練習の甲斐あって、たった一日でドルファはかなり接客ができるようになっていた。


「大丈夫そうだね、明日からよろしく頼むよ」


「ああ。こちらこそよろしく頼む」


 ドルファだけではなく、リリアやフィアちゃんの練習にもなったので、とても有意義な一日となった。今週の休みは終わってしまったが、新しい従業員も加わったので、明日からの仕事は多少楽になるはずだ。


 後々スローライフを目指すためにも、最初は頑張らないといけない。まあこちとらブラック企業で土日出勤なんて何度やったかわからないから問題ない……


 俺はブラック企業で鍛えられているからいいとしても、従業員のみんなには休日に仕事なんてさせたくないからな。特にリリアは昨日も面接を手伝ってもらっている。来週は必ず休んでもらわないとな。






◆  ◇  ◆  ◇  ◆


「さあ、今日からドルファが加わって従業員が4人になった。オープンしたばかりの先週ほどは忙しくないと思うけれど、先週来てくれたお客さんの噂を聞いて、新しく来てくれるお客さんも大勢いるだろうから、気は抜かないようにね」


「ああ!」


「はいです!」


「了解だ!」


 新しくドルファを従業員に加えての1週間が始まる。1人増えて先週よりは楽になるはずだが、仕事に慣れ始めが一番ミスを犯しやすいとも聞く。一層気合を入れるとしよう。


「よし、それじゃあ店を開けよう!」




「いらっしゃいませ、アウトドアショップへようこそ!」


 うむ、ドルファもいい笑顔である。妹のアンジュさんの友達……いや、女友達を意識してお客さんに向ける笑顔はなかなかのものだ。


 特に女性の冒険者のお客さんは新しいイケメン従業員を横目でチラチラ見ている。おかしいな、俺の時にはあんな反応なかったのにな。やっぱりこちらの世界でもイケメンがモテるのか……


「すみません」


「はい!」


 おっと、いかんいかん。俺も集中しないといけないな。今は女性にモテるよりも、お店を繁盛させることが大事だ。




「はい、銅貨6枚のお釣りです」


「あ、ありがとうございます」


 接客もレジも問題はなさそうだな。今日は俺がドルファについて仕事の様子を見ているが、昨日一日の接客練習でも十分効果はあったようだ。


 それにしても、ドルファの本気の笑顔は眩し過ぎるから、むしろずっと出せなくて良かったのかもしれない。今対応している女性の冒険者さんも少したじろいでいる。


 あまり女性の関心を引き過ぎると、別の問題が起こる可能性が生じるからな。女性客を集めてくれるのは助かるが、女性問題を店に持ち込まれるのは良くない。


 ドルファが女性に関心がなくて、ある意味助かったとも言える。




「やっほ〜テツヤ!」


「今日も結構混んでいるな」


「ああ、おかげさまでな。今日はみんな休みか?」


 ロイヤ達がお店に来てくれたようだ。


「いや、今日は午前中で早めに切り上げてきた。インスタントスープが切れたから補充しにきたんだ」


 なるほど、そういうことか。前回は試しにインスタントスープを全種類買っていたけれど、3人で使っている分消費が早いのだろう。


「あれ、もう新しい店員さんを雇ったんだ?」


「ああ、とりあえずは1週間のお試し雇用になるけどな。元冒険者だから、いろいろと参考になる話を聞けると思うぞ。こっちの3人はニコレ、ロイヤ、ファルだ。3人にはこの店を始める前からいろいろとお世話になったんだよ」


「ドルファだ。今日からこの店で働かせてもらっている。よろしく頼む」


「ええ、こちらこそよろしく!」


「よろしくな!」


「よろしく」


 ロイヤ達と握手をするドルファ。少なくとも3人がこの街にいる間は長く付き合っていくだろうから、このまま仲良くしていってほしいものである。


「ニコレお姉ちゃん、いらっしゃい」


「フィアちゃん! またお買い物に来たよ!」


「………………」


 ニコレのほうは相変わらずだな。イケメンなドルファよりもフィアちゃんと話をしているほうがいいらしい。


「このインスタントスープがあるだけで、昼がだいぶ豪華になるから助かるよ」


「ああ、今度は購入制限のひとり2つずつ買っていくよ」


「それは良かったよ。今後ともよろしく!」


 空になった木筒を受け取って、新しいインスタントスープを渡す。やはりインスタントスープは継続して売れていきそうだ。


「すみません、破れちゃったブルーシートの買い取りをお願いしてもいいですか?」


「はい」


「おっと邪魔しちゃ悪いな。それじゃあまた!」


「ああ、またよろしくな!」


 別のお客さんが来たので、ロイヤ達は帰っていった。知り合いが店に来てくれるのはありがたいものだな。


「はい、ありがとうございます。銅貨5枚で買い取らせていただきます」


 うちのお店では破れたり穴の空いたブルーシートの買い取りを銅貨5枚で行なっている。というのも、元の世界でもそうだが、ブルーシートが捨てられているのを見たことがある人は多いだろう。


 他のキャンプギアと違って、ブルーシートは地面に敷いたり、物を入れて運んだりして使用するので、破損することが多くて特に廃棄されやすい。


 回収したブルーシートは再利用できる部分はいろいろと再利用し、それ以外の部分はランジュさんに頼んで、街から離れたところで魔法により焼却処分してもらう予定だ。


 他にもロイヤ達や知り合いの冒険者にゴミを見つけたらできるだけ回収してもらうように伝えてある。もちろん捨てられたブルーシートを全部回収することなどできはしないが、異世界の自然を汚さないために、できる限りのことはしておきたいからな。

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