第51話 燻製料理


 リリアとフィアちゃんがポトフの準備をしてくれていた間に、俺は俺で別の料理の仕込みをしていた。仕込みといっても食材を切って、並べておくくらいしかしていないけどな。


「よしよし、いい感じの色がついているな。これは燻製料理だよ。試しにいろいろと作ってみたから食べてみよう」


 燻製とは食材に木材などを燃やした煙で燻して水分を飛ばし、独特の風味をつけて保存性を持たせたものだ。アウトドアショップがレベルアップした時に、燻製をするのに必要なスモークウッドとスモークチップが購入できるようになっていた。


 スモークウッドの方は加工した木の塊となっており、一度火をつけるとしばらくの間煙を出し続けて、低温で長時間燻し続けてくれる。スモークチップは木の破片のようなもので、炭やバーナーなどで熱し続けないといけないが、高温により短時間で燻すことができる。


 今回はスモークウッドを使って、じっくりと長時間燻す温燻を選んだ。ちなみに短時間で一気に燻す場合には熱燻という。木の種類もサクラやリンゴやクルミやブナなど様々なものがあるが、これはたぶん定番のサクラだろう。少なくとも現在のアウトドアショップのレベルでは一種類しか選べなかった。


「今回はチーズとベーコン、ナッツ、魚の干物を適当に入れてみたから試してみてよ」


 本当は定番の煮たまごの燻製もほしかったところだが、今回たまごは用意していなかったからまた今度だな。


「ほう、このチーズは独特な香りと風味がついて美味しいな! チーズをそのまま食べるよりも美味しいぞ!」


「こっちのベーコンも美味しいです! 今までに食べたことがない味です!」


「ナッツや干物は酒の肴にピッタリだな。多めに作っておいたし、じっくりと楽しもう」


 今回はひとりでも酒を飲んでしまう。ランジェさんがいないからぬるいお酒ではあるが、この状況で飲むならなんでもうまい。


 一応この世界にも干し肉や燻製肉はあるのだが、基本的には長期間の保存を目的としているので、水分を飛ばしきってパサパサになっている物が多い。それよりも適度な時間で燻すこちらのほうが間違いなく美味しい。


 とはいえ、スモークウッドやスモークチップをお店の商品として売るには少し弱い気がするので、お店には並べないつもりだ。冒険者なら燻製するにしても保存目的だし、さすがに燻製をするための木材を選ぶまではしないだろう。


「こんな感じで俺の休みは時間のかかる料理を作ったりして、のんびり過ごすんだよ」


「ふむ、そういうことか。あえて時間や手間のかかる料理をするのもいい気分転換になるのだな」


「みんなでお料理して、美味しいご飯を食べるのはとっても楽しかったです!」


 これで少しくらいはキャンプの楽しさやキャンプ飯の美味しさを2人にも伝えられただろう。本当はテントで一泊してこそキャンプとも言えなくはないが、俺がこの世界に持ってきたテントひとつしかない。……俺はひとつのテントでも全然いいんだけどな。






◆  ◇  ◆  ◇  ◆


 昨日はお店の裏庭でのんびりと過ごした。やっぱりたまには、仕事のことを完全に忘れてのんびりと過ごすのはいいよな。お店を開いてからも、元の世界と同じで7日に2日は休みにする予定だ。仕事というものはメリハリが大事である。


「よし、それでは行くとしよう」


「うん、よろしくね」


「楽しみです!」


 昨日は俺の休日の過ごし方をリリアとフィアちゃんにも楽しんでもらったので、今日の休みはリリアの休日の過ごし方を教えてもらうことになった。リリアの普段の休みは冒険者に関連する場所を巡るだけだと言っていたが、冒険者が普段どんな場所に行くのかも個人的には興味があった。


 冒険者関連の場所を巡るということと、街中を俺やフィアちゃんと巡るため、リリアは武器を持った冒険者スタイルだが、この服装はこの服装で似合っている。


「まずはどこに行くの?」


「そうだな、普段は鍛冶屋に行って武器のメンテナンスをしていることが多いな。しかし鍛冶屋なんかに行っても面白くないと思うぞ」


「そんなことないよ。むしろ鍛冶屋なんて男としたらめちゃくちゃ興味がある場所だよ!」


「フィアもとても楽しみです!」


 男たるもの武器というものには、非常に強い憧れがあるものだからな。日本刀とか売っていたりしないかなあ。




「ここがこの街で普段私が利用している鍛冶屋だ。アレフレアの鍛冶屋の中でも、一二を争うほどの腕を持った鍛冶師達がいる」


 やってきたのはなかなか大きな建物で、煙突からはモクモクと黒い煙が立ち上っている。とうやら駆け出し冒険者が集まる始まりの街の中でも、有名な鍛冶屋らしい。建物の中に入ると、扉を開けた瞬間に熱気が肌へと伝わってきた。


「いらっしゃいませ、グレゴ工房へようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 工房の中へ入ると、人族の女性が出迎えてくれた。鍛冶屋というからにはドワーフの男しかいないかと思っていたのだが、そうでもないらしい。奥のほうには槌をふるい、カーンカーンと良い音を立てて、武器を打つドワーフ達の姿があった。


「武器の手入れをお願いしたいのだが、親方はいるか?」


「リリア様ですね。いつもありがとうございます。少々お待ちください」


 どうやら受付の女性はリリアを知っているようだった。やはりこの街でBランク冒険者というのはかなり有名なようだ。

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