第20話 1日目の売り上げ


 最後にいろいろとあったが、無事にお店の1日目を終えた。


 店が終わったあと、両隣のお店に騒がしくして申し訳ないと伝えに行ったところ、むしろいつもより売り上げが多かったと逆にお礼を言われてしまった。両隣のお店は服を売っていて売る物が被らなかったのは幸いだったな。


 さあて、これからは楽しい楽しい売り上げ金額の確認タイムである。さすがに店を開いている時は何をいくつ売ったか数えている暇はなかったのだが、このアウトドアショップの能力には購入経歴が見られるようになっていた。宿に戻ってこの店の美味しい料理やお酒を楽しんだあとに部屋へと戻る。


「さてさて、昼過ぎから夕方くらいまでだから、実働時間は4〜5時間てところか。……というかファイヤースターターを3つ売っただけで、もう十分な利益なんだよな」


 ファイヤースターターと麻紐の仕入れ値が銀貨4枚で売値が金貨2枚だから、これを3つ売っただけで金貨4枚と銀貨8枚もの儲けになる。ぶっちゃけ、これを売っただけで1日の稼ぎとしては十分である。


「それと折りたたみスプーンとフォークとマグカップはセットで12個ほど売れて約金貨1.8枚分の儲け。カラビナは20個近く売れて約金貨1枚分の儲け。最後に方位磁石が30個近く売れて約金貨3枚分の儲け。全部合わせて金貨10.6枚の儲けか。


 うん、初日にしてはかなりいい感じだぞ! 屋台のレンタル代や宿代と食事代を引いたとしても金貨9枚分近くの利益だ!」


 時給換算したら2万円近くいくんじゃないかな。しかも店を昼過ぎからオープンしているから、元の世界のブラック企業で働いていた時よりも格段に楽だ。


「次のレベルアップまでまだ先は長いけれど、これなら10日も掛からずに次のレベルまで上がれるな」


 アウトドアショップの左上には、残りレベルアップまであと金貨46.8枚と表示されている。今回は以前にLV2へ上がる際に金貨5枚分のキャンプギアを購入していたから、新たに購入したキャンプギアは少なく、経験値はあまり得られていない。


 しかし明日からは新たにキャンプギアを仕入れるため、経験値もより稼げるようになってくる。このペースでいけば10日も掛からずに次のレベルまで上がれそうだ。


 いや、今日来てくれたお客さんが他のお客さんを連れてきてくれたり、リリアが紹介してくれたお客さんが来てくれるなら、もっと早くレベルアップできるかもしれない。次のレベルアップはどんな商品が増えるのかな。方位磁石みたいな駆け出し冒険者に役立つキャンプギアならいいんだけどな。


「あと明日からは人を雇ってみるか。リリアに教えてもらった通り、朝に冒険者ギルドに行って、日雇いの従業員を探してみよう」


 今日の時点で少し人手は足りないと思っていた。明日はお客さんがさらに増えるなら、もうひとりくらい人手はあったほうがいい。リリアは半日で銀貨5枚くらいと言っていたな。明日冒険者ギルドに行った時に確認してみるとしよう。






 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆


 さて、今日も頑張って稼ぐとしますかね!


 今日は朝から従業員を雇うために冒険者ギルドへ向かう。昨日はそれもあって早めに寝たから、朝がそこそこ早くてもなんとか起きることができた。


「あら、今日は早いんですね」


「ええ、今日は朝から冒険者ギルドに行ってきますので」


「お兄ちゃん、行ってらっしゃい!」


「うん、行ってきます!」


 アルベラちゃんに見送られて宿を出る。うん、今日はいいことがありそうだ。毎晩のご飯は美味しいし、いろいろと仕入れたキャンプギアを持っての移動が手間なので、結局ずっとこの宿に泊まっている。


 昨日は角ウサギのシチューが出てきて美味しかったなあ。元の世界でウサギの肉は食べたことはなかったけどあんな味なのかもしれない。あとは酒さえキンキンに冷えていれば言うことなしなんだよなあ。




「お兄ちゃん、お花はいりませんか?」


 冒険者ギルドへ向かう途中、お花を売っている女の子がいた。このアレフレアの街では物価が安くて、人々は暮らしやすくなっている。しかし、それでも生活に苦しい人達はおり、子供達が働かなければならなかったりもする。


 ちなみに今泊まっている宿は別にお金に困っているわけではないのだが、アルベラちゃんを客引きにするとお客さんの入りが良くなるそうだ。……しかもアルベラちゃんに男の人をお兄ちゃん呼びするように教えたのは女将さんらしい。男心を分かっていやがる……


「それじゃあ10本もらおうかな」


 前もお昼くらいには何人か花を売っている子供達がいたけれど、お花は買わなかった。昨日は十分に稼いだし、少しくらいお金のない子供達に貢献してもいいだろう。それにせっかくならお店の屋台に飾っておいてもいいな。


 もちろんこんなことをしたってこの女の子も大したお金を得るわけでもないし、他にお金に困ってお花を売っている子供達も大勢いる。たとえこれが偽善と言われても関係ない。偽善上等、やらない善よりやる偽善だ。これからはお金に余裕もできてくるし、子供達が花を売っているのを見かけたら買ってあげるとしよう。


「10本も!? お兄ちゃん、本当にありがとうございます! 銀貨1枚になりま……あれっ、あの時のお兄ちゃん!」


「ん? え〜と……」


「あっ、そっか。これでわかりますか?」


「ああ、あの時道でぶつかっちゃった!」


 花を売っていた女の子がかぶっていたフードを外すとそこには茶色いケモミミが、後ろを向くと大きくて立派なフサフサとしたキツネの尻尾が揺れていた。この前道でぶつかって、落としてしまったパンの代金を払ってあげた女の子だった。

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